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ミス・マープルを読む順番 ―全12長編+短編集の刊行順一覧と、最初の一冊・最後の一冊の決まり

ミス・マープルの長編は全12作。刊行順の一覧と、『牧師館の殺人』から入って『スリーピング・マーダー』で終える理由、続けて読むべき2作の組み合わせを、仕掛けに触れずに案内します。

目次

セント・メアリ・ミード村の老婦人、ミス・マープルが探偵役を務める長編は、1930年の『牧師館の殺人』から1976年の『スリーピング・マーダー』まで、全12作。ポアロの33作に比べれば数は少ないものの、46年にわたって書き継がれたので、順番の迷いは同じように起こります。

決まりは、ポアロと同じ二つだけです。最初は『牧師館の殺人』、最後は『スリーピング・マーダー』。 それに加えて、マープルには「続けて読むと一段深くなる二作」があります。このページでは、12作と短編集の刊行順を一覧にし、最初と最後を守る理由、そして続けて読むべき組み合わせを紹介します。

こんな読者のための一冊たち

  • 『予告殺人』や『パディントン発4時50分』を読んで、次を決めたい
  • 全部読むつもりなので、抜けのない刊行順の一覧がほしい
  • ポアロは読んだが、マープルはどこから入ればいいかわからない
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。

全12長編+短編集の刊行順 早わかり

年は原書の刊行年です。短編集『火曜クラブ』は長編第1作と第2作のあいだに刊行されたので、その位置に入れています。

順書名原書年ひとこと
1牧師館の殺人1930長編第1作。セント・メアリ・ミード初登場
―火曜クラブ(短編集)1932安楽椅子探偵としてのマープルの原型
2書斎の死体1942「うちの書斎に死体があるのよ」
3動く指1942小村に降りそそぐ匿名の脅迫状
4予告殺人1950地方紙に載った殺人の告知。50作目記念
5魔術の殺人1952旧家と更生施設
6ポケットにライ麦を1953「6ペンスの歌」の見立て
7パディントン発4時50分1957並走する列車の窓越しに殺人を目撃
8鏡は横にひび割れて1962後期最良のホワイダニット
9カリブ海の秘密1964ラフィエル氏初登場。次作と続けて
10バートラム・ホテルにて1965完璧すぎる老舗ホテル
11復讐の女神1971ラフィエル氏の遺言から。前作の続き
12スリーピング・マーダー1976マープル最後の事件。必ず最後に

読み方の決まりは二つ、それに組み合わせが一つ

一つ目。最初は『牧師館の殺人』から。 マープル長編の最高峰と名高いのは『予告殺人』で、第1作が全員の認める傑作というわけではありません。それでも、舞台となる村セント・メアリ・ミードが初めて読者の前に姿を現すのは、この一冊です。村の人間関係、牧師館の暮らし、そして観察と類推で真相に至るマープルの型。あとの11作で何度も戻ってくる場所を、最初に踏んでおいてください。

二つ目。『スリーピング・マーダー』は必ず最後に。 クリスティーが1940年代に書いて金庫に眠らせ、1976年に刊行された「マープル最後の事件」です。ポアロの『カーテン』と対をなす来歴の作品で、シリーズを締めくくるために書かれています。

組み合わせが一つ。『カリブ海の秘密』のあとに『復讐の女神』。 『復讐の女神』は、亡くなった大富豪ラフィエル氏の遺言から始まります。このラフィエル氏が初めて登場するのが『カリブ海の秘密』で、二人の関係を踏まえて読むと一段味わいが深まります。この二作だけは、刊行順を守ってください。

残りは独立した事件です。どこから読んでも支障はありません。

途中で迷ったら ―節目の6作

牧師館の殺人 表紙

牧師館の殺人(1930・第1作)

語り手は村の牧師レナード・クレメント。妻グリゼルダとの暮らしや教区の人間関係を背景に、村で広く嫌われている教会堂委員プロザロウ大佐が牧師館の書斎で射殺されて発見されます。発見者は牧師自身。大佐は村の多くの人物と諍いを抱えており、容疑者となりうる人物が次々に立ち上がります。

