刀城言耶シリーズを読む順番 ―全11作の刊行順一覧と、長編・短編集の並べ方
三津田信三の刀城言耶シリーズは『厭魅の如き憑くもの』から『忌名の如き贄るもの』まで、長編8冊と短編集3冊の全11作。刊行順の一覧と、最初は『厭魅』から入る理由、学生時代の事件を集めた短編集の置き場所、途中から入るなら『山魔』という案内を、仕掛けに触れずにまとめます。
三津田信三の刀城言耶シリーズは、2006年の『厭魅の如き憑くもの』から2021年の『忌名の如き贄るもの』まで、全11作。怪異譚を集めて歩く怪奇幻想作家・刀城言耶が、戦後まもない昭和の山村や島を訪れ、土地の信仰や儀式のさなかに起きる惨劇に行き合います。怪談の恐怖と謎解きの論理を同じ土俵に乗せる、ホラーと本格ミステリの交点にあるシリーズです。
結論から言えば、決まりは一つだけです。最初は『厭魅の如き憑くもの』から。 あとは刊行順に進むのが基本ですが、長編8冊はそれぞれ別の土地、別の事件を扱うので、途中で順を変えても支障はありません。短編集3冊のうち2冊は言耶の学生時代や若い頃の事件を集めたもので、これも好きなところで読めます。このページでは、全11作の刊行順を一覧にし、「最初は『厭魅』」を守る理由と短編集の置き場所を説明し、途中で迷わないための節目の作品を紹介します。
こんな読者のための一冊たち
- 『首無の如き祟るもの』が有名だと聞いたが、いきなりそこから読んでいいのか知りたい
- 怪談と本格推理を一冊で味わえるシリーズを、抜けのない刊行順で読み通したい
- 長編と短編集が入り混じる11冊を、どの順に手に取ればいいか整理したい
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。
全11作の刊行順 早わかり
年は初刊の年です。版元は講談社が中心で、『幽女』と『碆霊』の単行本は原書房から出ました。
| 順 | 書名 | 年 | 形式 | ひとこと |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 厭魅の如き憑くもの | 2006 | 長編 | 2つの旧家が並び立ち、神隠しの絶えない神々櫛村。シリーズの第1長編 |
| 2 | 凶鳥の如き忌むもの | 2006 | 長編 | 瀬戸内海の鳥坏島。秘儀〈鳥人の儀〉の最中、断崖の拝殿から巫女が消える |
| 3 | 首無の如き祟るもの | 2007 | 長編 | 奥多摩の媛首村。双児の十三夜参りを境に、戦中から戦後へ跨る惨劇 |
| 4 | 山魔の如き嗤うもの | 2008 | 長編 | 言耶に届いた一通の原稿から始まる。「本格ミステリ・ベスト10」2009年版 国内1位 |
| 5 | 密室の如き籠るもの | 2009 | 短編4編 | 第1短編集。旧家の蔵座敷で開かれた狐狗狸さんの席と、密室の惨劇 |
| 6 | 水魑の如き沈むもの | 2009 | 長編 | 奈良の山奥で営まれる雨乞いの儀式。第10回本格ミステリ大賞受賞 |
| 7 | 生霊の如き重るもの | 2011 | 短編5編 | 第2短編集。言耶の学生時代の事件を集める |
| 8 | 幽女の如き怨むもの | 2012 | 長編 | 戦前・戦中・戦後、同じ遊廓で繰り返される身投げ |
| 9 | 碆霊の如き祀るもの | 2018 | 長編 | 強羅地方に伝わる四つの怪談をなぞるように起きる連続殺人 |
| 10 | 魔偶の如き齎すもの | 2019 | 短編集 | 第3短編集。若き言耶と、のちの担当編集者・祖父江偲との出会い |
| 11 | 忌名の如き贄るもの | 2021 | 長編 | 真の名を知られてはならぬ習俗の残る集落。第75回日本推理作家協会賞候補 |
読み方の決まりは一つだけ
最初は『厭魅の如き憑くもの』から。 理由は三つあります。
