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REVIEW · 書評
N° 064 · 2026-07-21
ストーンサークルの殺人 表紙画像
現代英国 ★ イチオシ

ストーンサークルの殺人

M.W.クレイヴン / 早川書房(ハヤカワ・ミステリ文庫)
" カンブリアの環状列石で焼かれた死体。CWAゴールド・ダガー賞を受賞したワシントン・ポー・シリーズの第1作。
#英国警察の重厚#凸凹コンビ・相棒
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📝 管理人イチオシ書評 管理人実読・本サイト基準でイチオシ判定 ✓ 結末・犯人・トリックの種類には触れていません
curator's read

ミステリーとしての読みどころ

イングランド北西部、カンブリア州の丘に点在する古代の環状列石。新石器時代の人々が巨石を円く並べたその場所で、焼かれた死体が次々と見つかる——『ストーンサークルの殺人』は、遺跡の静けさと猟奇の生々しさが隣り合う、その落差から幕を開ける英国警察ミステリです。

荘厳な景観のただ中に置かれた凄惨な現場。そこから、一人の刑事の物語が動き出します。

著者について

著者のM・W・クレイヴンは1968年生まれの英国作家で、その経歴がいささか変わっています。16歳で英国陸軍に入隊し、10年ほど武器技術者として過ごしたのち、除隊後はカンブリア州の保護観察局で16年間、保護観察官を務めた。

犯罪と向き合う現場に長く身を置いた人物が、退職後になって専業作家へ転じた——という道のりです。本書『The Puppet Show』は、その筆歴を大きく前へ押し出した一作でした。

2019年には英国推理作家協会(CWA)のゴールド・ダガー賞、すなわち最優秀長篇賞を射止めています。この受賞を起点に、クレイヴンは英国警察ミステリの新しい世代を代表する書き手として注目を集めていきました。

邦訳は早川書房のハヤカワ・ミステリ文庫から、2020年に東野さやか訳で届けられています。

物語の主人公は、国家犯罪対策庁(NCA)の刑事ワシントン・ポー。ただし話が始まる時点で、彼は不祥事を起こして停職処分を受けている身です。

捜査の第一線から外され、宙ぶらりんの位置に置かれた刑事。そこから事件が転がり始めます。

物語の入り口

舞台は、著者の地元でもあるカンブリア州。緑の丘陵に、新石器時代のストーンサークルが点々と散らばる土地です。

その環状列石のひとつで焼死体が見つかり、やがて同じような死体が次々と発見されていきます。犯人は遺体を損壊しており、マスコミはこの人物を「イモレーション・マン(焼殺者)」と呼んで書き立てる。

何千年も前から丘に立ち続けてきた古代遺跡と、焼き尽くされたばかりの死体。そのふたつが同じ画面に収まってしまうところに、この連続殺人の異様さがあります。

人けのない丘に円環を描いて立つ巨石の群れ。その古い沈黙が、犯行のむごたらしさをかえって際立たせていきます。

そして三番目の被害者に、奇妙なものが刻まれていました。停職中だったポー本人の名前と、「5」と思しき字。

まるで犯人が、外されていたはずの刑事を名指しで呼び戻すかのように。身に覚えのないポーは、上司の判断で処分を解かれ、捜査に合流することになります。

なぜ現場に自分の名が残されていたのか——その問いを最初に突きつけられるのは、ほかならぬ本人です。読者はポーのすぐ隣に立たされ、彼と同じだけの戸惑いを抱えたまま、この事件へ足を踏み入れていくことになります。

読みどころ

この物語のもう一つの中心は、ポーと組むことになる分析官ティリー・ブラッドショウの存在です。 社会経験の乏しさと、突出した分析能力。

相反するはずのふたつが一人の中に同居した天才肌の人物で、世渡りの不器用なポーとの噛み合わなさが、そのまま忘れがたい魅力へ変わっていきます。ぶっきらぼうな刑事と、まっすぐすぎる分析官。

二人の距離がじりじりと動いていく手触りは、以後のシリーズを貫く芯であり、その出発点をこの目で見届けられるのが第1作ならではの特権です。

謎解きとしての骨格も、見た目の猟奇性に反してずいぶん骨太です。焼き印めいた題材に引っぱられそうになりながら、捜査はあくまでロジックの積み上げとして進み、手がかりの出し方にも細やかな目配りが利いている。

派手な意匠をまといつつ、読み終えたときに手元へ残るのは端正な謎解きの手応え、という按配です。カンブリアの冷たい空気や地方の風土を映す描写も、ただの背景にとどまらず物語を支える柱になっていて、保護観察官として現場を知る著者ならではの、組織や手続きの説得力とも自然に地続きになっています。

こんな人におすすめ

相性でいえば、猟奇的な事件が入り口になっている以上、凄惨な描写がどうしても苦手という読者は少し身構えることになるかもしれません。その一方で、本書は警察小説の形式をとりながら、腰の据わった謎解きの読み心地がしっかり残るタイプでもあります。

重厚な英国警察ものの空気を吸いたい人、不器用な人間同士の関係がぎこちなく動いていく物語を好む人には、迷わず薦められる一冊です。一撃の大トリックや息もつかせぬ疾走感だけを求める向きには、丹念な捜査の歩みがいくらかゆっくりに映る場面もあるでしょう。

けれど、その丁寧さこそが本書の背骨にほかなりません。

手に取るなら

入手はたやすく、ハヤカワ・ミステリ文庫(東野さやか訳)で手に取れます。Kindle版も出ています。

本書から始まるワシントン・ポーのシリーズは、このあと『ブラックサマーの殺人』『キュレーターの殺人』『グレイラットの殺人』『ボタニストの殺人』と続いていくので、気に入ったら順に手を伸ばしていく楽しみが待っています。まずはこの第1作から、カンブリアの丘へ足を踏み入れてみてください。

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書誌情報

出版社
早川書房 / ハヤカワ・ミステリ文庫
原書刊行年
2018
邦訳刊行年
2020
ISBN-13
9784151842511
系譜
現代英国 / 警察手続き · シリーズ探偵物
受賞歴: