教団は警察を呼ばない。
女王国の城
消えた部長を追って踏み込んだ宗教団体の総本部で、学生たちが軟禁される長編。
大学に姿を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは、江神二郎の下宿を訪れます。室内には、神倉へ向かったと思しき痕跡。
とかく噂の神倉へ、なぜ。『女王国の城』は、めざましい成長を遂げる宗教団体〈人類協会〉の聖地、神倉を舞台にした物語です。
様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが、そして就職活動中の望月、織田も同調し、四人はレンタカーを駆って木曾路をひた走る。紆余曲折を経て〈城〉と呼ばれる総本部で江神の安否は確認できたものの、思いがけず殺人事件に直面する。
外界との接触を阻まれ、囚われの身となった一行は、決死の脱出と真相究明を試みますが、その間にも事件は続発する。第8回本格ミステリ大賞に輝いた、江神二郎シリーズの長編第4作です。
物語の入り口
江神二郎が、大学に姿を見せません。推理小説研究会の部長が、いなくなった。
案じた後輩のアリスは、江神の下宿を訪れます。室内には、神倉へ向かったと思しき痕跡がありました。
神倉。めざましい成長を遂げる宗教団体〈人類協会〉の聖地で、とかく噂のある土地です。
なぜ、江神はそこへ向かったのか。
様子を見に行こう、とアリスは考えます。マリアが同調し、就職活動中の望月と織田も加わって、四人はレンタカーを駆って木曾路をひた走ります。
部長を探しに行く、大学生四人の遠出です。紆余曲折を経て、四人は〈城〉と呼ばれる総本部に辿り着き、江神の安否を確認します。
ところが、そこで思いがけず、殺人事件に直面します。しかも一行は、外界との接触を阻まれ、囚われの身となってしまう。
〈人類協会〉は、警察に通報しません。自分たちの手で犯人を突き止める、と宣言する。
閉じ込められた学生たちは、決死の脱出と、真相究明を試みます。その間にも、事件は続発する。
部長の安否を確かめに来た四人は、確かめたその場所から、出られなくなりました。
読者は、宗教団体の総本部という、これ以上ないほど閉ざされた場所に、学生たちとともに閉じ込められます。脱出するのか、解くのか。
二つの課題を同時に抱えたまま、上下二巻の長い時間が流れます。そして、この上下巻にも、読者への挑戦が置かれている。
示された手がかりで、読者にも答えが出せる。作者はそう宣言しています。
読みどころ
読みどころは、教団の総本部に閉じ込められた学生たちが、脱出と真相究明を同時に背負わされる、その二重の圧力にあります。 孤島でも山荘でもなく、めざましい成長を遂げる教団の聖地。
閉じ込める側に明確な意思があり、しかも彼らは警察を呼ばずに自分たちで犯人を突き止めると言う。クローズドサークルの盤面としては、これ以上ないほど圧力の高い設定です。
その圧力のなかで、江神二郎の論理が働きます。
もうひとつは、15年ぶりという事実です。『双頭の悪魔』からこの第4作まで、江神二郎シリーズの長編は15年出ませんでした。
待ち続けた読者の前に置かれたのが、上下巻のこの大作です。本格ミステリ大賞を受け、二つのランキングで1位に入りました。
分量は手強いですが、論理の厳密さは、その分量に見合っています。
こんな人におすすめ
読者への挑戦を真に受けて、自分で考えたい読者に、まず向いています。外界から切り離された教団の総本部を舞台に、上下巻あわせて900ページ近い謎解きにじっくり付き合いたい人にも。
『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』と読んできた人なら、15年の間を置いて届いたこの第4作を、見送る理由はないでしょう。逆に、短く軽い読み物を求める気分のときには、上下巻の重さは手に余るかもしれません。
作品の背景
江神二郎シリーズの長編は、1992年の『双頭の悪魔』から『女王国の城』まで、15年の間隔が空きました。単行本は2007年9月、創元クライム・クラブから507ページ。
文庫は2011年1月に上下巻で、上436ページ、下440ページ。下巻の巻末には著者あとがきと、松浦正人の解説が付いています。
評価は圧倒的でした。2007年の「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で1位、「本格ミステリ・ベスト10」で1位、翌年の「このミステリーがすごい!」で第3位。
そして、第8回本格ミステリ大賞を受賞しています。学生アリスシリーズの全長編には「読者への挑戦」が挿入されていて、本作も例外ではありません。
手に取るなら
現行版は創元推理文庫の上下巻。江神二郎シリーズの第4作ですが、本作単独でも筋は追えます。
とはいえ、江神と四人の後輩の関係を知っているほうが、部長を探しに行く道中の重さが伝わりますから、シリーズを順に読むのがおすすめです。木曾路を走って、神倉へ。
読者への挑戦が来たら、そこで一度、本を閉じてください。
有栖川有栖について
有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。
卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。
作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。
2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。
書誌情報
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