金田一耕助シリーズを読む順番 ―『本陣殺人事件』から『悪霊島』まで、長編12作の刊行順一覧
横溝正史の金田一耕助シリーズ、当サイトで書評のある長編12作を雑誌連載の順に一覧にしました。最初は『本陣殺人事件』、最後は『病院坂の首縊りの家』という二つの決まりと、途中で迷わないための節目の作品を、仕掛けに触れずに案内します。
横溝正史の金田一耕助シリーズは、1946年に雑誌『宝石』で連載が始まった『本陣殺人事件』を出発点に、作者が世を去る前年の1980年まで書き継がれました。長編も中短編も数が多く、映画やドラマで題名だけ知っている作品も少なくないはずです。どこから読むか、どの順で読むかで迷うのは当然です。
結論から言えば、決まりは二つだけです。最初は『本陣殺人事件』、最後は『病院坂の首縊りの家』。 そのあいだは、気になった舞台から自由に選んで構いません。このページでは、当サイトで書評のある長編12作を雑誌連載の順に並べ、「最初と最後」を守るべき理由を説明し、途中で迷わないための節目の作品を紹介します。
こんな読者のための一冊たち
- 映画やドラマで『犬神家の一族』や『八つ墓村』を知っているが、原作はどこから読めばいいか決めたい
- 金田一耕助ものを順に読みたいので、連載順の一覧がほしい
- 『病院坂の首縊りの家』や『悪霊島』が「最後」と聞いたが、どちらを最後にすべきか知りたい
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。
長編12作の刊行順 早わかり
順番は雑誌連載の開始時期に合わせました。年の欄は初出の年です。現行版はいずれも角川文庫で読めます。
| 順 | 書名 | 初出 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 1 | 本陣殺人事件 | 1946 | 『宝石』連載。金田一耕助の初登場作。第1回探偵作家クラブ賞 |
| 2 | 獄門島 | 1947 | 『宝石』1947年1月号〜1948年10月号。瀬戸内の孤島と俳句の見立て |
| 3 | 夜歩く | 1948 | 『男女』1948年2月〜1949年12月。奇妙な手紙が呼び込む惨劇 |
| 4 | 八つ墓村 | 1949 | 『新青年』1949年3月〜。落武者の祟りが語り継がれる因習の村 |
| 5 | 犬神家の一族 | 1950 | 『キング』1950年1月号〜1951年5月号。信州の財閥と遺言状 |
| 6 | 女王蜂 | 1951 | 『キング』1951年6月〜1952年5月。伊豆の孤島で育った美少女と脅迫状 |
| 7 | 悪魔が来りて笛を吹く | 1951 | 『宝石』1951〜1953年。戦後の東京、没落した子爵家 |
| 8 | 三つ首塔 | 1955 | 『小説倶楽部』1955年。ヒロインの手記で語られる異色作 |
| 9 | 悪魔の手毬唄 | 1957 | 『宝石』1957〜1959年。手毬唄に見立てた連続殺人 |
| 10 | 迷路荘の惨劇 | 1956/1975 | 1956年の短編を1975年に長編化。富士山麓の迷路のような屋敷 |
| 11 | 病院坂の首縊りの家 | 1975 | 『野性時代』1975〜1977年。作中の時系列で金田一最後の事件 |
| 12 | 悪霊島 | 1980 | 『野性時代』連載。横溝正史が最後に書き上げた長編 |
読み方の決まりは二つだけ
一つ目。最初は『本陣殺人事件』から。 私立探偵・金田一耕助が初めて姿を見せる作品で、1948年に第1回探偵作家クラブ賞の長編部門を受賞しました。シリーズのなかでは短く、密室トリックに正面から挑んだ端正な一作なので、横溝の濃い怪奇色に身構えている人にも入りやすい。金田一耕助という人物の出発点を、最初に押さえておく意味は大きいです。
もし「代表作から入りたい」なら、第2作の『獄門島』でも構いません。週刊文春の「東西ミステリーベスト100」国内編で1985年版・2012年版いずれも1位に選ばれた作品で、こちらから入っても筋の理解に支障はありません。
二つ目。『病院坂の首縊りの家』は最後に。 昭和28年の事件が迷宮入りし、20年後にふたたび動き出す上下巻の長編で、作中の時系列では金田一耕助の最後にあたる事件です。刊行順ではこのあとに『悪霊島』が出ていますが、『悪霊島』の作中年代は昭和42年で、『病院坂』の後半より前の出来事。「金田一耕助の最後」として読むなら、『病院坂の首縊りの家』を最後に残してください。
この二つを守れば、あいだの作品はどこから読んでも支障はありません。各作は独立した事件で、前作を知らないと分からない筋はほぼないからです。順番に迷ったら、次の節目の作品から選んでください。
途中で迷ったら ―節目の5作
本陣殺人事件(1946・第1作)
江戸時代に宿場の本陣を務めた旧家・一柳家の婚礼の夜。深夜に悲鳴と琴の音が響き、新床で新郎新婦が血にまみれて見つかります。密室トリックに挑んだ長編で、私立探偵・金田一耕助が初めて姿を見せる一作。1946年の『宝石』連載を経て、1948年に第1回探偵作家クラブ賞の長編部門を受賞しました。「東西ミステリーベスト100」2012年版では国内編10位。