一つ目は、このシリーズの型が第1長編で据えられるからです。怪異の絶えない閉じた土地を怪奇幻想作家が訪れ、まもなく怪死事件が起こる。怪異の恐怖と怪死の謎が同時に進み、怪談で終わらせず論理で解く。この運びを『厭魅』で一度通しておくと、以後の長編で土地や儀式が変わっても、どこを楽しめばいいかが分かります。
二つ目は、言耶という探偵役の人物を、この一冊で知っておきたいからです。怪異譚を集めて歩く作家、という探偵役の立ち位置は、第2作『凶鳥』以降では前提として扱われます。『山魔』のように途中から読んでも入りやすい作はありますが、言耶が何者で、なぜそんな土地にいるのかを最初に見ておくほうが腑に落ちます。
三つ目は、短編集に言耶の若い頃が出てくるからです。第7作『生霊の如き重るもの』は学生時代の事件5編、第10作『魔偶の如き齎すもの』の表題作は、のちに担当編集者となる祖父江偲との出会いを描きます。作家として旅をしている言耶を先に知ってから若い頃へさかのぼるほうが、短編集の読み味が増します。
短編集の置き場所
短編集は第5作『密室の如き籠るもの』、第7作『生霊の如き重るもの』、第10作『魔偶の如き齎すもの』の3冊です。『密室』は長編より助走が短いぶん、怪談と謎解きの距離の近さがはっきり出る一冊で、刊行順の位置で読むと長編の合間の息継ぎになります。『生霊』と『魔偶』は言耶の学生時代や若い頃の事件なので、刊行順どおりでも、長編を読み終えてからまとめてでも構いません。
途中から入るなら『山魔』
第4作『山魔の如き嗤うもの』は、言耶のもとに届いた原稿から物語が動き出す長編で、シリーズを途中から読み始めても入りやすい一冊です。「本格ミステリ・ベスト10」2009年版で国内1位。『厭魅』の昭和の村の空気が重く感じられた人は、いったん『山魔』へ飛んでから戻るという手もあります。
途中で迷ったら ―節目の3作
厭魅の如き憑くもの(2006・第1作)
谺呀治家と神櫛家、2つの旧家が並び立ち、神隠しをはじめとする怪異の絶えない神々櫛村。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こります。怪異の恐怖と怪死の謎が同時に進む、シリーズの第1長編です。
「本格ミステリ・ベスト10」2007年版で国内3位。ホラーと本格推理の交点という、このシリーズの立ち位置がすべて詰まった出発点です。ここから読んでください。
首無の如き祟るもの(2007・第3作)
奥多摩の山村・媛首村。淡首様や首無の化物の伝承が根を張る土地で、3つに分かれた旧家・秘守一族の一守家に生まれた双児の十三夜参りを境に、戦中から戦後へ跨る惨劇が始まります。
第61回日本推理作家協会賞と第8回本格ミステリ大賞の候補となり、2008年の主要な年間ランキングで軒並み上位。「東西ミステリーベスト100」2012年版では国内62位に入りました。シリーズの代表作として名が挙がる一冊ですが、『厭魅』『凶鳥』で型を知ってから読むほうが、怪談と論理の噛み合い方がよく見えます。
水魑の如き沈むもの(2009・第6作)
奈良の山奥、波美地方。水魑様を祀る四つの村で、数年ぶりに風変わりな雨乞いの儀式が営まれます。その日、この地を訪れていた刀城言耶の眼前で不可能犯罪が起こる、というのが発端です。
シリーズ第5長編にあたり、第10回本格ミステリ大賞を受賞。「本格ミステリ・ベスト10」2011年版で国内3位。768ページという分量に、水にまつわる信仰と厳密な謎解きがともに詰め込まれています。『厭魅』から順に来た人が、シリーズ前半の総決算として向き合う一冊です。
残りの8作を、ひとことずつ
- 凶鳥の如き忌むもの(2006)― 瀬戸内海の鳥坏島に伝わる秘儀〈鳥人の儀〉のさなか、断崖絶壁の拝殿から巫女が姿を消す。18年前にも同じ儀式で巫女を含む大勢が行方知れずになっており、島の信仰と過去の因縁が怪談めいた気配を濃くしていきます。人間消失というただ一点の謎で、シリーズの味わいを堪能できる第2長編。 ▶ レビュー »
