現代国内 2022
家庭教師、パパ活、殺人鬼。
どれも日常の話だ。
『#真相をお話しします』結城真一郎

書評

#真相をお話しします

協会賞を受けた一編を含む5編。短い時間で読めて、題材の幅が広い一冊

目次

五つの短い物語が、どれも見慣れた日常の顔をして並んでいます。マッチングアプリ、リモート飲み会、中学受験、動画配信への憧れ。

ニュースやSNSで毎日のように目にする言葉ばかりです。結城真一郎『#真相をお話しします』は、その身近な素材の一つひとつに「何かがおかしい」という違和感を仕込んだ、5編の短編集です。

表題にハッシュタグを掲げた、いかにも現在形のミステリです。

物語の入り口

収録作は「惨者面談」「ヤリモク」「パンドラ」「三角奸計」「#拡散希望」の5編です。題材を並べると、その幅がよくわかります。

マッチングアプリでのパパ活。リモート飲み会と三角関係。

中学受験と家庭教師。精子提供と殺人鬼。

どれも、いまの暮らしのすぐ隣にある言葉です。多くは新聞の生活面に載っていてもおかしくない話題です。

そこに「殺人鬼」という一語が紛れ込んでいる——この並びそのものが、すでに不穏な予感を運んできます。

目次の最後に置かれた「#拡散希望」の主人公は、島で育った仲良しの小学生四人組です。あの日、彼らは「ゆーちゅーばー」になることを夢見ていました。

その日から先のことは、「末路」という重たい言葉で語られます。ひらがなで書かれた「ゆーちゅーばー」という幼い響きと、「末路」の一語。

二つの語の落差が、ひときわ目を引きます。

短編集全体を通して差し出されるのは、読み方の誘いです。日常に潜む「何かがおかしい」。

その違和感に気づくことができるか。読者は、見慣れた風景のどこかに潜む歪みを探す立場に据えられ、頁を繰りながら目を凝らすことになります。

何がおかしいのか、どこがおかしいのかは、それぞれの編を読み進めて確かめるしかありません。問われているのは、身近な題材ほど見過ごしやすいものを、読みながら見落とさずにいられるかどうかです。

読みどころ

題名が示すのは、SNSの言葉づかいで謎を差し出すという、この短編集の現在形の構えです。

ハッシュタグを冠した題名は、書店の棚でも目を引きます。収録作の話題はパパ活からリモート飲み会まで、いまの暮らしの言葉で埋められています。

古典的な館や孤島ではなく、スマートフォンの画面の向こうにある日常——それが五つの謎の舞台です。ハッシュタグは、本来なら誰かに広めてほしい話につける印でした。

その印を書名の頭に掲げた題名は、SNSの時代の謎という本書の性格を、表紙の段階で伝えています。短い形式もこの素材と相性がよく、一編ごとに別の世界へ踏み込んでは、短い時間で読み終えられます。

もうひとつは、収録作の一つが単独で協会賞を受けているという事実です。短編集の中の一編が、それ自体として年間の賞に選ばれた。

そのうえで5編をまとめた本の形でも、専門家のランキングと書店員の賞の双方に名を連ねています。一編の出来だけでなく、本全体としての評価も受けたということです。

一編完結のリズムで読めるぶん、腰を据えて一つの謎に浸りたい読者には、場面の切り替わりがせわしなく映るかもしれません。それでも、題材の幅が広いおかげで、五つの物語はそれぞれ違う表情を見せてくれます。

こんな人におすすめ

短い時間で一つの物語を読み切りたい人に向いています。ふだんミステリをあまり読まない人でも、題材の身近さが入り口になるでしょう。

ランキングと本屋大賞の両方で名前を見かけて気になっていた人、映画をきっかけに原作に触れたい人にも手渡せます。デビュー作から著者を追ってきた読者には、短編で見せる別の顔が待っています。

作品の背景

結城真一郎が『プロジェクト・インソムニア』などの長編を経て、「小説新潮」に発表した5編をまとめたのが本書です。単行本は2022年6月30日に新潮社から出ました。

収録作の「#拡散希望」は、第74回日本推理作家協会賞(短編部門)を受けました。短編集としての評価もそれに続き、「週刊文春ミステリーベスト10」2022年の国内3位、『本格ミステリ・ベスト10』2023年版の国内5位(同率)、『ミステリが読みたい!』2023年版の国内9位に入り、2023年の本屋大賞でも10位に選ばれています。

「#拡散希望」の受賞は2021年で、単行本の刊行より前のことでした。部数は累計50万部を超えています。

2025年4月25日には、豊島圭介監督、大森元貴・菊池風磨の主演で実写映画も公開されています。

手に取るなら

いま手に取るなら、2024年6月26日刊の新潮文庫版です。解説は村上貴史。

単行本は2022年の新潮社刊です。協会賞を受けた「#拡散希望」は、目次の最後に収められています。

日常の顔をした五つの物語に、まずは一つ目から足を踏み入れてみてください。

結城真一郎について

結城真一郎は1991年、神奈川県の生まれです。東京大学法学部を卒業し、会社に勤めながら書いた長編で2018年に第5回新潮ミステリー大賞を受け、翌2019年、その作品を『名もなき星の哀歌』として刊行してデビューしました。

その後は『プロジェクト・インソムニア』『救国ゲーム』と長編を重ね、2021年には短編「#拡散希望」で第74回日本推理作家協会賞の短編部門を受けています。平成生まれの作家として初めての受賞でした。

同作を収めた短編集『#真相をお話しします』は2023年の本屋大賞にもノミネートされ、ほかに連作『難問の多い料理店』などがあります。

書誌情報

出版社
新潮社 / 新潮文庫
刊行年
2022
ISBN-13
9784101032634
系譜
現代国内 / 連作短編
受賞歴
· · ·

結城真一郎をもっと読む

全作品一覧へ →

似た読み味を、他の作家で

気分タグ・系譜の重なりから自動抽出。★は管理人が実読して太鼓判を押した本

この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

プロフィールを見る →