獄門島(1947・第2作)
復員船のなかで死んだ戦友・鬼頭千万太の遺言を届けるため、金田一耕助は瀬戸内海の孤島・獄門島を訪れます。網元・鬼頭家の三人の妹たちをめぐって、不穏な事件が連鎖する。俳句の見立てを用いた戦後本格の代表作で、「東西ミステリーベスト100」国内編では1985年版・2012年版とも1位。この作品単独で完結しているので、ここから入っても問題ありません。
犬神家の一族(1950・第5作)
信州の那須湖畔に居を構えた犬神財閥の当主・犬神佐兵衛が遺した遺言状。その公開をきっかけに、複雑な血縁を抱えた一族のなかで事件が連鎖します。1976年に市川崑監督・石坂浩二主演で映画化され、2006年には同じ監督・主演でリメイクされた、シリーズでもっとも知られた一冊でしょう。映像で題名を知っている人が原作に入る入口として、いちばん分かりやすい。
悪魔の手毬唄(1957・第9作)
岡山・兵庫県境の山村・鬼首村。土地に伝わる手毬唄の歌詞どおりに、死体が異様な構図をとらされた殺人が起こり、真相を探るうちに20年前に迷宮入りになった事件が浮かび上がります。横溝本人が「自分の最高作」と語った作品で、「東西ミステリーベスト100」国内編の常連。見立て殺人と村の因習という、横溝の持ち味がもっとも濃く出た一冊です。
病院坂の首縊りの家(1975・第11作)
昭和28年、東京・高輪。写真館の長男が結婚記念写真の撮影に呼ばれた先は、かつて女が首を縊ったといういわくつきの家でした。そこで見つかったのは、ぶら下がった男の生首。事件は迷宮入りし、20年後にふたたび動き出します。上下巻の二部構成で、戦後まもない時期と20年後の日本が同じ一族を通して重ねられる、横溝後期の大作。作中の時系列で金田一耕助の最後にあたる事件です。必ず最後に。
残りの7作を、ひとことずつ
- 夜歩く(1948)― 古神家の令嬢・八千代のもとに、奇妙な手紙と一葉の写真が舞い込む。端正な前二作とは対照的に、戦前作ゆずりの妖しさと押しの強さで読ませる長編第3作。 ▶ レビュー »
- 八つ墓村(1949)― 戦国落武者八人の祟りが語り継がれる因習の村で起きる連続殺人に、村へ呼び戻された青年が巻き込まれる。1938年の津山事件を下敷きにした怪奇色の濃い大作。1977年と1996年に映画化。 ▶ レビュー »
- 女王蜂(1951)― 伊豆の孤島・月琴島で育てられた大道寺智子に、不気味な脅迫状が届く。護衛を依頼された金田一耕助の目の前で惨劇が起こり、19年前の実父の変死事件が影を落とす。 ▶ レビュー »
- 悪魔が来りて笛を吹く(1951)― 毒殺事件の容疑者となった椿元子爵が失踪して以来、椿家では惨劇が続き、背景に物悲しいフルートの音色が流れる。戦後の東京に旧華族の没落を据えた、田舎の因習ものとは手ざわりの異なる一冊。 ▶ レビュー »
- 三つ首塔(1955)― 百億円に近い遺産を受け継ぐ条件として見知らぬ男との結婚を告げられた宮本音禰が、還暦祝いの席で起きた三重殺人に巻き込まれる。ヒロイン自身の回想手記で語られ、名探偵の出番はむしろ少ない異色作。 ▶ レビュー »
- 迷路荘の惨劇(1975)― 富士山の裾野に建つ入り組んだ造りの別荘で、伯爵の孫が殺される。原型は1956年の短編「迷路荘の怪人」で、加筆・修正を経て1975年に長編として刊行。 ▶ レビュー »
- 悪霊島(1980)― 昭和42年、人捜しを依頼された金田一耕助は岡山で磯川警部と再会する。瀬戸内の刑部島に悪霊の伝説と開発計画が交差する、横溝正史が最後に書き上げた長編。 ▶ レビュー »
よくある質問
Q. 刊行順に読まないといけない?
A. いいえ。守るのは「最初は『本陣殺人事件』、最後は『病院坂の首縊りの家』」の二つだけで、あいだの作品は独立した事件です。舞台や気分で選んでください。
Q. 『悪霊島』と『病院坂の首縊りの家』、どちらが最後?
A. 刊行順では『悪霊島』(1980)が最後で、横溝正史が最後に書き上げた長編です。ただし作中の時系列では、昭和28年の事件が20年後に動き出す『病院坂の首縊りの家』が金田一耕助の最後の事件にあたります。読む順番としては、『悪霊島』のあとに『病院坂』で締めてください。
Q. 映画やドラマを見てから原作を読んでも大丈夫?
A. 映像で結末を知っている作品は、真相の驚きは薄れます。それでも、横溝の文章が運ぶ土地の空気や、見立てと因習の組み立ては原作でしか味わえません。まだ映像を見ていない作品を先に原作で読み、見た作品は後回しにするのが無難です。
Q. 短編や中編は読まなくていい?
A. 金田一耕助ものには中短編も多くありますが、長編12作だけでシリーズの骨格はつかめます。当サイトで書評があるのはこの12作です。
最初の一冊と最後の一冊さえ決まれば、あとの10作は自由です。一柳家の婚礼の夜から始めて、病院坂の20年で終えてください。
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