現代国内 2018
村に伝わる怪談を、
連続殺人がなぞっていく。
『碆霊の如き祀るもの』三津田信三

書評

碆霊の如き祀るもの

四つの怪談が伝わる海辺の村で、怪談をなぞるように人が死ぬ。怪異と論理が正面衝突する長編。

碆霊の如き祀るもの 表紙画像
三津田信三 講談社(講談社文庫)2018年
目次

海と断崖に閉ざされた村々。そこでは碆霊様という神が祀られ、海辺の寒村に四つの怪談が伝わっています。

死体に残された笹舟。事件の現場となった「開かれた密室」。

碆霊様が遣わすという唐食船。三津田信三『碆霊の如き祀るもの』は、強羅地方のこの村々を訪れた刀城言耶が、村に伝わる怪談をなぞるように起きた連続殺人事件に遭遇する長編です。

2018年に刊行され、「週刊文春ミステリーベスト10」2018年の国内8位、「本格ミステリ・ベスト10」2019年版の国内2位に入りました。

物語の入り口

強羅地方は、海と断崖に閉ざされた土地です。村々では碆霊様が祀られ、海辺の寒村に四つの怪談が伝わっています。

刀城言耶は、この地を訪れています。言耶の訪れる先で不可解な事件が起こる、というのはシリーズを通じた構えで、今回も例外ではありませんでした。

同行者を伴って取材に訪れた土地で、怪談が現実の死体という形を取り始めます。

起こるのは連続殺人です。しかも、村に伝わる怪談をなぞるように。

事件には、三つの謎が絡みます。死体に残された笹舟。

事件の現場となった「開かれた密室」。碆霊様が遣わすという唐食船とは何なのか。

三つを並べたところで、さらに二つの問いが浮かびます——碆霊様は何を祀るのか、唐食船の正体とは何か。怪談の土地に踏み込んだ言耶は、殺人の謎と、土地そのものの謎とを、同時に抱えることになります。

読者はその傍らで、土地の外から来た者の目のまま、怪談と殺人が重なり合う村々を歩いていきます。

「開かれた密室」という言葉は、それ自体が矛盾を抱えています。密室でありながら開かれている。

この言い回しに引っかかりを覚えた人は、もう入り口に立っています。海と断崖という舞台も、この作品の空気を決めています。

閉ざされた土地であることは、山の村と変わりません。ただ、そこに海が加わることで、境界の向こうから何かが来る、という怖さの向きが生まれます。

碆霊様が遣わすという唐食船は、その向こう側から来るものとして語られています。断崖に閉ざされて逃げ場がなく、海からは何かが来る——強羅地方の怖さは、その二方向から挟まれる形をしています。

読みどころ

本作の核は、怪異と論理が正面からぶつかり、どちらも退かないまま進んでいくところにあります。 四つの怪談は土俗の怖さそのもので、怪談として読めばそれで成立しています。

一方で、怪談をなぞる殺人は本格ミステリの謎として置かれ、笹舟や「開かれた密室」は理詰めで考える対象になります。土俗的な怖さと理詰めの謎解きが同居する、という三津田信三の作風は、ここでは怪談をなぞる殺人という形で、怪異と論理を同じ出来事の上に重ねています。

もうひとつは、謎の取り合わせです。笹舟、開かれた密室、唐食船。

この三つは、それぞれ違う種類の不可解です。物に残された印、現場の状態、伝承の中の存在。

手に取れる小さな物と、足を踏み入れられる場所と、言い伝えのなかにしかいないもの。種類の違う謎が一つの土地に集まり、四つの怪談という枠の中で結びついていきます。

殺人が怪談をなぞって起きる以上、四つの言い伝えの一つひとつが、ただの昔話では済まなくなっていくのです。

覚悟が要るのは、いつもながらの情報量と分量です。土地の伝承、四つの怪談、村々の呼び名。

640ページを、海辺の寒村の湿った空気とともに読み通すことになります。怪談の側にも謎解きの側にも本気で付き合う気のある人に向いています。

どちらか一方だけを求めると、もう一方の密度が重く感じられるでしょう。

作品の背景

刀城言耶シリーズは2006年の『厭魅の如き憑くもの』に始まります。『碆霊の如き祀るもの』は、第1作から12年を経て書かれた長編第7作です。

2018年6月に原書房から単行本が出て、2021年6月に講談社文庫に入りました。「週刊文春ミステリーベスト10」2018年で国内8位、「本格ミステリ・ベスト10」2019年版で国内2位。

手に取るなら

現在手に取るなら、講談社文庫版です。640ページ、電子版もあります。

刀城言耶シリーズの長編第7作ですが、強羅地方の事件はこの巻の中で完結しており、シリーズを最初から読んでいなくても入っていけます。海辺の村を舞台にした一作として、シリーズの途中から手に取る人にも据わりのよい作品です。

碆霊様は何を祀るのか、唐食船の正体とは何か。その二つの問いを持ったまま、海と断崖に閉ざされた村々へ入っていく読書になります。

三津田信三について

三津田信三は1962年、奈良県の生まれです。高野山大学文学部を卒業し、出版社で編集者として働いたのち、2001年に『ホラー作家の棲む家』でデビューしました。

出発点はホラーの側にあり、作者と同じ名の作家が登場する作家三部作では、怪談にメタ的な仕掛けを組み合わせています。

2006年の『厭魅の如き憑くもの』に始まる刀城言耶シリーズでは、怪奇幻想小説を書く作家の刀城言耶が、土地に伝わる怪異と絡み合う事件に向き合います。最後まで読まないと推理小説なのか怪異譚なのか分からない構えを持ち味とし、2010年に『水魑の如き沈むもの』で第10回本格ミステリ大賞の小説部門を受けました。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
2018
ISBN-13
9784065238172
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物
受賞歴
·

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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