百年前も探偵に会った。
ハワイ幽霊城の謎
ハワイの富豪を苦しめる幽霊の呪い。現在と100年前の名探偵が同時に挑む一冊。
海の向こうから依頼が来る、という出だしには、それだけで独特の高揚があります。『ハワイ幽霊城の謎』は、はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉の一冊。
名探偵夢水清志郎のもとに舞いこんだ新しい仕事は、ハワイからのものでした。大富豪の家を幽霊の呪いから守ってほしい、という依頼。
しかもその家の先祖は100年前、清志郎の先祖らしき人物とすでに出会っていたというのです。南海の楽園を舞台に、二つの時代の名探偵が動く、シリーズ最大級の分量の一冊です。
物語の入り口
依頼の中身は、ハワイの大富豪アロハ山田家を、幽霊の呪いから守ってほしい、というものです。南海の楽園と呼ばれる土地と、家に取り憑いた呪いという古めかしい言い回し。
まず、この取り合わせの落差が可笑しい。明るい陽射しと青い海を背景にして、屋敷にだけ影が差している。
そんな絵がすぐに浮かんできます。
「幽霊城」という言葉の据わりのよさも、この巻を支えています。城と名のつく建物には、それだけで見取り図と歴史がついてまわる。
そこに幽霊が加われば、部屋のひとつひとつが意味ありげに見えてくるものです。本来ならハワイという土地に似合わないはずの単語が、書名のなかで堂々と並んでいる。
その据わりの悪さが、最初のページを開く前から働いてくれます。
ところが話はそれだけでは終わりません。なんという不思議な縁か。
100年前、アロハ山田家の先祖は、清志郎の先祖(?)夢水清志郎左右衛門にも出会っていたというのです。こうして物語は、現在の夢水清志郎と、過去の清志郎左右衛門という二人の名探偵を同時に走らせる構えになります。
読者は依頼を受けた側の隣に立ち、陽射しの強い島で、呪いという言葉の重さを測りかねながら、二つの時代を行き来することになります。物忘れの名人でものぐさな探偵が、南の島でどれほど役に立つのか。
その心配も、いつもどおりについてまわります。呪いを信じるのか、疑うのか。
依頼を受けた時点で、探偵はすでにその問いの真ん中に立たされています。
読みどころ
夢水の名を持つ二人の探偵が、100年の隔たりを置いて、同じアロハ山田家に関わっていきます。 100年前を生きていた清志郎左右衛門と、現代の名探偵。
並べてみると、時代も服装もまるで違うのに、事件への向き合い方だけが不思議とよく似ています。100年前の島でも現代の島でも、二人はアロハ山田家の人々のために謎と向き合います。
江戸を舞台にした外伝で清志郎左右衛門に会っている読者なら、その再登場だけで嬉しくなるはずです。
このシリーズには、はっきりした芯が一本通っています。名探偵の仕事は、人が幸せになるように事件を解決すること。
本作でも、二人の探偵は「みんなをしあわせにするために」謎を解きます。呪いを退けることが目的ではなく、呪いに縛られている人たちをどうにかすることが目的なのだ、という姿勢です。
謎解きの切れ味だけで押し切らない、この温度の低すぎないところが、シリーズが長く読まれてきた理由のひとつでしょう。舞台がハワイであること、時間軸が二つあることを考えれば、448ページという厚みは必然と言えます。
こんな人におすすめ
異国の風景と、家に受け継がれてきた因縁と、時代をまたぐ仕掛け。それらをひとまとめに味わいたい読者に向いた巻です。
江戸を舞台にした外伝を先に読んでおくと、清志郎左右衛門が現れる場面の楽しさがいっそう増すはずです。逆に、薄い文庫を短時間で読み切りたいときには、この分量は少し構えが要るかもしれません。
長い休みに腰を据えて読む一冊として、子どもにも大人にも勧めやすい巻です。
作品の背景
本書は2006年9月、講談社青い鳥文庫から刊行されました。448ページは、シリーズのなかでも最大級の分量です。
挿絵は村田四郎。のちに漫画版も作られ、前編が2009年11月、後編が2010年9月に刊行されました。
手に取るなら
現行版は講談社青い鳥文庫。電子版は2014年から配信されているので、旅行の前にでも気軽に読みはじめられます。
絵で追うほうが向いている読者には、前後編の漫画版から入る道も残されています。シリーズの中盤にあたる巻ですが、ハワイからの依頼で始まる話なので、ここから読み始めても迷うことはありません。
はやみねかおるについて
はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。
クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。
2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。
〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。
子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。
書誌情報
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