綾辻行人「館」シリーズを読む順番 ―全9作の刊行順一覧と、最初の一冊の決まり
綾辻行人の「館」シリーズは『十角館の殺人』から『奇面館の殺人』まで全9作。刊行順の一覧と、最初は必ず『十角館』から入る理由、長大な『暗黒館』や児童向け叢書の『びっくり館』の位置づけを、仕掛けに触れずに案内します。
綾辻行人の「館」シリーズは、1987年の『十角館の殺人』から2012年の『奇面館の殺人』まで、全9作。どの作にも建築家・中村青司の手がけた奇妙な建物が現れ、そこで惨劇が起こります。四半世紀かけて書き継がれたので、どこから入るか、どの順で読むかは、誰もが一度は迷います。
結論から言えば、決まりは一つだけです。最初は『十角館の殺人』から。 あとは刊行順に進むのが基本ですが、長さや読み味に合わせて飛ばしたり戻ったりしても支障はありません。このページでは、まず9作の刊行順を一覧にし、次に「最初は『十角館』」を守るべき理由を説明し、途中で迷わないための節目の作品を紹介します。
こんな読者のための一冊たち
- 『十角館の殺人』を読んで面白かったので、次にどれを読むか決めたい
- 「館」シリーズを全部読むつもりなので、抜けのない刊行順の一覧がほしい
- 文庫で全4巻の『暗黒館の殺人』や、児童向け叢書から出た『びっくり館の殺人』をどう扱えばいいか知りたい
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。
全9作の刊行順 早わかり
年は講談社ノベルス版の刊行年です。現行版は講談社文庫で、第1作から第6作までは新装改訂版が出ています。
| 順 | 書名 | 年 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 1 | 十角館の殺人 | 1987 | デビュー作。大分県沖の無人島に立つ十角形の館 |
| 2 | 水車館の殺人 | 1988 | 仮面の当主と車椅子。1年前の嵐の夜と現在が交錯 |
| 3 | 迷路館の殺人 | 1988 | 地下の迷路館で、4人の作家が賞金を懸けて競作 |
| 4 | 人形館の殺人 | 1989 | 京都の屋敷に佇む顔のないマネキン。通り魔と脅迫 |
| 5 | 時計館の殺人 | 1991 | 鎌倉の館に108個の時計。日本推理作家協会賞受賞 |
| 6 | 黒猫館の殺人 | 1992 | 記憶を失った老人の依頼。東京から札幌、阿寒へ |
| 7 | 暗黒館の殺人 | 2004 | 九州の湖の小島に建つ漆黒の館。文庫で全4巻 |
| 8 | びっくり館の殺人 | 2006 | 叢書ミステリーランドの一冊。クリスマスの夜の密室 |
| 9 | 奇面館の殺人 | 2012 | 吹雪で孤立した館で、客は鍵のかかった仮面を被る |
読み方の決まりは一つだけ
最初は『十角館の殺人』から。 理由は三つあります。
一つ目は、シリーズの型がこの一冊でできあがっていることです。孤島と奇矯な建物、そこに閉じ込められた少人数という盤面を正面から踏み、「新本格ミステリ」と呼ばれる流れの出発点になった作品です。綾辻行人のデビュー作でもあり、この作品が1987年に出たことで、以後の国内本格の景色が変わりました。シリーズが「ここから始まる」空気を、最初に浴びておく意味は大きい。
二つ目は、以後の作品が『十角館』の出来事を踏まえて書かれていることです。第5作『時計館の殺人』には、角島の十角館で起きた惨劇を知る人物として江南孝明が登場し、第6作『黒猫館の殺人』でも江南が推理作家・鹿谷門実とともに調査を引き受けます。『時計館』は単独でも筋は追えますが、『十角館』を先に読んでおくと、江南という人物の立ち位置がよくわかります。
三つ目は、単純にこの一冊が面白いからです。ここで合わなければ、シリーズ全体も合わない可能性が高い。逆に、ここで騙される気持ちよさを味わえたなら、残り8作は約束された楽しみになります。
『十角館』のあとは刊行順が基本です。探偵役や江南のように複数の作に顔を出す人物がいるので、刊行順に読めば、登場人物の関係を自然に追えます。ただし、各作の事件はそれぞれ独立していて、前作の真相を知らないと分からない筋はありません。長さや気分で順番を入れ替えても構いません。
途中で迷ったら ―節目の4作
十角館の殺人(1987・第1作)
大分県沖の無人島、角島。十角形の館に、大学の推理小説研究会に属する7人が合宿に渡ります。館を設計した建築家・中村青司は、半年前に炎上した青屋敷で焼死したと伝えられていました。孤島、奇矯な建物、外部と断たれた7人。古典的な盤面を正面から踏んだ、綾辻行人のデビュー作です。
