現代国内 2023
女子生徒の死体は、
男子の制服を着ていた。
『化石少女と七つの冒険』麻耶雄嵩

書評

化石少女と七つの冒険

誰にも認められない女子高生探偵が、呪われた名門校の怪事件に挑む続篇の学園ミステリ。

目次

この学園は呪われているのではないか——そんな声が出るほど怪事件が相次ぐ学校を舞台にしたのが、麻耶雄嵩『化石少女と七つの冒険』です。場所は良家の子女が集う京都の名門高校。

白雪にまみれ、赤いロープで手首を結び合った三生徒の死体。男子の制服で死んでいた女子生徒。

相次ぐ怪事件に血が騒ぐのは、化石オタクのお嬢様にして、誰にも認めてもらえない女子高生探偵、神舞まりあです。2014年刊『化石少女』の続篇にあたり、2023年に徳間書店から出て「本格ミステリ・ベスト10」2024年版の国内6位に入りました。

物語の入り口

探偵役は神舞まりあ。京都の名門高校で、自分以外の部員が一人だけという零細な古生物部を率いる、化石オタクのお嬢様です。

そして、誰にも認めてもらえない女子高生探偵。名門校の生徒たちにとって、彼女の推理は聞く価値のあるものとは見なされていません。

それでも怪事件が起これば、まりあの血は騒ぎます。化石と事件、どちらにも同じ熱量で飛びつく人物です。

事件は、形からして異様です。白雪にまみれ、赤いロープで手首を結び合った三生徒の死体。

男子の制服で死んでいた女子生徒。どちらも、常識的な説明を寄せつけない形をしています。

なぜ手首を結び合わせる必要があったのか、なぜ男子の制服なのか。事件の形そのものが、解かれるべき謎として置かれています。

良家の子女が集う学園で、こうした事件がまたしても相次ぐ。この学園は呪われている、という声が出るのも無理はありません。

新しい駒も加わります。誰にも見向きもされない古生物部に、なぜか加入してきた怪しい一年生。

むりやりお嬢様のワトソン役にされ続けてきた男子部員が抱え込んだ、黒い秘密。そのうえ、新たな生徒探偵まで登場する。

部員二人きりで回してきた小さな部のまわりに、怪しい新入りと、秘密を抱えた部員と、もう一人の探偵がそろうわけです。読者はまりあの推理を聞かされる側、つまり誰にも認められていない探偵の、数少ない聞き手の位置に据えられます。

題名が「七つの冒険」と告げるとおり、まりあの出番は一度では終わりません。

読みどころ

読みどころは、学園ミステリという看板と、中身の毒との落差にあります。 学園と聞いて思い浮かぶもの——青春、友情、成長。

この連作では、そうした期待が最初から相手にされていません。呪われていると噂される名門校、赤いロープで結ばれた三つの死体、男子の制服の女子生徒。

舞台装置の可憐さと事件の異様さが、ここでは正面からぶつかり合います。白い雪と赤いロープ、その色の取り合わせからして穏やかではありません。

可愛らしい題名に安心して手に取った人ほど、その落差は大きいはずです。

もうひとつは、探偵の立場です。まりあは名探偵として扱われていません。

誰にも認めてもらえない探偵、というのが彼女の置かれた場所です。名探偵が登場して事件を解き、周囲がそれを受け入れる、という本格の基本の型は、この学園では最初から成り立っていない。

そこに新たな生徒探偵まで現れるのですから、まりあの居場所はいよいよ狭くなります。麻耶雄嵩がデビュー以来、名探偵という存在を問い直してきたことを思えば、学園という舞台はその問いを試すのに向いた場所です。

青春の爽やかさや後味のよさを学園ものに求める読者には、向きません。逆に、毒の強い学園ミステリにこそ身を乗り出す人には、本格の読み手が選ぶ「本格ミステリ・ベスト10」で6位に入ったという事実が、何よりの目安になります。

落ち着かない読み心地の学園ミステリを、あえて選びたい人のための一冊です。

作品の背景

『化石少女と七つの冒険』は2023年3月、徳間書店から四六判320ページで刊行されました。2014年の『化石少女』に続くシリーズ第2作です。

「本格ミステリ・ベスト10」2024年版で国内6位。連作短編の形をとる一冊で、一話ごとに区切りながら読み進められます。

手に取るなら

現在手に取るなら、2025年3月刊の徳間文庫版です。384ページ、電子版は単行本・文庫の双方で配信されています。

続篇である点は、承知しておいたほうがよいでしょう。まりあと男子部員の関係がどう出来上がってきたかを知らずに読むと、味の半分を取り逃がします。

2014年刊の『化石少女』から順に開くのが確実です。前作を読み終えたら、呪われていると噂される名門校へ、もう一度まりあと一緒に足を踏み入れてみてください。

麻耶雄嵩について

麻耶雄嵩は1969年、三重県上野市(現在の伊賀市)の生まれです。京都大学工学部に学び、在学中は京大推理小説研究会に所属しました。

1991年、綾辻行人・法月綸太郎・島田荘司の推薦を受けて『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』でデビューしています。

以後、メルカトル鮎、京都の名探偵木更津悠也、推理を使用人に任せる貴族探偵と、癖の強いシリーズ探偵を並行して書き継ぎ、名探偵という存在そのものを問い直す本格を発表してきました。2011年に『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞と第11回本格ミステリ大賞を受け、2015年には『さよなら神様』で2度目の本格ミステリ大賞を受けています。

『貴族探偵』は2017年にテレビドラマにもなりました。

書誌情報

出版社
徳間書店
刊行年
2023
ISBN-13
9784198950071
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 連作短編
受賞歴

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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