マープルは1927年から雑誌の短編で先に登場しており、本書が長編の探偵役を務めた最初の一冊。ドロシー・L・セイヤーズが賞賛したことでも知られます。

火曜クラブ 表紙

火曜クラブ(1932・短編集)

村の客間に集う面々が順に未解決事件を語り、参加者がその場で推理を披露し合う連作形式。観察と類推だけで真相に到達するマープル像は、この短編集で原型を得ています。1927年から1931年に各誌で発表された13編をまとめたもので、長編第1作の直後に読むと、マープルという探偵の骨格がよく見えます。

予告殺人 表紙

予告殺人(1950・第4作)

戦後英国の架空の村チッピング・クレグホーン。地方紙の個人広告欄に「殺人をお知らせ申しあげます。十月二十九日金曜日、午後六時三十分より、リトル・パドックスにて」という広告が載ります。いたずらか本気か訝しみつつ屋敷に村人が集まり、時計が六時半を打った瞬間、灯りが落ち、闇のなかで銃声が響く。

クリスティー生涯50作目の記念として送り出された、マープルものの最高峰と名高い一作。第1作のあと、まず一番いいものを、という人はここへ。

パディントン発4時50分 表紙

パディントン発4時50分(1957・第7作)

マープルの旧友マギリカディ夫人が、パディントン発4時50分の列車で、並走しはじめた別の列車の車室越しに、男が女の首を絞めるのを目撃します。通報しても死体も被害届も見つからず、警察は信じない。ただひとり親友の話を疑わなかったマープルは、地理と時刻表から死体の在処を割り出し、有能な家政婦ルーシー・アイルズバロウをラザフォード・ホールへ送り込みます。

後期の代表作。マープル本人は動かず、若い代理人を現場に送るという後期の型が、もっとも鮮やかに決まった一冊です。

鏡は横にひび割れて 表紙

鏡は横にひび割れて(1962・第8作)

セント・メアリ・ミードに新興住宅地の波が押し寄せ、村の旧家ゴシントン・ホールにハリウッドの大女優マリーナ・グレッグが越してきます。歓迎パーティで、地元の世話好きな婦人ヘザー・バドコックがカクテルを飲んだ直後に急死。毒が本当に狙っていたのは誰なのか、なぜ標的でないはずのヘザーが死んだのか。

題はテニスンの詩「シャロットの女」の一節から。後期クリスティーを代表するホワイダニットで、第1作の村がどう変わったかを見届ける意味でも、刊行順で読む価値があります。

スリーピング・マーダー 表紙

スリーピング・マーダー(1976・第12作)

ニュージーランドから英国に渡ってきた若妻グウェンダ・リードが、海辺の町で買ったヴィクトリア朝風の家に、初めて訪れたはずなのに既視感を抱きます。やがてロンドンの劇場で観た芝居の台詞をきっかけに、忘れていた幼い日の記憶が噴き出す。「ヘレン」という女性が殺される光景。グウェンダはマープルに相談し、二人で18年前の殺人に挑みます。マープルは「眠れる殺人を起こすな」と繰り返し警告します。

これ以上は書きません。シリーズを読み終えてから開いてください。

残りの7作

  • 書斎の死体(1942)― 大佐邸の書斎で、見知らぬ若い女が銀のスパンコール・ドレスのまま倒れている。「書斎の死体」は探偵小説のクリシェだと序文で宣言したうえで挑んだ一冊。 ▶ レビュー »
  • 動く指(1942)― デヴォンの小村リムストックで、毒のある匿名の手紙が村中に配られ、疑心暗鬼が広がる。マープルの登場は終盤。 ▶ レビュー »
  • 魔術の殺人(1952)― 旧友の懇願でマープルが訪れる旧家ストーンゲイツ。隣接する少年更生施設と複雑な血縁の人々。 ▶ レビュー »
  • ポケットにライ麦を(1953)― 実業家が朝の紅茶の直後に役員室で急死。上着のポケットからは一掴みのライ麦。「6ペンスの歌」をなぞる見立て。 ▶ レビュー »
  • カリブ海の秘密(1964)― カリブ海のリゾートで療養中のマープル。「殺人犯の写真を持っている」と語った退役軍人が翌朝死体で発見される。『復讐の女神』の前に。 ▶ レビュー »
  • バートラム・ホテルにて(1965)― エドワード朝の佇まいを完璧に保つロンドンの老舗ホテル。その完璧さにマープルが抱く微かな違和感。 ▶ レビュー »
  • 復讐の女神(1971)― 故ラフィエル氏の遺言で託された「ある事件の調査」。何の事件かも告げられない依頼と、邸宅巡りのバスツアー参加券一枚。『カリブ海の秘密』のあとに。 ▶ レビュー »