1987年9月に講談社ノベルスから刊行。「新本格ミステリ」と呼ばれる流れの出発点になった一冊で、シリーズ全体の出発点でもあります。
時計館の殺人(1991・第5作)
鎌倉の外れに建つ通称・時計館。108個の時計が置かれたこの館に、オカルト雑誌の取材班が入り、惨劇に巻き込まれます。取材班には、『十角館』の惨劇を知る江南孝明が加わっています。時計という設定が物語の隅々まで行き渡り、閉ざされた空間の緊張が最後まで持続します。
1991年に講談社ノベルスから刊行され、翌年の第45回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。シリーズの代表作として挙げられることの多い一冊で、現行の講談社文庫新装改訂版は上下巻です。第1作のあと、まず一冊だけ選ぶならここです。
暗黒館の殺人(2004・第7作)
九州の山深く、湖の小島に建つ漆黒の館。招かれた大学生が、浦登家の奇怪な宴へ足を踏み入れます。怪奇と幻想の意匠を纏いながら、芯は謎解きに据えられた一作で、第5回本格ミステリ大賞小説部門の候補作になりました。
2004年に講談社ノベルスで上下巻、講談社文庫では全4巻。シリーズでいちばん長く、第6作から12年の間隔を置いて出た作品でもあります。読み通す時間がとれないときは、先に第8作・第9作へ進み、腰を据えられる週末にここへ戻るという順番でも構いません。
奇面館の殺人(2012・第9作)
作中の年代は1993年。季節外れの吹雪で孤立した奇面館で、主人・影山逸史に招かれた6人の客は、鍵のかかった仮面を被らされます。〈奇面の間〉で見つかった凄惨な死体を前に、名探偵・鹿谷門実の推理が始まります。
2012年1月に講談社ノベルスから刊行され、2015年4月に講談社文庫で上下巻になりました。当サイトで書評のある館シリーズでは、刊行順で最後の一冊です。閉ざされた館と人数の限られた容疑者という、シリーズの型を正面から踏んだ作で、締めにふさわしい。
残りの5作を、ひとことずつ
- 水車館の殺人(1988)― 仮面をつけ車椅子で暮らす当主・藤沼紀一と、その妻・由里絵が住まう水車館。1年前の嵐の夜と現在とを行き来しながら進みます。探偵役は島田潔。 ▶ レビュー »
- 迷路館の殺人(1988)― 地下に造られた迷路館に招かれた4人の作家が、賞金を懸けてこの館を舞台にした推理小説を書き比べる。競作の始まりが、連続殺人の始まりに重なっていきます。 ▶ レビュー »
- 人形館の殺人(1989)― 飛龍想一が父から受け継いだ京都の屋敷「人形館」。邸内に佇む顔のないマネキン、街で続く通り魔殺人、姿なき脅迫者。想一は旧友の島田潔に助けを求めます。 ▶ レビュー »
- 黒猫館の殺人(1992)― 火災で記憶を失った老人・鮎田冬馬の依頼を、推理作家の鹿谷門実と江南孝明が引き受ける。調査の道筋は東京から札幌、阿寒の森の黒猫館へ。 ▶ レビュー »
- びっくり館の殺人(2006)― お屋敷町の洋館、びっくり館。小学6年生の永沢三知也は館に住む少年と友だちになるが、少年の祖父が演じる腹話術劇は異様なものだった。「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」叢書ミステリーランドの一冊として書き下ろされました。 ▶ レビュー »
よくある質問
Q. 刊行順に読まないといけない?
A. 守るのは「最初は『十角館の殺人』」だけです。あとの8作は事件が独立しているので、長さや気分で入れ替えて構いません。江南孝明など複数の作に出る人物の関係を追いたい人は、刊行順がいちばん自然です。
Q. 『暗黒館の殺人』は飛ばしてもいい?
A. 文庫で全4巻と長いので、後回しにするのはよい手です。ただ、第5回本格ミステリ大賞の候補にもなった力作ですから、時間のとれるときにぜひ。
Q. 『びっくり館の殺人』は子ども向け?
A. 叢書ミステリーランドの一冊として書かれた作品で、主人公は小学6年生です。それでもクリスマスの夜に密室の惨劇が起こる、れっきとした館シリーズの第8作。刊行順どおりの位置で読んで差し支えありません。
Q. 新装改訂版と旧版、どちらを読めばいい?
A. 現行の講談社文庫は、第1作から第6作までが新装改訂版です。これから読むなら、手に入りやすい新装改訂版で問題ありません。
最初の一冊さえ決まれば、あとの8作は自由です。角島の十角館から始めて、吹雪の奇面館まで、中村青司の建てた館を順にめぐってください。
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