ついに世界は終わるのか。
深泥丘奇談・続々
濃霧の夜道、祭礼の神社、深夜のプール。もう一つの京都の連作がここで幕を下ろす。
ありうべからざるもう一つの京都に住まうミステリ作家が、怪異の数々に遭遇する。濃霧の夜道で、祭礼に賑わう神社で、深夜のホテルのプールで。
『深泥丘奇談・続々』は、その連作の第三集にして、最終巻です。2004年から2016年にかけて怪談専門誌『幽』を主な舞台に書き継がれた話が、三冊に分けて収められ、この巻で幕が下りる。
十二年をかけた連作がどこへ着地するのかを、見届けるための一冊です。
物語の入り口
語り手は、これまでと同じ、ミステリ作家の「私」です。住んでいるのは、ありうべからざるもう一つの京都。
第一集で入口に立ち、第二集で地図が広がったあの街に、読者は三度目に足を踏み入れることになります。
入り口となる場面は三つ。濃霧の夜道で。
祭礼に賑わう神社で。深夜のホテルのプールで。
これまでの二冊と同じように、どれも京都で暮らしていれば出会う、ふつうの時間と場所です。霧の夜に道を歩く。
祭りの神社に出かける。深夜にホテルのプールへ降りていく。
そこで「私」は、怪異に遭遇します。霧も祭礼も深夜のプールも、京都の夜の顔をそれぞれ違う角度から見せる場面です。
霧に閉ざされた道、人で賑わう境内、人けのない夜更けの水面。静まり返った場所と人の集まる場所が、隣り合わせに並べられています。
三つの場面は、第一集から続いてきた連作の、最後の巻の入口でもあります。十二年書き継がれてきた話が、この巻で幕を下ろす。
これまで積み上げてきたものが、ここでどこかへ向かっていきます。
読者は、「私」と並んで、濃霧の夜道を歩くことになります。いきなり最終巻から読んでも、話の筋は追えます。
ただし、この連作は積み上げてきたものが効く構造ですから、第一集から順に開いたほうがいい。三冊を通して歩いてきた人にとって、この巻の霧は、ひときわ濃く立ち込めて見えるはずです。
読みどころ
十二年をかけて書き継がれた連作が、この三冊目で幕を下ろします。 第一集で街の入口に立ち、第二集で地図が広がり、そして三冊目で、その街を歩く話が閉じられる。
十二年という時間は、ひとつの連作が書き継がれる長さとしては短くありません。怪談専門誌『幽』に折々に載ってきた話が、ここで最後の一冊にまとまりました。
もうひとつは、これまでの二冊と変わらない、静かな筆致です。濃霧、祭礼、深夜のプール。
道具立ては怪談そのものですが、綾辻行人の筆は最後まで煽りません。淡々と、出会ったものを書き留めていく。
その静けさのまま、連作は終わりへ向かいます。謎解き小説としての満足を求めて開くと、方向が違います。
事件に犯人がいて、探偵が現れて、最後に理屈がつく、という運びではない。その代わりに、三冊を通してしか味わえない手応えが、この最終巻にはあります。
こんな人におすすめ
『深泥丘奇談』『深泥丘奇談・続』と歩いてきた読者に、まず向いています。あの街がどこへ辿り着くのかを、自分の目で確かめたい人のための一冊です。
怪奇と幻想の香りを好み、静かな怪談を好む人にも。京都の街に親しみがあって、その夜道や境内を、ミステリ作家の「私」と並んで歩いてみたい人にも向いています。
連作短編集なので一話ごとに区切って読むこともできますが、最終巻ですから、できれば一気に読み切る時間を確保してください。逆に、はっきりした解決や理屈を求める気分のときには、本作の静けさは物足りなく感じられるでしょう。
それは、この連作の性格です。
作品の背景
綾辻行人が、自分の生まれ育った京都を素材に、怪談専門誌『幽』を主な発表の場として書き継いだのが、この深泥丘の連作でした。連載は2004年から2016年にかけて。
十二年をかけて書かれた話が、第一集『深泥丘奇談』、第二集『深泥丘奇談・続』、そして本作の三冊に分けて収められています。
最終巻の単行本は2016年7月、KADOKAWAの幽BOOKSから。文庫は2019年8月に角川文庫から出て、336ページ。
電子版もあります。第一集と第二集はともに2014年に文庫化されていますから、三冊を揃えるのは難しくありません。
館シリーズとは別の筋で、同じ作家が十二年をかけて書き継いだ連作の、これが三冊目にして最後の一冊です。
手に取るなら
現行版は角川文庫で、336ページ、定価1,056円。第一集と第二集も2014年に角川文庫に入っていますから、三冊を同じ棚に並べて順に開けます。
三冊で閉じる連作の最終巻ですから、できれば第一集から順に。いきなり本作から読んでも筋は追えますが、積み上げてきたものが効く構造なので、三冊を揃えて読むのが正解です。
濃霧の夜道の先で、ありうべからざるもう一つの京都が、どこへ行き着くのか。十二年の連作の幕が下りる瞬間に、立ち会ってみてください。
綾辻行人について
綾辻行人は1960年、京都市の生まれです。京都大学教育学部に進んで京大推理小説研究会に所属し、のちに妻となる小野不由美と同期でした。
研究会には我孫子武丸や法月綸太郎も在籍しています。大学院在学中の1987年に『十角館の殺人』でデビューし、この一作がのちに「新本格」と呼ばれる流れの起点になりました。
1992年には『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞(長編部門)を、のちには第22回日本ミステリー文学大賞を受けています。
奇妙な館を舞台にした館シリーズを書き継ぐ一方で、囁きシリーズや『殺人鬼』、『Another』、『深泥丘奇談』の連作など、恐怖と怪奇を主眼に据えた作品にも長く取り組んできました。漫画家の楳図かずおを「わが心の師」と公言しており、謎解きの骨組みを組み上げる仕事と、怖さを描く仕事を並行して続けてきた作家です。
書誌情報
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