加賀恭一郎シリーズを読む順番 ―全12作の刊行順一覧と、二つの入口
東野圭吾の加賀恭一郎シリーズは、大学生の加賀を描く『卒業』から『あなたが誰かを殺した』まで全12作。刊行順の一覧と、『卒業』『新参者』どちらから入るかの決め方、『祈りの幕が下りる時』を先に読まない理由を、仕掛けに触れずに案内します。
東野圭吾の加賀恭一郎シリーズは、1986年の『卒業』から2023年の『あなたが誰かを殺した』まで、全12作。第1作で卒業を目前にした大学4年生だった加賀は、第2作で警視庁捜査一課の刑事になり、第8作『新参者』で日本橋の町に着任します。37年かけて書き継がれたシリーズなので、どこから入るか、どの順で読むかは、誰もが一度は迷います。
結論から言えば、入口は二つあり、決まりは一つだけです。入口は『卒業』か『新参者』。そして『祈りの幕が下りる時』は、『新参者』『麒麟の翼』のあとに読む。 このページでは、まず12作の刊行順を一覧にし、次にこの決まりを守る理由と二つの入口の選び方を説明し、途中で迷わないための節目の作品を紹介します。
こんな読者のための一冊たち
- 『新参者』をドラマや本で知っていて、原作シリーズを順に読みたい
- 『容疑者Xの献身』で東野圭吾を好きになり、もう一つの看板シリーズに手を伸ばしたい
- 刑事・加賀恭一郎がどういう人なのか、来歴まで含めて追いかけたい
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。
全12作の刊行順 早わかり
年は初刊の年です。現行版はいずれも講談社文庫で、第3作と第5作は2023年に新装版が出ています。
| 順 | 書名 | 年 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 1 | 卒業 | 1986 | 大学4年生の加賀。密室状態の自室で死んだ仲間と、茶道の作法を下敷きにした第二の事件 |
| 2 | 眠りの森 | 1989 | 警視庁捜査一課の刑事に。名門バレエ団で正当防衛とされた事件のほころび |
| 3 | どちらかが彼女を殺した | 1996 | 容疑者は妹の親友と元恋人の二人。犯人の名を作中に書かない挑戦状型 |
| 4 | 悪意 | 1996 | 人気作家が殺され、捕まった犯人は動機を語らない。動機の謎を掘るホワイダニット |
| 5 | 私が彼を殺した | 1999 | 結婚式の最中に死んだ男。容疑者は三人。第3作の姉妹編 |
| 6 | 嘘をもうひとつだけ | 2000 | 5編の短編集。嘘を重ねる人々を、加賀が静かに追う |
| 7 | 赤い指 | 2006 | 少女の遺体と、三世代が暮らす家。『容疑者Xの献身』直木賞受賞後の第一作 |
| 8 | 新参者 | 2009 | 加賀、日本橋へ。章ごとに人物と場所を移す構成。週刊文春・このミス国内1位 |
| 9 | 麒麟の翼 | 2011 | 日本橋の麒麟像の下で息絶えた男。「七福神巡り」の謎 |
| 10 | 祈りの幕が下りる時 | 2013 | 明治座と12の橋の名。加賀自身の来歴に答えが出る。吉川英治文学賞 |
| 11 | 希望の糸 | 2019 | 喫茶店の女性の死と、金沢で遺言書を残す男 |
| 12 | あなたが誰かを殺した | 2023 | 別荘地で一夜に五人。遺族の「検証会」に、休暇中の加賀が現れる |
読み方の決まりは一つだけ
『祈りの幕が下りる時』は、『新参者』『麒麟の翼』のあとに。 理由は三つあります。
一つ目は、『祈りの幕が下りる時』が、シリーズがずっと脇に置いてきた加賀自身の来歴に踏み込む一冊だからです。日本橋署の刑事・加賀恭一郎がどういういきさつでこの町に来たのか。遺品に書き込まれた日本橋を囲む12の橋の名が、孤独死した彼の母へつながり、加賀の過去にこの巻で答えが出ます。答えを先に読んでしまうと、前の2作で加賀が日本橋の町を歩く姿の見え方が変わってしまいます。
二つ目は、日本橋の3作が地続きだからです。『新参者』で着任したばかりの加賀が町の人々の小さな秘密を拾い集め、『麒麟の翼』では日本橋という土地の地理そのものが推理の材料になります。この2作で日本橋の加賀に馴染んでから、第10作で来歴を知る。この順に読めば、刑事と町の関係が自然に腑に落ちます。
三つ目は、それ以外の作品は事件が独立していて、前後を知らなくても困らないからです。第3作と第5作が姉妹編になっている以外、前作の内容を踏まえて進む筋はありません。だから決まりは一つで足り、残りは自由に組み替えられます。
入口は『卒業』か『新参者』
『卒業』から入るのは、刊行順に37年を追いかける読み方です。まだ警察とは縁のない大学4年生の加賀に出会い、『眠りの森』で刑事になった彼と再会する。シリーズの原点から積み上げたい人、作家の歩みごと味わいたい人に向いています。
『新参者』から入るのは、シリーズでもっとも評価の高い一冊から始める読み方です。週刊文春ミステリーベスト10と「このミステリーがすごい!」でともに国内1位。章ごとに人物と場所を移す構成なので、一章ずつ区切って読めます。ここから『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』と日本橋の3作を続け、気に入ったら『卒業』に戻って刊行順に進めば、抜けはありません。
途中で迷ったら ―節目の4作
卒業(1986・第1作)
のちに名刑事として知られる加賀恭一郎が、卒業を目前に控えた大学4年生として登場します。仲間の女子学生が密室状態の自室で死に、加賀たちは彼女の日記を手がかりに真相を追う。そこへ茶道の作法を下敷きにした第二の事件が重なり、厳密な決まりごとの内側を論理で詰める謎解きへと広がっていきます。
