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シャーロック・ホームズを読む順番 ―正典9冊(長編4+短編集5)の刊行順と、初めての人におすすめの入り方

シャーロック・ホームズの原典は長編4作と短編集5冊の全9冊。刊行順の一覧と、初めて読む人向けの順番、公認続編への進み方まで、順番の迷いをこの1ページで解消します。

目次

シャーロック・ホームズの原典(正典)は、アーサー・コナン・ドイルが1887年から1927年までの40年をかけて書いた、長編4作と短編集5冊の全9冊です。短編は56編、長編と合わせて60編。世界でもっとも有名な探偵の物語は、実はこの9冊で全部読めてしまいます。

問題は順番です。刊行順に読むべきか、有名な短編から入るべきか、長編から入るべきか。このページでは、まず9冊の刊行順を一覧にし、次に「初めての人はこの順番で」という当サイトの答えを示し、最後に9冊を読み終えたあとの進み方まで案内します。

こんな読者のための一冊たち

  • ホームズを一度ちゃんと読みたいが、どれが最初なのかわからない
  • 短編と長編のどちらから入るべきか、先に決めておきたい
  • 全部読むつもりなので、抜けのない一覧がほしい
以下、仕掛けには指一本触れていません。安心してお読みください。

正典9冊の刊行順 早わかり

順書名種別原書刊行
1緋色の研究長編第1作1887
2四つの署名長編第2作1890
3シャーロック・ホームズの冒険短編集第1集(12編)1892
4シャーロック・ホームズの回想(思い出)短編集第2集1894
5バスカヴィル家の犬長編第3作1902
6シャーロック・ホームズの生還(帰還・復活)短編集第3集(13編)1905
7恐怖の谷長編第4作1915
8シャーロック・ホームズ最後の挨拶短編集第4集(8編)1917
9シャーロック・ホームズの事件簿短編集第5集(12編)1927

邦題は版によって揺れます。『回想』は『思い出』、『生還』は『帰還』『復活』と訳される版がありますが、いずれも同じ作品集です。短編「ボール箱」は英国版の『回想』から外され、のちに『最後の挨拶』へ収め直された経緯があるため、版によって収録先が異なります。

初めての人におすすめの順番

刊行順にこだわる必要はありません。当サイトのおすすめは次の順番です。

順書名理由
1シャーロック・ホームズの冒険一編完結で入りやすく、ホームズの型がすでに完成している
2緋色の研究二人の出会いを見届けてから先へ進むと、シリーズ全体が物語として読める
3バスカヴィル家の犬長編4作でもっとも読み継がれてきた一冊。ここで長編の面白さを味わう
4回想 → 生還「最後の事件」から「空き家の冒険」へ、シリーズ最大の転機を刊行順で
5四つの署名 → 恐怖の谷 → 最後の挨拶 → 事件簿残りは刊行順に。円熟期の渋さは、ここまで来た人ほど沁みる

短編集は刊行順を守るのがおすすめです。『回想』の巻末「最後の事件」と『生還』の巻頭「空き家の冒険」は、この順で読んでこそ意味があります。長編4作はそれぞれ独立した事件なので、どこから入っても支障はありません。

長編4作 ―刊行順に

緋色の研究 表紙

緋色の研究(1887・長編第1作)

アフガニスタン戦線で負傷し、病み衰えて帰国した軍医ジョン・H・ワトスンが、手頃な下宿を折半する相手を探すうちに、風変わりな男と引き合わされます。それがシャーロック・ホームズ。二人はベイカー街221Bで共同生活を始め、やがてロンドン郊外ローリストン・ガーデンズで見つかった米国人旅行者の奇怪な死体に、初めて二人で向き合うことになります。

順番の話をするなら、すべてはここから始まります。1887年の雑誌〈ビートンズ・クリスマス・アニュアル〉に発表されたホームズ初登場作で、初対面のワトスンの経歴をすらすらと言い当てる場面は、のちの名探偵ものが幾度も引用した原点です。前半のロンドンの事件編と、後半の北米を舞台にした過去物語編の二部構成は、第4作『恐怖の谷』にも受け継がれます。短編から入った人も、二冊目にはぜひ。

四つの署名 表紙

四つの署名(1890・長編第2作)

