虚構推理短編集 岩永琴子の純真
恋人の無実を知りながら証言できない雪女。法廷に立てない証人の相談に琴子が挑む短編集。
事件の夜、恋人がどこにいたのかを知っている。それなのに、その証言を警察へ届ける手立てがない。
『虚構推理短編集 岩永琴子の純真』の巻頭で途方に暮れているのは、人間ではなく雪女です。妖怪たちの悩みごとに知恵の神・岩永琴子が答えていく虚構推理シリーズの4作目で、『岩永琴子の出現』に続く2冊目の短編集にあたります。
物語の入り口
「雪女のジレンマ」の雪女は、人間の男と幸せな日々を送っていました。その恋人に殺人の容疑がかかります。
彼女は事件当夜のアリバイを知っていますが、戸籍さえ持たない妖怪が警察の前で証言できるはずもありません。法廷に立てない「人外」の証人は、それでも二人の幸せな暮らしを守ろうと、自分から動き出します。
黙って見ていれば恋人は罪を負わされ、かといって人間の証人として名乗り出ることもできない。そのあいだで揺れる雪女から、琴子のもとへ切実な相談が届きます。
本来なら事件をあっさり片づけるはずの証言が、出どころのせいで使えない。真実を知る者がいるのに、その真実を人間の側へ手渡せない。
怪異と人間のあいだに横たわる溝が、そのまま謎の形をとって目の前に現れます。
読みどころ
一話ごとに、謎の手ざわりががらりと変わります。
「雪女のジレンマ」が、人ならぬ者の恋と殺人容疑をめぐる話だとすれば、「死者の不確かな伝言」は肩の力が抜けるほど身近な事件から始まります。死体のそばに残されていたのは、あまりに平凡なダイイングメッセージ。
挑むのは高校生のころの琴子です。ありふれた手がかりの意味を解き明かし、そこからさらに読みを反転させていく運びは、怪異が前に出てこない場面でも琴子の頭の回転が少しも鈍らないことを見せてくれます。
雪女の一編には、人間と妖怪のあいだに育った恋模様という、もうひとつの読みどころがあります。理屈を一段ずつ積み上げていく冷ややかな推理と、題名に掲げられた「純真」という言葉のぬくもり。
その取り合わせが、この短編集の色合いを決めています。
こんな人におすすめ
ダイイングメッセージものが好きで、ひとつの手がかりから何通りもの読みが立ち上がる瞬間を味わいたい人に。人と妖怪の恋を描いた話に弱い人には、雪女の一編がよく響くはずです。
高校時代の琴子に会えるのも、シリーズを追ってきた読者にはうれしいところでしょう。
作品の背景
2021年10月15日に発売された本書は、月刊少年マガジンコミックスで続く漫画版『虚構推理』の原作として書き下ろされました。漫画のための物語を小説が先に用意する、という順序で生まれた一冊です。
「雪女のジレンマ」は2023年のアニメ第2期で取り上げられ、「雪女のジレンマ」「雪女のアリバイ」「雪女の純真」の3話をかけて描かれました。
手に取るなら
講談社タイガの320ページ。一話ずつ区切りのつく短編集なので構えずに読み始められますが、琴子と不死の九郎がどういう間柄なのかは、第1作『虚構推理』(本格ミステリ大賞受賞作)で押さえておくと話の端々がよく見えてきます。
証言台に立てない雪女の願いがどこへ行き着くのか、まずは巻頭の一編からどうぞ。
城平京について
城平京は1974年、奈良県生まれの作家・漫画原作者です。筆名は古都・平城京のもじりで、大阪市立大学を卒業しています。
1997年、公募アンソロジー『本格推理』に短編「飢えた天使」が載り、翌1998年、第8回鮎川哲也賞の最終候補作『名探偵に薔薇を』が創元推理文庫から刊行されてデビューしました。
その後は漫画原作でも大きな仕事を重ね、『月刊少年ガンガン』に連載された『スパイラル 〜推理の絆〜』はヒットシリーズになりました。ほかに『絶園のテンペスト』の原作も手がけています。
小説では2012年、『虚構推理 鋼人七瀬』で第12回本格ミステリ大賞の小説部門を受け、同作に始まる虚構推理シリーズを書き継いでいます。
書誌情報
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