現代国内 2024
両親を殺された子は、
幽霊に復讐を教わる。
『少女には向かない完全犯罪』方丈貴恵

書評

少女には向かない完全犯罪

余命七日の幽霊と、親を殺された少女。持たざる二人が頭脳だけで大人に挑む。

目次

「教えて? 復讐のやり方を」。一人ぼっちの少女がそう頼る相手は、あと七日で消えてしまう幽霊です。

方丈貴恵『少女には向かない完全犯罪』は、両親を奪われた子どもと、死にかけた男の幽霊が手を組む物語として幕を開けます。腕力も権力も持たない二人が、大人を相手に知恵だけで勝負を挑む。

その組み合わせの危うさが、そのまま物語の推進力になっています。

物語の入り口

黒羽烏由宇は、ビルから墜落し、死につつありました。臨死体験のさなか、彼は幽霊になります。

ただし、いつまでもこの世に留まれる幽霊ではありません。与えられた時間は、あと七日。

七日が過ぎれば消滅してしまう、期限つきの存在です。

その七日のうちに、彼は一人の少女と出会います。両親を殺された少女、音葉です。

出会いは穏やかなものではありませんでした。音葉は出会い頭に、彼へ斧を叩き込むのです。

助けを求める相手に対する挨拶としては、あまりに荒っぽい。けれども、その一撃のあとで彼女が口にする言葉は、驚くほど冷静です。

「確かに、幽霊も子供も一人じゃ何もできないよ。でも、私たちが力を合わせれば、大人の誰にもできないことがやれると思わない?」

幽霊と子ども。どちらも、ふつうの意味では無力な存在です。

警察のように捜査の権限を持つわけでもなく、大人のように力ずくで相手を黙らせることもできない。一人ずつでは、何もできない二人です。

その二人が組んで、逃げ、考え、罠にかける。少女が幽霊に求めたのは慰めではなく、復讐のやり方でした。

二人が向き合う事件には、三つの目印があります。天井に足跡の残る殺人。

閉じ込められた第一発見者。そして、犯人はこの町にいる。

どれも短い言葉ですが、足跡が天井にあるという一点だけで、事件が常識の枠からはみ出していることは伝わります。読者は、消えゆく幽霊と斧を握った少女のすぐ隣に立ち、期限の刻まれた時計の音を聞きながら、この町で起きた殺人に向き合うことになります。

読みどころ

本作の核にあるのは、持たざる者が段取りと知恵だけで大人に挑むという構図です。

主人公の二人には、使える武器がほとんどありません。だからこそ、一手ごとの段取りが勝負を決めます。

どこへ逃げ、何を考え、どんな罠を仕掛けるのか。腕力でも権力でもなく知恵で押し返すというこの構図は、物語の最後まで崩れずに保たれます。

頭脳戦の楽しみは、この一手ずつのやりとりにあります——相手より先に考え、先に動く、その積み重ねだけが二人の武器です。

もうひとつは、厚さに対する読み心地です。450ページという分量は、手に取ったときに少し身構えさせる重さがあります。

けれども、読み進めても失速する感じはなく、謎の提示と手の打ち合いが途切れずに続きます。七日という期限が最初から示されているため、頁をめくるたびに残り時間が意識され、それが物語に張りを与えています——時間に追われているのは、二人だけではなく読む側も同じです。

こんな人におすすめ

謎解きの論理と、追う者と追われる者の駆け引きを両方味わいたい人に向いています。復讐という題材は重く、少女が両親を殺されたところから始まる物語でもありますから、明るい話だけを読みたい気分のときには合わないかもしれません。

一方で、幽霊と子どもという意表をついた組み合わせが、本格の謎とどう噛み合うのかに興味がある読者には、出会い頭の斧の一撃から目が離せなくなるはずです。特殊な設定を用いた本格ミステリを好み、そのうえで登場人物の感情の起伏にも付き合いたい人に、とりわけ向いています。

作品の背景

『少女には向かない完全犯罪』は、2024年の年末ランキングで軒並み上位に入りました。「このミステリーがすごい!」2025年版で国内4位、「ミステリが読みたい!」2025年版で国内5位、本格ミステリ・ベスト10の2025年版で国内7位、2024年の〈週刊文春〉ミステリーベスト10で国内9位。

四つのランキングすべてで十位以内に名を連ねています。刊行は2024年8月、講談社から四六判450ページの単行本として、電子版と同時に出ました。

手に取るなら

いま手に取るなら、講談社の単行本か、同時に配信が始まった電子版です。四六判で450ページと厚みがありますから、まとまった時間を確保してから開くと、七日間の緊張を途切れさせずに追えます。

七日の期限が切れる前に、幽霊と少女がどこまで大人を追い詰められるのか、その行方は頁の先で待っています。

方丈貴恵について

方丈貴恵は1984年、兵庫県姫路市の生まれです。京都大学を卒業し、在学中は京都大学推理小説研究会に所属していました。

ゲーム会社勤めを経て、2019年に『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受けてデビューしています。

同作に始まる〈竜泉家の一族〉三部作は、タイムトラベルをはじめ作品ごとに異なる特殊な設定を持ち込みながら、謎解きの骨格は本格の作法で組み立てるシリーズでした。第二弾『孤島の来訪者』は2020年のSRの会ミステリーベスト10で1位に選ばれています。

三部作を書き終えたあとは、光文社から『アミュレット・ホテル』、講談社から『少女には向かない完全犯罪』と発表の場を広げ、『名探偵に甘美なる死を』と『アミュレット・ホテル』で2年続けて本格ミステリ大賞の候補に挙がりました。

書誌情報

出版社
講談社 / 単行本
刊行年
2024
ISBN-13
9784065367100
系譜
現代国内 / 特殊設定本格
受賞歴
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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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