現代国内 2006
凶鳥の如き忌むもの
『凶鳥の如き忌むもの』三津田信三

書評

凶鳥の如き忌むもの

瀬戸内の鳥坏島、断崖の拝殿で秘儀のさなかに巫女が消える、刀城言耶シリーズ第2長編。

凶鳥の如き忌むもの 表紙画像
三津田信三 講談社(講談社文庫)2006年
目次

瀬戸内海に浮かぶ鳥坏島の、断崖絶壁の上に建つ拝殿。そこで執り行われる秘儀のさなかに、巫女がふっと姿を消してしまう。

三津田信三の『凶鳥の如き忌むもの』は、人がひとりいなくなるという、ごく単純で、それだけに手ごわい謎へまっすぐ照準を合わせた長編です。島の信仰と秘儀が醸し出す不穏な空気をたっぷりまといながら、物語の芯にあるのは正面からの人間消失。

怪奇幻想作家・刀城言耶が探偵役をつとめるシリーズの、2作目の長編にあたります。

物語の入り口

怪異にまつわる話を求めて各地を歩く言耶が今回足を向けたのは、兜離の浦。目当ては、鳥坏島に伝わる〈鳥人の儀〉という秘儀を、その目で見届けることでした。

ところが、この儀式には暗い過去がありました。18年前に同じ儀式が行われたとき、巫女をはじめ大勢の人々が行方知れずになっていたのです。

それほどの因縁を抱えた儀式が、ふたたび執り行われることになります。そして断崖の拝殿で儀式が進むなか、巫女がまたしても姿を消す。

鳥の名を冠した儀式の場から、人がまるごと消え失せてしまったのです。消えた巫女はどこへ行ったのか。

物語はその一点へ向かって、じりじりと緊張を高めていきます。

読みどころ

このシリーズの持ち味は、本格ミステリと怪奇小説がひとつに溶け合っているところにあります。島の信仰、人目を避けて受け継がれてきた儀式、過去の消失事件。

どれもが怪談の材料にもなり得る道具立てで、読んでいるあいだは、これが怪異の物語なのか謎解きの物語なのか、足もとがふらつくような感覚がつきまといます。その揺らぎこそが、刀城言耶ものを読む醍醐味です。

謎の中心がぶれないことも、本作の大きな魅力です。誰が、どこへ、どうやって消えたのか。

問いが一点に絞られているぶん、断崖の拝殿という舞台の描写や、儀式の段取りのひとつひとつに目が吸い寄せられていきます。怪しげな気配に気を取られているうちに、大事なことを読み流してはいないか。

そんな緊張を抱えたまま頁をめくる時間が、この作品ではとりわけ濃く感じられるはずです。

こんな人におすすめ

古い信仰が息づく閉ざされた土地を舞台にした謎解きが好きな人や、人間消失というシンプルで骨太な謎に挑みたい人には、まず手に取ってほしい一冊です。怪談めいた気配が背筋を撫でてくる読み心地を楽しめるなら、なおのこと相性がいいはずです。

作品の背景

刀城言耶のシリーズは『厭魅の如き憑くもの』に始まり、本作がそれに続く第2長編です。のちに2010年、シリーズの『水魑の如き沈むもの』が第10回本格ミステリ大賞を受けるなど、作者の代表的なシリーズへと育っていきました。

本作は2006年9月に講談社ノベルスから刊行され、2009年4月には原書房のミステリー・リーグからも特装版が出ています。この特装版には書き下ろしの短編「天魔の如き跳ぶもの」が付され、その短編はのちに短編集『生霊の如き重るもの』へ収められました。

手に取るなら

いま読むなら、2012年10月16日に出た講談社文庫版が入り口です。特装版に付いていた短編を追いかけたくなったら、短編集『生霊の如き重るもの』のほうで読むことができます。

長編としての本作は文庫版で過不足なく味わえるので、まずは島へ渡るつもりで、この一冊を開いてみてください。

三津田信三について

三津田信三は1962年、奈良県の生まれです。高野山大学文学部を卒業し、出版社で編集者として働いたのち、2001年に『ホラー作家の棲む家』でデビューしました。

出発点はホラーの側にあり、作者と同じ名の作家が登場する作家三部作では、怪談にメタ的な仕掛けを組み合わせています。

2006年の『厭魅の如き憑くもの』に始まる刀城言耶シリーズでは、怪奇幻想小説を書く作家の刀城言耶が、土地に伝わる怪異と絡み合う事件に向き合います。最後まで読まないと推理小説なのか怪異譚なのか分からない構えを持ち味とし、2010年に『水魑の如き沈むもの』で第10回本格ミステリ大賞の小説部門を受けました。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
2006
ISBN-13
9784062771542
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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