現代国内 2011
生霊の如き重るもの
『生霊の如き重るもの』三津田信三

書評

生霊の如き重るもの

分身"生霊"の目撃談が残る旧家を舞台にした表題作ほか、学生時代の刀城言耶の事件5編。

生霊の如き重るもの 表紙画像
三津田信三 講談社(講談社文庫)2011年
目次

本人と瓜ふたつの、もうひとりの姿が目撃される。旧家に語り継がれてきたそんな"生霊"の話を表題に掲げ、学生だったころの刀城言耶が出会った事件を5編収めた短編集です。

三津田信三の刀城言耶シリーズでは、『密室の如き籠るもの』に続く2冊目の短編集にあたります。

物語の入り口

表題作の舞台は、旧家の谷生家。この家には、"生霊"と呼ばれる奇っ怪な分身の目撃談が語り継がれてきました。

同じ人間の姿がもうひとつ現れるという、いわば旧家の奥に根を下ろしたドッペルゲンガーの言い伝えです。そこへ戦地から帰ってきた復員兵が絡み、古くからの言い伝えに、戦争の落とした影が重なっていきます。

分身の噂と、戦争を生きのびて戻ってきた人。ふたつが同じ家のなかで交わったとき、言耶の前に謎が立ちあがります。

収録作はほかに「死霊の如き歩くもの」「天魔の如き跳ぶもの」「屍蝋の如き滴るもの」「顔無の如き攫うもの」の4編。死霊、天魔、屍蝋、顔無と、題名に並ぶ言葉を眺めるだけでも、1編ごとに異なる怪異が待ち受けていることがうかがえます。

読みどころ

本格ミステリとホラーを融合させたシリーズの作風は、短編になっても薄まりません。むしろ1編の分量が限られているぶん、薄気味の悪い言い伝えに背筋が冷える感覚と、それを謎として見つめ直していく手ごたえとが、短い間隔で交互に押し寄せてきます。

怪談を読んでいるのか、謎解きを読んでいるのか、足もとが定まらないまま頁をめくる。その揺れを5度味わえるのが、短編集ならではの贅沢です。

学生時代の言耶に会えることも、本書の大きな楽しみです。大学の先輩にあたる阿武隈川烏も顔を見せ、先輩と後輩という間柄のなかで動く言耶の姿がのぞきます。

長編で事件に挑む言耶しか知らない読者にとっては、その前史をめくっていくような面白さがあるはずです。

時代の空気も見逃せません。表題作に復員兵が登場することからもわかるように、物語の背後には戦争の影が色濃く残っています。

土地に古くから伝わる言い伝えという層の上に、ついこのあいだまで続いていた戦争という別の層が重なる。その二重の暗さが、怪異の手ざわりをいっそう生々しくしています。

こんな人におすすめ

刀城言耶の世界に興味はあるものの、いきなり長編に取りかかるのはためらわれる、という人に向いた一冊です。1編ずつ区切って読めるので、怪談めいた話を寝る前に少しずつ味わいたい人にも合います。

すでに長編を何冊か読んでいて、言耶の若いころの事件をのぞいてみたい人にもすすめられます。

作品の背景

刀城言耶シリーズは『厭魅の如き憑くもの』に始まる長編を軸に書き継がれ、その合間に生まれた短編をまとめた2冊目が本書です。刊行は2011年7月、講談社ノベルスの1冊としてでした。

5編のうち「天魔の如き跳ぶもの」は、もともと2009年に原書房から出た、シリーズ2作目の長編『凶鳥の如き忌むもの』の特装版に付されていた一編です。長編の特別な版でしか読めなかった短編が、ここでほかの4編と肩を並べることになりました。

年間ランキング「本格ミステリ・ベスト10」の2012年版では、国内の15位に名を連ねています。

手に取るなら

5編をまとめて読むには、2014年7月15日に出た講談社文庫が手ごろです。谷生家の"生霊"をはじめ、題名に掲げられた5つの怪異を、学生時代の言耶の事件簿として順にたどってみてください。

三津田信三について

三津田信三は1962年、奈良県の生まれです。高野山大学文学部を卒業し、出版社で編集者として働いたのち、2001年に『ホラー作家の棲む家』でデビューしました。

出発点はホラーの側にあり、作者と同じ名の作家が登場する作家三部作では、怪談にメタ的な仕掛けを組み合わせています。

2006年の『厭魅の如き憑くもの』に始まる刀城言耶シリーズでは、怪奇幻想小説を書く作家の刀城言耶が、土地に伝わる怪異と絡み合う事件に向き合います。最後まで読まないと推理小説なのか怪異譚なのか分からない構えを持ち味とし、2010年に『水魑の如き沈むもの』で第10回本格ミステリ大賞の小説部門を受けました。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
2011
ISBN-13
9784062778596
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 連作短編

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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