よくある質問

Q. 刊行順に読まないといけない?

A. いいえ。守るのは「最初は『牧師館の殺人』、最後は『スリーピング・マーダー』」と、「『カリブ海の秘密』のあとに『復讐の女神』」の三点だけです。あとは独立した事件なので、舞台や気分で選んでください。

Q. マープルは短編から入るべき?

A. どちらでも構いません。長編第1作『牧師館の殺人』から入るのが基本ですが、安楽椅子探偵としてのマープルの原型は短編集『火曜クラブ』にあり、こちらから入っても支障はありません。

Q. ポアロとマープル、どちらを先に?

A. 決まりはありません。派手な事件と名探偵の活劇ならポアロ、村の人間模様とさりげない観察ならマープル。ポアロの刊行順は名探偵ポアロを読む順番に、タイプ別の最初の一冊はアガサ・クリスティーおすすめ、最初の一冊の選び方にまとめました。


12作は、そのまま村の46年でもあります。牧師館から始めて、眠れる殺人で終えてください。

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この特集で紹介した本

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牧師館の殺人

アガサ・クリスティー
ミス・マープル長編デビュー作。セント・メアリ・ミード村を初めて舞台に据えた一冊。
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火曜クラブ 表紙画像
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火曜クラブ

アガサ・クリスティー
ミス・マープル初期短編13編。語りを聞くだけで真相に至る、肘掛け椅子探偵の原型。
★ イチオシ#おばあちゃん探偵#通勤30分で1話
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書斎の死体

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動く指

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#村社会・閉鎖共同体
予告殺人 表紙画像
黄金期英国古典

予告殺人

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クリスティ生涯50作目の記念碑として送り出された、マープル物の最高峰と名高い一作。舞台は戦後英国の架空の村チッピング・クレグホーン。地方紙の個人広告欄に「殺人をお知らせ申しあげます。十月二十九日金曜日、午後六時三十分より、リトル・パド...
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魔術の殺人

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ポケットにライ麦を

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#村社会・閉鎖共同体#見立て・暗号
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黄金期英国古典

パディントン発4時50分

アガサ・クリスティー
ミス・マープルの旧友マギリカディ夫人が、パディントン発4時50分の列車に揺られていた時のこと。並走しはじめた別の列車の車室で、ひとりの男が女の首を絞めている――その瞬間を、ガラス越しに目撃してしまう。しかし通報した警察は、死体も被害届...
#村社会・閉鎖共同体
鏡は横にひび割れて 表紙画像
黄金期英国古典

鏡は横にひび割れて

アガサ・クリスティー
セント・メアリ・ミードに越してきたハリウッドの大女優マリーナ・グレッグ。歓迎パーティで、地元の婦人ヘザー・バドコックがカクテルを飲んだ直後に急死――誰が見ても標的はマリーナだったはずなのに。タイトルはテニスン詩「シャロットの女」の一節...
#村社会・閉鎖共同体#おばあちゃん探偵
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カリブ海の秘密

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カリブ海セント・オノレ島のリゾート、ゴールデン・パーム・ホテル。甥のレイモンドの好意で病後の療養に訪れたミス・マープルが、椰子の葉ずれと潮騒に身を預けるところから物語は始まる。退役軍人パルグレイヴ少佐がマープル相手に長広舌をふるい「殺...
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バートラム・ホテルにて

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ロンドンの一角、エドワード朝の佇まいをそのまま閉じ込めたかのような老舗ホテル「バートラム」。重厚な木の調度、暖炉の前で供される完璧なマフィン、白髪の紳士と気品ある淑女たち。甥レイモンドからの贈り物で二週間滞在に訪れたミス・マープルは、...
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復讐の女神

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スリーピング・マーダー

アガサ・クリスティー
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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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