- 山魔の如き嗤うもの(2008)― 忌み山で無気味な現象が続発し、山魔と呼ばれる正体不明のものが取り沙汰される山村。言耶のもとには、初戸の「成人参り」で禁忌の地に迷い込んだ人物の体験を綴った原稿が届けられます。「本格ミステリ・ベスト10」2009年版 国内1位、第9回本格ミステリ大賞候補。途中から入るならこの一冊。 ▶ レビュー »
- 密室の如き籠るもの(2009)― 第1短編集。表題作の舞台は旧家・猪丸家の蔵座敷で、記憶をなくした女・葦子が始めた狐狗狸さんの席で、密室と化したその部屋に血の惨劇が起きます。ほかに3編を収めた全4編で、表題作は書き下ろし。 ▶ レビュー »
- 生霊の如き重るもの(2011)― 言耶の学生時代の事件5編を集めた第2短編集。表題作では、本人と瓜ふたつの分身「生霊」の目撃談が語り継がれる旧家・谷生家に、戦地から戻った復員兵が絡みます。『凶鳥』特装版に付された「天魔の如き跳ぶもの」も収録。 ▶ レビュー »
- 幽女の如き怨むもの(2012)― 13歳で売られた少女は「緋桜」と名付けられ、苦痛と悲哀の絶えない遊廓に身を置く。戦前・戦中・戦後の三つの時代にわたり、同じ場所で身投げが繰り返されます。第6長編。「ミステリが読みたい!2013年版」国内1位をはじめ、年末ランキングを横断し、第66回日本推理作家協会賞の候補にもなりました。 ▶ レビュー »
- 碆霊の如き祀るもの(2018)― 碆霊様を祀る強羅地方の村々には四つの怪談が伝わり、その筋をなぞるように連続殺人が起きます。死体に残された笹舟、現場となった「開かれた密室」、碆霊様が遣わすという唐食船。怪異の意匠がそのまま謎の部品になる第7長編で、「本格ミステリ・ベスト10」2019年版 国内2位。 ▶ レビュー »
- 魔偶の如き齎すもの(2019)― 所有する者に福と禍を齎すという土偶〈魔偶〉を確かめに、若き言耶が旧家・宝亀家を訪れる表題作は、のちの担当編集者・祖父江偲との出会いも描きます。ほかに3編と、文庫化で加わった「椅人の如き座るもの」を収めた第3短編集。 ▶ レビュー »
- 忌名の如き贄るもの(2021)― 「忌名」と呼ばれる真の名を他者に知られてはならぬという習俗が残る山間の集落。忌名儀礼によって厄を肩代わりさせる風習が続いてきた土地で、ある儀礼の最中に異変が生じます。第75回日本推理作家協会賞候補。現時点でシリーズ最新の長編です。 ▶ レビュー »
よくある質問
Q. 『首無の如き祟るもの』から読んでもいい?
A. 読めます。長編はそれぞれ別の土地の事件なので、筋は追えます。ただ、言耶という探偵役の立ち位置と、怪談を論理で解くというシリーズの型は第1作『厭魅』で据えられるので、『首無』の良さを十分に受け取るには『厭魅』を先に読むのを勧めます。
Q. ホラーが苦手でも読める?
A. 怪異の恐怖はたしかに前面に出ます。ただし怪談で終わらせず、最後は謎解きの論理で決着をつけるのがこのシリーズの型です。本格ミステリ大賞を受けた『水魑』や、「本格ミステリ・ベスト10」で1位の『山魔』が示すとおり、本格として評価されてきた作品群です。
Q. 短編集は飛ばしてもいい?
A. 長編だけでも筋は追えます。ただ『生霊』『魔偶』は言耶の学生時代や若い頃を描く短編集で、長編では見られない探偵役の姿があります。長編を読み終えてからまとめて読むのでも構いません。
Q. 続きは出る?
A. 2021年の『忌名の如き贄るもの』が、現時点でシリーズ最新作です。
最初は『厭魅の如き憑くもの』から、あとは刊行順に。途中が重く感じたら『山魔』へ。神々櫛村の神隠しから、忌名の儀礼まで、昭和の閉じた土地を巡る言耶の旅を順に追ってください。
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