将来への不安や恋の行方に揺れる若者たちの輪のなかに、加賀という探偵の原点が刻まれた一冊。刊行順に読むなら、ここが出発点です。
新参者(2009・第8作)
日本橋の片隅で、一人暮らしの女性が絞殺されました。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは、江戸情緒の残る街に暮らす普通の人々です。事件で傷ついた人がいるなら救い出すのも自分の仕事だ、と加賀は言います。
2009年の週刊文春ミステリーベスト10と、翌年版の「このミステリーがすごい!」で、ともに国内1位。章ごとに人物と場所を移しながら、散らばった物語が一つの事件へつながっていく構成で、もう一つの入口にふさわしい一冊です。
祈りの幕が下りる時(2013・第10作)
明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が、遺体で発見されます。捜査を担当する松宮脩平は、近くで見つかった焼死体との関連を疑う。その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに、加賀恭一郎は激しく動揺します。それは、孤独死した彼の母に繋がっていました。
松宮の捜査と加賀の動揺が、二方向から同じ問題へ近づいていく長編。第48回吉川英治文学賞を受け、2018年には阿部寛主演で映画化されました。日本橋の3作を締める位置で読んでください。
あなたが誰かを殺した(2023・第12作)
夏の別荘地のバーベキューパーティ。その深夜、集まった人々のうち五人が殺されました。間もなく犯人は出頭しますが、死刑になりたいと語るだけ。納得できない遺族は、自ら真相を解き明かすべく「検証会」を開きます。そこへ現れたのが、長期休暇中の刑事・加賀恭一郎でした。
持ち寄られた記憶と断片だけを材料に論理を組み上げていく一冊。2023年の週刊文春ミステリーベスト10で国内2位、翌年版の「このミステリーがすごい!」と「本格ミステリ・ベスト10」でともに国内3位。刊行順では、現時点でシリーズの最新作です。
残りの8作を、ひとことずつ
- 眠りの森(1989)― 名門バレエ団に忍び込んだ男を女性ダンサーが正当防衛で殺したとされる事件に、小さなほころびが見えはじめる。警視庁捜査一課の刑事となった加賀は、捜査のさなか、ひとりのバレリーナに惹かれていきます。 ▶ レビュー »
- どちらかが彼女を殺した(1996)― 妹が殺され、警察官の兄が自分で絞り込んだ容疑者は、妹の親友と、妹のかつての恋人の二人。どちらが犯人なのかを作中に直接は書かないまま幕を閉じる、挑戦状型の長編です。 ▶ レビュー »
- 悪意(1996)― 人気作家が仕事場で殺され、第一発見者はその妻と昔からの友人。逮捕された犯人が、決して「動機」を語らない。誰が、ではなく、なぜ。その一語で最後まで引っ張るホワイダニットです。 ▶ レビュー »
- 私が彼を殺した(1999)― 結婚式の最中に男が殺され、動機のある容疑者は三人。推理の鍵は、死因となった毒入りカプセルがどこから現れたかという一点。第3作と同じ挑戦状型で、2023年の新装版には袋とじの「推理の手引き」が付きます。 ▶ レビュー »
- 嘘をもうひとつだけ(2000)― 一度ついた嘘を守るために、もうひとつ。正直に生きたいと願いながら秘密を抱え込んでいく人々を、加賀が声を荒らげることなく追う5編の短編集です。 ▶ レビュー »
- 赤い指(2006)― 住宅街で少女の遺体が見つかり、三世代が暮らす一見平凡な家が捜査線上に浮かぶ。『容疑者Xの献身』で直木賞を受けた直後に出た受賞後第一作で、少年犯罪と親子の責任、老いと介護を重ねて家族のあり方を問います。 ▶ レビュー »
- 麒麟の翼(2011)― 胸を刺された男が、日本橋の麒麟像のところまで自力で歩き、そこで息絶える。被害者が生前「七福神巡り」をしていたことを突き止めた加賀が、なぜそこへ向かったのかを追います。 ▶ レビュー »
- 希望の糸(2019)― 小さな喫茶店を営む女性が殺され、手がかりは善人という評判だけ。同じ頃、金沢では一人の男が遺言書を残して息を引き取ろうとしていた。加賀と松宮の捜査と、家族をめぐる物語が並んで進みます。 ▶ レビュー »
よくある質問
Q. 刊行順に読まないといけない?
A. 守るのは「『祈りの幕が下りる時』は『新参者』『麒麟の翼』のあと」だけです。第3作『どちらかが彼女を殺した』と第5作『私が彼を殺した』は姉妹編なので、この二つも刊行順がよいでしょう。ほかは事件が独立しているので、気分で入れ替えて構いません。
Q. 『新参者』から読んで、話はわかる?
A. わかります。着任したばかりの加賀が日本橋の町を歩く話なので、前の7作を知らなくても困りません。ここから日本橋の3作を続け、あとで『卒業』に戻るのが、二つ目の入口です。
Q. 犯人の名前が書かれていない作品があると聞いたけれど?
A. 『どちらかが彼女を殺した』と『私が彼を殺した』の2作です。犯人を作中に直接書かず、読者が答えを出す形で書かれています。どちらも2023年に講談社文庫の新装版が出ており、『私が彼を殺した』の新装版には袋とじの「推理の手引き」が収められています。
Q. 続きは出る?
A. 著者の東野圭吾は2026年7月に世を去りました。『あなたが誰かを殺した』が、現時点で加賀恭一郎シリーズの最新作です。
入口を決め、日本橋の3作の順番だけ守れば、あとは自由です。大学4年生の加賀から、休暇中に別荘地へ現れる加賀まで、37年分の刑事の歩みを追ってください。
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