現代国内 2014
マスカレード・イブ
『マスカレード・イブ』東野圭吾

書評

マスカレード・イブ

新田浩介と山岸尚美が出会う前夜を描く4話の連作で、表題作は東京と大阪をまたぐアリバイもの。

マスカレード・イブ 表紙画像
東野圭吾 集英社(集英社文庫)2014年
目次

ホテルの客は、誰もが仮面をかぶってやってくる。その仮面を守るのがホテルマンなら、仮面の下の素顔を暴くのが刑事の仕事です。

マスカレードシリーズの2作目にあたる本作は、そんな正反対の職業を背負った新田浩介と山岸尚美が、まだ互いの名前も知らなかった頃に出会った事件を集めた連作です。

物語の入り口

収められているのは4つの物語です。

最初の「それぞれの仮面」では、山岸の前に、かつての恋人が現れます。持ち込まれたのは、部屋から姿を消した女性を探してほしいという、ホテルの仕事としてはいささか厄介な相談でした。

続く「ルーキー登場」の主役は、刑事になりたての新田です。ホワイトデーに起きた殺人事件の捜査に、新米として加わります。

三つ目の「仮面と覆面」で山岸が守らなければならないのは、ある"女流作家"の秘密。熱心なファンの目から、その正体を隠し通さなければなりません。

そして表題作「マスカレード・イブ」は、東京と大阪にまたがる物語です。ホテル・コルテシア大阪で働く山岸は、ある客たちがかぶっている仮面に気づきます。

同じころ、東京で起きた殺人事件を追う新田が目をつけたのは、ひとりの准教授でした。事件の夜は大阪にいたと言い張りながら、泊まったホテルの名だけはなぜか口にしない。

殺人の疑いをかけられてもなお守りたい秘密とは何なのか。崩れそうにないアリバイを前に、新田は考えを巡らせます。

読みどころ

ホテルの物語と警察の物語が交互に顔を出すのが、この連作の妙味です。山岸の物語では、客の事情を詮索しすぎず、それでいて見過ごしもしないという接客の綱渡りがそのまま謎解きになっています。

新田の物語では、駆け出しの刑事が手がかりを拾い集め、相手の言葉の裏を読もうとする。ふたりの物差しはまるで違いますが、どちらも「人が隠しているもの」に向き合う点では同じです。

山岸にとって客の仮面を守ることは、仕事の信念そのものです。一方の新田は、仮面の下を見なければ犯人にたどり着けない。

同じ「仮面」という言葉をめぐって、ふたりはまだ出会う前から正反対の場所に立っています。そのすれ違いを外から眺められるのは、前日譚ならではの楽しさでしょう。

こんな人におすすめ

一話完結の謎解きを、少しずつ味わいたい人に向いています。ホテルという舞台の華やかさと、その裏側で起きる小さな事件の手触りを好む人にもぴったりです。

シリーズの順番としては2作目ですが、すでに『マスカレード・ホテル』で新田と山岸のコンビに親しんだ人なら、ふたりの「出会う前」を知る楽しみがいっそう深まるでしょう。

作品の背景

シリーズの幕開けとなった『マスカレード・ホテル』では、謎の暗号から次の犯行現場が一流ホテル・コルテシア東京だと判明し、警視庁捜査一課の新田がホテルマンに化けて潜入します。その教育係を任されたのが、フロントクラークの山岸でした。

互いの流儀がぶつかり合うこのコンビの、さらに手前の時間をすくい取ったのが本作です。

本作は単行本を経ず、2014年8月21日に最初から集英社文庫として刊行されました。文庫オリジナルという形でありながら部数を大きく伸ばし、ミリオンセラーになっています。

手に取るなら

集英社文庫版(336ページ)で読めます。4話それぞれが独立しているので、通勤の合間や寝る前に一話ずつ読み進めるのにも向いた一冊です。

東野圭吾について

東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。

翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。

長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。

刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。

書誌情報

出版社
集英社 / 集英社文庫
刊行年
2014
ISBN-13
9784087452167
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 連作短編

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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