倒す武器は嘘の推理。
虚構推理
怪異の知恵神となった少女が「虚構の推理」で怪異を退治。本格構造を反転させた本格ミステリ大賞受賞作。
巨大な鉄骨を手にしたアイドルが、街をさまよい歩いている。そんな都市伝説が、この物語の発端です。
城平京『虚構推理』は、その怪異に、刃物でも呪文でもなく推理で立ち向かう二人の物語です。ただ、その推理には題名のとおり「虚構」の二文字がかぶせられています。
怪異譚の姿をまとった、本格ミステリ大賞の受賞作です。
物語の入り口
事の起こりは、一つの都市伝説です。巨大な鉄骨を手にしたアイドルが、街を徘徊している。
その名を鋼人七瀬といいます。アイドルと鉄骨という噛み合わない二つが一つの姿に収まったこの噂が、立ち向かうべき相手として物語の真ん中に据えられています。
立ち向かうのは二人です。一人は岩永琴子。
人の身でありながら、妖怪たちからもめ事の仲裁や解決を頼まれる『知恵の神』となった存在です。人間が、人ならぬものたちの相談役を務めている。
その立場の特異さが、物語の出発点に置かれています。
もう一人は九郎。とある妖怪の肉を食べたことで、異能の力を手に入れた大学院生です。
妖怪から知恵を頼られる側と、妖怪の肉をその身に取り込んだ側。どちらも怪異の世界に片足を置いていながら、そこへの関わり方はまるで向きが違います。
この対の組み合わせが、鉄骨を持つアイドルの前に並ぶことになります。
そして、二人が選ぶ戦い方こそが、この物語の看板です。怪異を退けるのに、力ずくでも祈りでもなく、推理を用いる。
それも、合理的でありながら虚構でもある推理で、都市伝説そのものを消し去ろうというのです。
読み手は、得体の知れない噂を前にして、知恵の神と異能の大学院生のすぐ後ろに立たされます。合理的で、しかも虚構である推理とは、いったい何なのか。
その問いを抱えたまま、都市伝説との対決が始まります。
読みどころ
題名が示すのは、推理という営みの向きそのものを組み替えてしまう企てです。
『虚構推理』という題は、「虚構」と「推理」の二語を、あいだに何も挟まずに並べています。筋道は通っていて、それでいて作りごとでもある。
噛み合いそうにない二つの性質を、一つの推理に同居させているわけです。推理に何をさせるのか、その使い道の設定そのものが、この作品の骨格になっています。
答えを当てることだけが推理の仕事ではない——題名の四文字が、まずそのことを宣言しているように読めます。
もうひとつは、探偵役の顔ぶれと舞台の組み合わせです。妖怪が人にもめ事の仲裁を頼み、妖怪の肉が人に異能を与える。
そうした前提が当たり前に置かれた世界でありながら、この作品は本格ミステリ大賞の小説部門を受けています。怪異の存在と本格の看板が、一つの物語のなかで同居しているわけです。
知恵の神と、異能を得た大学院生——謎に向き合う側の顔ぶれからして、人の世の外側に半歩はみ出しています。講談社の案内によれば、シリーズの累計部数は300万部を超えています。
その最初の一冊が、鋼人七瀬の噂を扱ったこの作品です。
こんな人におすすめ
妖怪や異能といった、現実にはない設定を持ち込んだ謎解きに惹かれる人に向く作品です。推理が答えを言い当てる場面だけでなく、推理という道具の使い道そのものが問われる物語を読みたい人にも向きます。
アニメやコミカライズで二人を知った人が、最初の事件を文章でたどり直す入り口としても手ごろです。第12回本格ミステリ大賞小説部門の受賞作なので、歴代受賞作を順に読んでいる人の一覧にも、この題名が並びます。
作品の背景
第12回本格ミステリ大賞の小説部門を受けたのが、この作品です。2011年に講談社ノベルスから『虚構推理 鋼人七瀬』の題で刊行され、翌2012年に賞を得ました。
その後、片瀬茶柴によるコミカライズが講談社の「少年マガジンR」「月刊少年マガジン」で連載され、2020年と2023年にはテレビアニメにもなっています。長編と短編集の両方で続巻が刊行されつづけている虚構推理シリーズの、これが第1作です。
刊行は、城平京のデビューから十余年ののちのことでした。
手に取るなら
いま手に取るなら、2019年1月に刊行された講談社タイガの『虚構推理』です。2011年の講談社ノベルス版は『虚構推理 鋼人七瀬』という題でしたが、現行の講談社タイガ版では怪異の名が外れた題で収められています。
シリーズの第1作にあたるので、続く長編や短編集へ進む前に、まずここから入るのが順当です。鉄骨を手にしたアイドルの噂と、それを虚構の推理で滅ぼそうとする二人。
虚構推理シリーズの歩みは、この対決から始まります。
城平京について
城平京は1974年、奈良県生まれの作家・漫画原作者です。筆名は古都・平城京のもじりで、大阪市立大学を卒業しています。
1997年、公募アンソロジー『本格推理』に短編「飢えた天使」が載り、翌1998年、第8回鮎川哲也賞の最終候補作『名探偵に薔薇を』が創元推理文庫から刊行されてデビューしました。
その後は漫画原作でも大きな仕事を重ね、『月刊少年ガンガン』に連載された『スパイラル 〜推理の絆〜』はヒットシリーズになりました。ほかに『絶園のテンペスト』の原作も手がけています。
小説では2012年、『虚構推理 鋼人七瀬』で第12回本格ミステリ大賞の小説部門を受け、同作に始まる虚構推理シリーズを書き継いでいます。
書誌情報
城平京をもっと読む
全作品一覧へ →似た読み味を、他の作家で
気分タグ・系譜の重なりから自動抽出。★は管理人が実読して太鼓判を押した本