現代国内 2012
客六人の仮面に鍵。
死体には頭と指が無い。
『奇面館の殺人』綾辻行人

書評

奇面館の殺人

施錠された仮面をかぶった六人と、雪に閉ざされた館。館シリーズ第九の惨劇。

奇面館の殺人 表紙画像
綾辻行人 講談社(講談社文庫)2012年
目次

季節外れの吹雪で孤立した館、奇面館。主人・影山逸史に招かれた六人の客は、それぞれの仮面を被らされました。

しかもその仮面には、鍵がかけられている。『奇面館の殺人』は、館シリーズの第九作にあたる長編です。

主人の〈奇面の間〉に転がっていたのは、頭部と両手の指を切り落とされた凄惨な死体。顔を隠された六人と、顔と指を奪われた死体。

その異様な状況のなかで、名探偵・鹿谷門実の推理が始まります。デビュー作から二十五年、館という器で謎の形を試し続けてきた作家が、この一冊で選んだ器は「顔」でした。

物語の入り口

季節外れの吹雪が、館を孤立させます。奇面館。

主人の影山逸史は、六人の客を招いていました。そして客たちは、それぞれの仮面を被らされる。

ただ被るのではありません。仮面には、鍵がかけられている。

六人の顔が、鍵のかかった仮面の下に隠されます。

吹雪で外界から切り離された館のなかで、鍵のかかった仮面に顔を隠された六人が過ごす。その状況のもとで、事件が起こります。

主人の〈奇面の間〉に転がっていたのは、頭部と両手の指を切り落とされた凄惨な死体でした。顔を隠された六人と、顔と指を奪われた死体。

この配置を聞いただけで、問いの形は見えてくるはずです。誰が誰なのか。

古典本格の盤面が、ここにはきちんと揃っています。閉ざされた館、限られた顔ぶれ、凄惨な死体。

人物を特定するという、ミステリのいちばん古い作業が、ここでは最初から問われています。手がかりを積み上げて、一人ずつ確かめていく。

シリーズを通じて顔を出してきた名探偵・鹿谷門実の推理は、その作法を踏んで進みます。

読者は、仮面を被った六人の客と同じ屋根の下に閉じ込められます。向かいに座っている人が誰なのか、確信が持てない。

自分の顔も、相手には見えていない。吹雪のなか、館からは出られない。

その状況で、〈奇面の間〉の死体を前に、推理が始まります。分量はありますが、館へ着いてからの二日間に出来事が凝縮されているので、読み進める速度は落ちません。

読みどころ

顔を隠された六人と、顔と指を奪われた死体。誰が誰であるかという問いが、手がかりを積み上げる古典的な謎解きの作法で詰められていきます。

館シリーズは、館という器を使って、そのつど違う謎の形を試してきました。第九作で選ばれた器は、顔です。

仮面に鍵がかかっているという状況は異様ですが、そこから先の推理は、手がかりを積み上げて人物を特定していく、いちばん古い本格の作法で進みます。

もうひとつは、シリーズ第九作という位置です。デビュー作から二十五年、館は一作ごとに違う謎の形を背負いながら書き継がれてきました。

本作はその積み重ねの上に建った館で、しかも読み方としては、ここから入っても差し支えない。講談社文庫で全14冊に及ぶ連作の途中から開いても、吹雪の奇面館に着いた時点で盤面はひととおり揃います。

館シリーズを追ってきた人にも、初めて開く人にも、それぞれの読み応えが用意されています。

こんな人におすすめ

雪に閉ざされた館で、顔の見えない六人を相手に、人物特定という古典的な謎解きを腰を据えて楽しみたい読者に向いています。館シリーズを順に読んできた人は第九作としてそのまま続けられますし、この一冊からシリーズに入る人にも向いています。

分量は上巻だけで372ページあります。逆に、短く軽い読み物を求める気分のときには、この吹雪の館は少し長く感じられるかもしれません。

作品の背景

綾辻行人は、館を舞台にした連作を、デビュー作から本作まで二十五年にわたって書き継いできました。

本作は2012年1月、講談社ノベルスから刊行されました。館シリーズの第九作にあたり、作中の年代は1993年に置かれています。

手に取るなら

現行版は2015年4月に出た講談社文庫の上下巻で、電子版もあります。シリーズの途中の巻ですが、この一冊から入っても話は追えます。

二冊を手もとに置いて続けて読むのが向いています。上巻を閉じたところで吹雪の館を離れてしまうと、せっかく揃った盤面の緊張がほどけてしまいます。

名探偵・鹿谷門実がシリーズを通じて顔を出してきた人物だ、ということだけ知っておけば十分です。季節外れの吹雪のなか、鍵のかかった仮面を被って、奇面館の客の一人に加わってください。

向かいの席の人が誰なのか、最後まで確かめながら。

綾辻行人について

綾辻行人は1960年、京都市の生まれです。京都大学教育学部に進んで京大推理小説研究会に所属し、のちに妻となる小野不由美と同期でした。

研究会には我孫子武丸や法月綸太郎も在籍しています。大学院在学中の1987年に『十角館の殺人』でデビューし、この一作がのちに「新本格」と呼ばれる流れの起点になりました。

1992年には『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞(長編部門)を、のちには第22回日本ミステリー文学大賞を受けています。

奇妙な館を舞台にした館シリーズを書き継ぐ一方で、囁きシリーズや『殺人鬼』、『Another』、『深泥丘奇談』の連作など、恐怖と怪奇を主眼に据えた作品にも長く取り組んできました。漫画家の楳図かずおを「わが心の師」と公言しており、謎解きの骨組みを組み上げる仕事と、怖さを描く仕事を並行して続けてきた作家です。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
2012
ISBN-13
9784062930833
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · クローズドサークル

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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