事件のない退屈をコカインで紛らすホームズ、という幕開けから、この長編は始まります。そこへ現れる依頼人がメアリ・モースタン嬢。英印軍にいた父が帰国直後に姿を消し、以来、毎年決まった日に匿名で大粒の真珠が届くという不思議な話を持ち込みます。英国植民地時代のインドで結ばれた「四人の署名」と財宝をめぐる過去が、ロンドンの裏町からテムズ川の追跡劇へと物語を押し広げていきます。

刊行順では2番目ですが、初めての人は後回しでかまいません。ただし、読み飛ばすのは惜しい。ベイカー街不正規隊の少年たちが駆け回り、依頼人に惹かれていくワトスンが描かれ、シリーズの構造に関わる転機がここで訪れます。『緋色の研究』と同じく、現在の事件編と過去の物語編を併走させる二部構成。1890年、米国の雑誌〈リッピンコッツ〉の編集者ストッダートとの会食から生まれ、同席していたのがオスカー・ワイルドだったという逸話でも知られます。

バスカヴィル家の犬 表紙

バスカヴィル家の犬(1902・長編第3作)

デヴォン州ダートムアの荒野に、バスカヴィル家を呪う魔犬の言い伝えがあります。当主サー・チャールズが荒野に面した屋敷の門前で死んでいるのが見つかり、傍らには犬の足跡が残っていた。ベイカー街を訪ねてきたモーティマー医師の依頼を受け、カナダから渡英する新当主サー・ヘンリーを守るため、ワトスンが荒野の屋敷へ送り込まれます。執事、近隣の変わり者、博物学者と、周囲の人々に順に嫌疑がかかっていきます。

長編4作のなかで最も読み継がれてきた一冊で、「まず1冊」にこれを推す声が多いのも道理です。中盤、ホームズは物語の中心から一度身を退き、ワトスンの手紙と報告書が現地の様子を伝えます。相棒が主役として捜査を担うこの構成が、荒野の不気味さを際立たせる。一見超自然的な事件を物的証拠と論理で解体する型は、のちの英国本格に受け継がれました。刊行は1902年ですが、「最後の事件」より前の、ホームズ現役時代の出来事として書かれています。

恐怖の谷 表紙

恐怖の谷(1915・長編第4作)

ベイカー街に暗号めいた手紙が届き、ホームズがそれを解読した直後、サセックス州のバールストン館で殺人事件が起きたという報せが入ります。暗号の差出人はモリアーティ教授の配下。宿敵の影を背後に感じながら、ホームズはスコットランドヤードの警部とともに、堀に囲まれた古い館へ向かいます。前半は英国のカントリーハウスを舞台にした、正統な謎解きです。

シリーズ最後の長編で、読む順番としては長編4作の締めくくりに置くのが自然です。物語が中ほどにさしかかると趣ががらりと変わり、舞台は1870年代の米国ペンシルベニア州の炭鉱地帯へ。実在した秘密結社モリー・マグワイアズとピンカートン探偵社に緩く着想を得た、潜入と組織犯罪の物語が展開します。前半の館もの本格と後半の社会派ノワールという二つの顔を持つ長編として、長く愛読されてきました。『緋色の研究』の二部構成が、ここで最も大きな振れ幅で再現されます。

短編集5冊 ―刊行順に

シャーロック・ホームズの冒険 表紙

シャーロック・ホームズの冒険(1892・短編集第1集)

依頼人がベイカー街を訪れ、奇妙な、あるいは不吉な事情を打ち明ける。ホームズは些細な持ち物からその人物の来歴を読み取り、現場に立って物的証拠を解釈し、推論を積み上げて謎に迫る。収録12編はどれもこの入口を共有しています。〈ストランド・マガジン〉の1891年7月号から1892年6月号まで毎月掲載された作品を集めた第1集で、「ボヘミアの醜聞」「赤毛組合」「まだらの紐」「青いガーネット」などが並びます。

初めての一冊にこれを推すのは、一編完結で入りやすいうえに、ホームズの型がすでに完成しているからです。先行する長編2作ではなく、この連載でホームズは大衆的な人気を得ました。シドニー・パジェットの挿絵が定着したのもこの時期です。「ボヘミアの醜聞」にはアイリーン・アドラーが登場し、「青いガーネット」はクリスマスもの、「まだらの紐」はのちの密室短編の古典として名高い。寝る前に一編、行き帰りの電車で一編という読み方が、そのまま成立します。

シャーロック・ホームズの回想 表紙

シャーロック・ホームズの回想(1894・短編集第2集)

