現代国内 2011
秘宝を狙う怪人の相手は、
解いた事件も忘れる探偵。
『名探偵夢水清志郎の事件簿1 名探偵VS.怪人幻影師』はやみねかおる

書評

名探偵夢水清志郎の事件簿1 名探偵VS.怪人幻影師

50年前の町を再現したテーマパークに秘宝をねらう怪人が現れる、名探偵夢水清志郎の新シリーズ開幕作。

名探偵夢水清志郎の事件簿1 名探偵VS.怪人幻影師 表紙画像
はやみねかおる 講談社(講談社青い鳥文庫)2011年
目次

町ひとつを50年前の姿にそっくり作り直したテーマパークがあったとして、そこで秘宝をめぐる騒ぎが起きたら。絵に描いたような舞台に名探偵を放り込むところから、この長編は動きはじめます。

『名探偵VS.怪人幻影師』は、はやみねかおるが1994年に始めた〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉を受け継ぐセカンドシーズン、〈名探偵夢水清志郎の事件簿〉の第1作。探偵はそのままに、語り手も相棒も入れ替わった新しい入り口です。

物語の入り口

探偵役の夢水清志郎は、元M大学の論理学教授。190センチ近い長身のやせ型で、黒いサングラスと黒の背広がトレードマークという、目立つことこのうえない人物です。

ただし記憶のほうはまったく当てにならず、自分の年齢も、過去に解決した事件も、たいてい忘れてしまっている。〈事件ノート〉では隣家の三つ子姉妹、岩崎亜衣・真衣・美衣が「教授」と呼んで巻き込まれていく形でしたが、本作から相棒が入れ替わります。

物語を語るのは小学6年生の宮里伊緒。妹の美緒、そして中島ルイを加えた三人が、新しい顔ぶれとして探偵のそばに立ちます。

忘れっぽい元教授という探偵の芯は、そのまま残されています。

舞台となるのは、50年前の町並みを再現したテーマパーク「レトロシティ」。夢水が訪れたその町に、秘宝を手に入れようとして騒ぎを起こす怪人、幻影師が現れます。

事件は一つでは終わらず、夢水は謎解き好きの伊緒と美緒の姉妹と一緒に、続けて起こる怪事件に向き合うことになります。探偵と怪人が正面から向かい合う、わかりやすい対決の構図です。

読者は、謎解きが大好きな小学生の姉妹と同じ位置に立たされます。目の前には、50年前の町という遊び場めいた空間。

そこに秘宝と怪人が加われば、宝探しと鬼ごっこを同時に始めたような高揚が生まれます。頼りになるのかならないのか判然としない探偵の後ろを、姉妹と一緒についていく。

この距離感が、新しいシーズンの空気を決めています。

読みどころ

舞台と目的と敵役が、最初の数十ページできれいにそろう構成です。 50年前の町という人工的な空間は、そのまま外界から切り離された盤面として働きますし、そこに「秘宝」という明快な目当てと、正体の知れない怪人という対戦相手が置かれる。

読者が迷子になる余地がほとんどありません。初めての一冊として渡すのに、これほど親切な設計もそうありません。

読み口は軽く、ページは速く進みます。それでいて謎の組み立て方は、子ども向けだからと手加減されてはいません。

1994年から続いてきたシリーズが仕切り直しの第1作でやることは、たいてい決まっています。旧作を知らない読者に扉を開けること。

本作もその役目を素直に果たしていて、前のシーズンを一冊も読んでいなくても置いていかれる心配はありません。逆に、かつて〈事件ノート〉を読んだ人にとっては、変わらない探偵と入れ替わった語り手との落差そのものが、ひとつの読みどころになります。

こんな人におすすめ

小学生のころに児童向けミステリで謎解きを覚えた人が、その感触を確かめに戻ってくる本として具合がいい一冊です。夢水を初めて知る子どもにも、ここが最も入りやすい扉でしょう。

逆に、〈事件ノート〉の三姉妹に思い入れの強い読者は、語り手の交代に少し寂しさを覚えるかもしれません。

作品の背景

〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉は、1994年の『そして五人がいなくなる』に始まるシリーズです。ファーストシーズンは2009年まで、外伝を含めて十数冊が積み上がりました。

コミック版は2009年に第33回講談社漫画賞の児童部門を受けています。本作はその系譜を引き継ぐ〈事件簿〉の第1作として、2011年2月に講談社青い鳥文庫から刊行されました。

320ページ、絵は佐藤友生。以後、2012年に『名探偵VS.学校の七不思議』、2014年に『名探偵と封じられた秘宝』と続いていきました。

手に取るなら

現行版は講談社青い鳥文庫。電子版もあります。

〈事件簿〉は本作から『名探偵VS.学校の七不思議』『名探偵と封じられた秘宝』と続くので、気に入ったら刊行順に。クセの強い探偵に振り回される楽しさを、まずここから味わってみてください。

旧作を知っている人は、新しい語り手の目を通して見る探偵の姿を、旧作との違いごと楽しめます。

はやみねかおるについて

はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。

クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。

2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。

〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。

子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社青い鳥文庫
刊行年
2011
ISBN-13
9784062851978
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 名探偵もの

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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