現代国内 2019
死者が視える霊媒と、
推理作家が殺人鬼を追う。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼

書評

medium 霊媒探偵城塚翡翠

死者が視える霊媒・城塚翡翠と推理作家・香月史郎が、証拠を残さない連続殺人鬼を追う。第20回本格ミステリ大賞受賞作。

medium 霊媒探偵城塚翡翠 表紙画像
相沢沙呼 講談社(講談社文庫)2019年
目次

死者が視える霊媒と、人の死を筋書きに組み立てて暮らす推理作家。この二人が組んで、正体の知れない連続殺人鬼を追います。

相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の構図は、この一行でほぼ言い尽くせます。心霊と論理——ふつうは同じ机に並ばない二つの道具が、ここでは一つの捜査のために持ち寄られる。

2019年に刊行されると、年末のミステリランキングを次々と制し、翌年には第20回本格ミステリ大賞を受けた作品です。

物語の入り口

中心にいるのは二人です。一人は城塚翡翠。

死者が視えるという霊媒です。題名の medium は英語で霊媒を指す語で、日本語の副題「霊媒探偵」とそのまま重なります。

もう一人は香月史郎。推理小説を書くことを生業にしている作家です。

この世ならぬものを感じ取る側と、筋道を立てて物事を説明する側。立っている場所がまるで違う二人が、同じ事件の前に並びます。

謎に挑む側の肩書きに霊媒と作家が並ぶこと自体、本格ミステリの顔ぶれとしては見慣れない組み合わせです。

二人は、心霊と論理を組み合わせて真実を導き出します。霊媒と推理作家が、それぞれの持ち場から一つの事件に手を伸ばす。

ここがまず、この物語の風変わりな出発点です。

やがて二人が向き合うことになるのは、世間を騒がせている連続死体遺棄事件です。犯人は証拠を残しません。

手がかりの糸がどこにも結ばれていない相手です。この相手に辿り着けるのは、もはや翡翠の持つ超常の力だけです。

証拠の残らない犯行に、霊媒と作家の二人組がどう迫っていくのか。読者は、その試みの行方を固唾をのんで見守る位置に置かれます。

そして、殺人鬼の魔手は翡翠その人へと迫っていきます。事件を追う側だった霊媒の身に、危険が近づいていく——物語の張りつめた空気は、このあたりから立ち上がってきます。

読みどころ

読みどころは、心霊と論理という水と油を、本格ミステリの正面に据えた大胆さにあります。

霊媒を主役にした推理小説と聞くと、謎解きの賞とは縁遠い物語を思い浮かべるかもしれません。ところが、霊媒を題材に取りながら、本書は本格ミステリの賞とランキングで首位を得ました。

本格ミステリ・ベスト10も、本格ミステリ大賞も、その名のとおり本格ミステリとしての出来を問う場です。その場で、心霊を正面に据えた作品が選ばれた。

題材の風変わりさと、謎解きとしての評価が、一つの作品の上で両立しています。

もうひとつは、敵の置き方の思い切りです。犯人は証拠を残さない連続殺人鬼で、現場の手がかりを拾い集めて筋道を組むという定石が、はじめから通じにくい。

そこへ辿り着く道として残されているのが、翡翠の超常の力です。定石の効きにくい敵と、論理の外側にある力という取り合わせを、マジシャンの少女を探偵役に据えた連作から出発した作家が、一編の本格に組み上げました。

『マツリカ・マトリョシカ』では候補にとどまった本格ミステリ大賞を、題材をがらりと変えて手にした一作です。

こんな人におすすめ

本格ミステリ大賞や年末ランキングの首位作を順に読んでいる読者なら、2020年版の欄で必ず行き当たる題名です。霊媒や心霊といった題材に抵抗がなく、特殊な設定のうえで組まれる推理を楽しめる人にも向いています。

『午前零時のサンドリヨン』やマツリカシリーズで相沢沙呼の青春ミステリを知っている読者には、同じ作家の別の顔に出会う楽しみもあるでしょう。一方で、超常の要素がいっさい入らない、地に足のついた捜査小説だけを求める人には、設定そのものが合わないかもしれません。

作品の背景

2019年9月、講談社から刊行されたのが本書です。「このミステリーがすごい!」2020年版で1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版で1位、SRの会ミステリベスト10でも1位。

2019年ベストブックにも選ばれています。2020年には第20回本格ミステリ大賞小説部門を受賞し、本屋大賞にノミネート、第41回吉川英治文学新人賞の候補にもなっています。

学園の謎を書き継いできた作家が、霊媒と連続殺人鬼の物語へ踏み出した作品です。

手に取るなら

いま手に取るなら、2021年9月に出た講談社文庫版です。Kindle版もあります。

城塚翡翠シリーズの第1作で、このあとに『invert 城塚翡翠倒叙集』『invert II 覗き窓の死角』が続きます。シリーズに入るなら、刊行順にこの巻から始めるのが自然です。

霊媒と推理作家が並んで立つ最初の事件は、この文庫の一冊に収まっています。

相沢沙呼について

相沢沙呼は1983年、埼玉県の生まれです。2009年、凄腕のマジシャンでもある同級生の少女・酉乃初が学内の謎を解く『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受け、デビューしました。

作中のマジックは作者自身もたしなむもので、贈呈式では実演もしてみせています。

その後もマツリカシリーズなど学校を舞台にした青春ミステリを書き継ぎ、『マツリカ・マトリョシカ』は第18回本格ミステリ大賞の候補に挙がりました。2019年の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は「このミステリーがすごい!」2020年版と『本格ミステリ・ベスト10』2020年版でともに国内1位となり、第20回本格ミステリ大賞の小説部門も受けています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
2019
ISBN-13
9784065249710
系譜
現代国内 / 特殊設定本格
受賞歴

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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