巻頭は「銀星号事件」。大レースの本命と目された名馬が失踪し、調教師が死体で発見されます。「夜の犬の沈黙」からホームズが推理する場面は、後世に繰り返し引用されてきました。続く「グロリア・スコット号事件」ではホームズが探偵になったきっかけが語られ、兄マイクロフトが登場する「ギリシャ語通訳」で、シリーズの世界は一気に広がります。〈ストランド・マガジン〉の1892年12月号から翌年12月号までの掲載作を集めた第2集です。

順番の上で、この巻は必ず『生還』の前に置いてください。巻末の「最後の事件」で、ドイルはホームズとモリアーティをライヘンバッハの滝へ向かわせ、シリーズに区切りをつけました。連載終了後には読者の抗議が殺到したと伝わります。前作で固まった型を使いながら、題材を意識して広げにかかっているのも見どころ。邦題は版によって『思い出』とも訳され、「ボール箱」の収録有無も版で異なります。

シャーロック・ホームズの生還 表紙

シャーロック・ホームズの生還(1905・短編集第3集)

「最後の事件」で滝の底へ消えたはずの名探偵が、また机の前に戻ってくる。巻頭の「空き家の冒険」でホームズの復活が正式に語られ、そこから暗号ものの古典「踊る人形」、寄宿学校が舞台の「プライアリ・スクール」、屋敷ものの「アビィ屋敷」と、粒ぞろいの13編が続きます。〈ストランド・マガジン〉の1903年10月号から1904年12月号まで発表され、1905年に一冊にまとめられました。

『回想』を読み終えたら、間を置かずにこの巻へ。ホームズが何を経て戻ってきたのかという背景が全体にじわりと効いて、独立した謎解きの連なりが、ひとつのシリーズの物語としても読めてきます。一編ずつ切り離しても楽しめるのに、順に読むと縦の線が見える。復活の裏には、米国の〈コリアーズ・ウィークリー〉が破格の原稿料で執筆を依頼したという商業的な事情もありました。邦題は版によって『帰還』『復活』と分かれます。

シャーロック・ホームズ最後の挨拶 表紙

シャーロック・ホームズ最後の挨拶(1917・短編集第4集)

幕を開けるのは「ウィステリア荘」。退屈に苦しんでいたホームズのもとへ、怪奇な雰囲気の横溢する事件が舞い込みます。兄マイクロフトが関わる海軍機密の謀略「ブルース=パーティントン設計書」、ベッドに沈み込み見る影もなく変わり果てた探偵の姿から始まる「瀕死の探偵」、田舎家の毒殺劇「悪魔の足」。そして表題作は第一次大戦前夜、1914年の英国が舞台です。1908年以降に少しずつ書き継がれた8編を、1917年10月にまとめました。

シリーズを順に追いかけてきた読者には、迷わず薦められる一冊です。10年に及ぶ執筆期間そのものが題材の幅を生み、地下鉄や国際政治、戦争の影といった「20世紀のホームズ」の顔ぶれが次々に立ち現れます。前の短編集にあった統一感はやや薄れますが、その雑多さこそ、書かれた歳月の長さを映した本書ならではの味わいです。表題作はシリーズ中で異彩を放ち、長い余韻を残します。

シャーロック・ホームズの事件簿 表紙

シャーロック・ホームズの事件簿(1927・短編集第5集)

高名な初老の教授が年の離れた若い女性と恋に落ち、それからというもの奇妙な行動をとるようになる。真夜中に家の周りを這い回り、壁のツタをよじ登る。「這う男」はそんな不穏な発端から幕を開けます。屋外で起きた不可解な事件を扱う「ソア橋」、「サセックスの吸血鬼」「三人ガリデブ」と、一癖ある事件の見本市のような12編。〈ストランド・マガジン〉の1921年10月号から1927年4月号までの掲載作を、1927年6月に一冊にまとめました。

正典の終着点です。読む順番は、迷わず最後に。多くはワトスンの一人称ですが、「マザリンの宝石」は三人称、「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」はホームズ本人の一人称という珍しい語り口で、慣れ親しんだ名探偵をいつもと違う角度から眺められます。文体は初期短編集の軽快さに比べ、ずっと渋く落ち着いた手ざわりに変わっています。『緋色の研究』から40年。長い時間をこの探偵と分かち合ってきた読者ほど、最後の一編を読み終える瞬間に重みを感じるはずです。

