死刑にしてくれと出頭した。
あなたが誰かを殺した
別荘地の連続殺人を、遺族が自ら開いた検証会で解き直す加賀シリーズ第12作。
夏の避暑地での、バーベキューパーティ。集うのは、別荘を持つセレブたち。
その深夜、彼らのうち五名が殺されました。『あなたが誰かを殺した』は、加賀恭一郎シリーズの第12作です。
間もなく犯人は大胆に出頭しますが、死刑になりたいと語るだけ。納得できない遺族は、自ら真相を解き明かすべく「検証会」を開きます。
ところが彼らのもとに、謎の手紙が届く。そこへ現れたのは、刑事・加賀でした。
この一作は、2023年の週刊文春ミステリーベスト10で国内2位、翌年版の「このミステリーがすごい!」と「本格ミステリ・ベスト10」でともに国内3位に入りました。
物語の入り口
夏の避暑地。別荘を持つセレブたちが集まって、バーベキューパーティが開かれました。
その深夜、彼らのうち五名が殺されます。一晩で、五人。
閑静な別荘地を襲った連続殺人は、それだけで十分に異様です。避暑地の夏の夜が、一瞬で惨劇の現場に変わりました。
ところが事件は、間もなく動きます。犯人が、大胆に出頭したのです。
ただし、その人物は、死刑になりたいと語るだけ。なぜ殺したのか、どうやって殺したのか、肝心なことは何も語らない。
事件は形の上では解決し、しかし遺族には、何ひとつ納得できるものが残されていません。
納得できない遺族は、自分たちで真相を解き明かすことにします。「検証会」。
関係者が一つの場に集まり、あの夜のことを順に語り、突き合わせていく。それが偶然だったのか、必然だったのかを、自分たちの記憶と断片だけを材料に確かめようとする。
ところがその彼らのもとに、謎の手紙が届きます。そして、そこへ現れたのが、長期休暇中の刑事・加賀でした。
休暇中の刑事が、検証会の席に加わります。
読者は、検証会の席に着かされます。語る側は、全員が当事者です。
家族を奪われた人たちが、自分の記憶を持ち寄り、他人の記憶と突き合わせる。関係者を一つの場に集めて順に語らせ、そこから論理を積み上げていく形は、ふつうなら終盤の見せ場に置かれるものです。
本作はその形を、物語の骨格そのものに据えています。加賀がその場にいる、という事実が、検証会の空気を最初から張り詰めさせます。
休暇中の刑事が、なぜそこにいるのか。それもまた、ひとつの謎です。
読みどころ
読みどころは、証言の突き合わせを終盤の見せ場でなく、物語の土台そのものに据えた点にあります。 持ち寄られた記憶と断片だけを材料に、論理を組み上げていく。
語る側が全員当事者であるぶん、一つひとつの言葉に重みがあります。文章は平明で、前提知識は要らない。
それでいて、手がかりを数えながら読める本格の骨格が、最初から最後まで通っています。
もうひとつは、場を開いたのが警察ではなく遺族だという点です。犯人の出頭で、事件は形の上では片づいています。
それでも腑に落ちない人たちが、自分たちの手で検証会を開く。探偵役の加賀も、長期休暇中の身でその席に現れます。
公の捜査が一区切りついたあとで、遺された人たちが自分の記憶だけを頼りに、もう一度あの夏の夜へ戻っていく——この順序が、検証会で交わされる言葉に切実さを与えています。1986年の『卒業』から数えて第12作——東野圭吾は本格の骨組みをこれ以上ないほど前に出しました。
こんな人におすすめ
手がかりを数えながら読みたい読者、関係者の証言を突き合わせる型の謎解きを好む読者に向いています。加賀恭一郎シリーズを追ってきた人にはもちろん、文章が平明なので、シリーズ未読の人が最初に開いても問題ありません。
逆に、物語に身を任せて流れたい気分のときには、検証会の張り詰めた空気は少し疲れるかもしれません。
作品の背景
加賀恭一郎シリーズは1986年の『卒業』に始まり、本作がその第12作にあたります。刊行は2023年9月、講談社から四六変型判の312ページで。
2026年8月には講談社文庫に収められ、416ページ。刊行の年の週刊文春ミステリーベスト10で国内2位、『このミステリーがすごい!』2024年版で国内編3位、『本格ミステリ・ベスト10』2024年版でも国内編3位。
三つの主要ランキングで揃って上位に入っています。
手に取るなら
現行版は講談社文庫。加賀恭一郎シリーズの第12作ですが、ここから読み始めても筋は追えます。
前提知識は要りません。文章は平明で、一気に読み切れます。
家族を奪われた人たちが記憶を持ち寄り、休暇中の刑事がそれに耳を傾ける——その席の張りつめた空気が、全編を貫いています。夏の避暑地の検証会に、遺族の一人として座ってみてください。
東野圭吾について
東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。
翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。
長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。
刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。
書誌情報
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