予知夢
予知夢や霊視、ポルターガイストといった怪異めいた事件に、湯川が理詰めで挑む第2作
見た夢がのちに現実になった。そんな話を耳にすると、偶然だと笑いながらも、どこかで少しだけ背筋が寒くなるものです。
本作は、そうした「説明したくなる不思議」ばかりを集めた5編の連作で、『探偵ガリレオ』に続いて物理学者・湯川学が謎に挑むシリーズ第2作にあたります。
物語の入り口
深夜、16歳の女子高校生の部屋に、ひとりの男が忍び込みます。母親が猟銃を撃つと男はバルコニーから逃げ出し、のちに逮捕されました。
取り調べで男が語ったのは、17年も前にこの少女と結ばれる夢を見た、という奇妙な話です。しかもその夢は、男が小学4年生のときに書いた作文に、たしかに書き残されていました。
少女が生まれる前に見た夢が、なぜ彼女を指していたのか。冒頭の「夢想る」から、物語はいきなり常識の足もとを揺さぶってきます。
続く話でも、刑事の草薙が持ち込む事件は奇妙なものばかりです。殺されたはずの女性を見たという証言、ひとりでに動く家具と揺れる部屋、まだ起きていない「死」を目にしたという少女。
「霊視る」「騒霊ぐ」「絞殺る」「予知る」と、題名も一編ごとに謎の性格を映しています。
読みどころ
怪談めいた入り口と、理詰めの出口。その落差の大きさが、本作をいちばん楽しくしているところです。
予知夢、霊視、ポルターガイスト。どれも、ふつうなら謎解きの土俵に乗りにくい題材です。
湯川はそれを頭ごなしに否定するのではなく、目撃されたこと、語られたことを一つずつ事実として受け止め、そのうえで筋の通る説明を探していきます。オカルトの気配に身をすくめながら読み進めた先で、すっと霧が晴れる。
その瞬間の気持ちよさが、一編ごとに味わえます。
本作では、「人の語り」が謎の核になっている話が目立つ点にも注目です。夢の記憶、目撃の証言、子どもが口にしたこと。
それらが本当なのか、どこまで信じてよいのかを、湯川の視点とともに吟味していく。物理の知識だけでなく、人がなぜそう見たのか、なぜそう語ったのかを考える面白さが加わり、謎解きの手触りに幅が出ています。
こんな人におすすめ
怪奇小説の雰囲気は好きだけれど、最後には合理的な答えがほしい、という人にぴったりの一冊です。短い話を一つずつ読み切れるので、シリーズを『探偵ガリレオ』から順に追っている人が、次に手を伸ばすにもちょうどよい分量です。
暗い夜道を歩いた後のように少しひやりとしつつも、読み終えるころには気分がすっきりと晴れている。そんな読書を求めている人にも向いています。
作品の背景
単行本は2000年6月に文藝春秋から刊行されました。題名の付け方も目を引きます。
「夢想る」と書いて「ゆめみる」、「霊視る」で「みえる」、「騒霊ぐ」で「さわぐ」、「絞殺る」で「しめる」、そして「予知る」で「しる」。漢字が事件の正体めいたものを、ふりがなが動作を示すような二重の読ませ方で、ページを開く前から一編ごとの空気が伝わってきます。
のちに福山雅治主演のドラマ『ガリレオ』の原作のひとつとなり、映像から湯川を知った読者にもなじみのある事件が並んでいます。
手に取るなら
いま手に取りやすいのは2003年8月に出た文春文庫版で、巻末には三橋暁による解説が付いています。
東野圭吾について
東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。
翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。
長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。
刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。
書誌情報
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