9冊を読み終えたら ―公認続編へ

正典を読み終えた人の次の一歩は、コナン・ドイル財団が公式に認めた、アンソニー・ホロヴィッツによる続編です。晩年のワトスンが若き日の相棒との日々を書き残す『シャーロック・ホームズ 絹の家』(2011)と、ライヘンバッハの事件の5日後から始まる『モリアーティ』(2014)。この2冊と原典の関係は、特集「ホームズとその後継者たち」で詳しく案内しています。

よくある質問

Q. ホームズは刊行順に読まないといけない?

A. 長編4作はそれぞれ独立した事件なので、どこから入っても支障はありません。短編集だけは刊行順がおすすめです。『回想』の「最後の事件」と『生還』の「空き家の冒険」は、この順で読んでこそ意味があります。

Q. 短編と長編、初めてならどちらから?

A. 短編集『シャーロック・ホームズの冒険』からがおすすめです。一編完結で入りやすく、ホームズとワトスンの関係もほぼ完成形。長編に進むなら、次は『緋色の研究』か『バスカヴィル家の犬』を。

Q. 全部で何冊、何編ある?

A. 長編4作と短編集5冊の全9冊です。短編は56編で、長編と合わせて60編。この9冊がドイル自身の手による「正典」で、それ以外は他の作家によるパスティーシュや公認続編です。

Q. どの文庫で読めばいい?

A. 創元推理文庫(深町眞理子訳)、光文社文庫(日暮雅通訳)、新潮文庫(延原謙訳)、角川文庫(駒月雅子訳)が現役で、電子書籍もそろっています。各編は独立しているので、一冊読んで気に入った訳者で揃えるのが確実です。


9冊の順番が決まれば、あとはベイカー街221Bの扉を叩くだけです。40年分の事件簿を、どうぞ最初の一冊から。

本ページのリンクは Amazon アソシエイト・プログラムにより収益を得ています。

この特集で紹介した本

緋色の研究 表紙画像
黄金期英国古典

緋色の研究

アーサー・コナン・ドイル
ホームズとワトスンが初めて出会う、シリーズの起点となった長編第1作です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#シリーズの幕開け
四つの署名 表紙画像
黄金期英国古典

四つの署名

アーサー・コナン・ドイル
英国植民地時代の財宝にまつわる事件を、テムズ川の追跡まで描いたホームズ長編第2作です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜
シャーロック・ホームズの冒険 表紙画像
黄金期英国古典

シャーロック・ホームズの冒険

アーサー・コナン・ドイル
「ボヘミアの醜聞」「赤毛組合」「まだらの紐」など12編。短編集第1集にして本格短編の規範。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#通勤30分で1話
シャーロック・ホームズの回想 表紙画像
黄金期英国古典

シャーロック・ホームズの回想

アーサー・コナン・ドイル
「銀星号事件」「マスグレイヴ家の儀式書」「最後の事件」を収めた、短編集第2集です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#通勤30分で1話
バスカヴィル家の犬 表紙画像
黄金期英国古典

バスカヴィル家の犬

アーサー・コナン・ドイル
ダートムアの荒野と魔犬伝説。ホームズ長編4作の中でも最も読み継がれてきた一冊です。
★ イチオシ#館・クローズドサークル#ホームズの系譜#怪奇と幻想の香り
シャーロック・ホームズの生還 表紙画像
黄金期英国古典

シャーロック・ホームズの生還

アーサー・コナン・ドイル
「空き家の冒険」でホームズが正式に復活。10年ぶりに再起動した短編集第3集です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#通勤30分で1話
恐怖の谷 表紙画像
黄金期英国古典

恐怖の谷

アーサー・コナン・ドイル
サセックスの屋敷の事件と、モリアーティの影が交差する長編第4作にして最終長編です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#見立て・暗号
シャーロック・ホームズ最後の挨拶 表紙画像
黄金期英国古典

シャーロック・ホームズ最後の挨拶

アーサー・コナン・ドイル
「ブルース=パーティントン設計書」「悪魔の足」など8編。第一次大戦前夜まで届く短編集第4集。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#通勤30分で1話
シャーロック・ホームズの事件簿 表紙画像
黄金期英国古典

シャーロック・ホームズの事件簿

アーサー・コナン・ドイル
「ソア橋」「三人ガリデブ」など12編。ドイルが書いたホームズ正典の最終短編集です。
★ イチオシ#クセの強い天才探偵#ホームズの系譜#通勤30分で1話

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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