殺人事件の関係者。
むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。
誰もが筋書きを知る昔ばなしが、そのまま謎解きの舞台に変わる連作短編集です。
事件が起きる前から、読者はもう舞台の見取り図を持っています。竹林で光る一本の竹、穴へ転がり落ちるおむすび、手の中のわらしべ——。
青柳碧人『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』は、誰もが筋書きを知る昔ばなしを、そのまま謎解きの条件に据えた連作短編集です。ベストセラーとなった前作に続く第2弾で、題材には「かぐや姫」から「かちかち山」まで、六つの昔ばなしが並びます。
題名に加わった「やっぱり」の四文字が、同じ趣向の二度目の訪問であることを、表紙の段階で告げています。
物語の入り口
収録は5編です。「竹取探偵物語」「七回目のおむすびころりん」「わらしべ多重殺人」「真相・猿蟹合戦」「猿六とぶんぶく交換犯罪」。
題名を並べるだけで、昔ばなしの名前にミステリの語彙が接ぎ木されているのがわかります。竹取の物語には「探偵」の二字が差し込まれ、わらしべには「多重殺人」が、ぶんぶく茶釜には「交換犯罪」がつながれる。
猿蟹合戦の頭には「真相・」の三文字が置かれています。題名そのものが、よく知った話に別の光を当てる予告——そう読める並びです。
どの編も、入り口の作りはよく似ています。昔ばなしの登場人物と土地と約束事が、説明抜きでそこにある。
竹から生まれた姫を翁が育てたこと、転がったおむすびが穴の奥へ消えていくこと、わらしべ一本が次々と別の品に替わっていくこと。日本で育った読者なら、絵本や読み聞かせで一度は通ってきた筋でしょう。
特殊な設定を持ち込むミステリは、世界の決まりごとを飲み込ませるまでに頁を割くことが多いのですが、この連作ではその手間がほとんどいりません。決まりごとは、すでに読者の頭の中にしまわれているからです。
読者は、筋を知っているという有利な場所から、それぞれの事件の前に据えられます。知っているはずの話のどこで歯車がずれ、どこに死体が転がり込むのか。
子どもの頃に聞いた調子を思い出しながら頁をめくるうちに、見慣れた場面がいつのまにか現場の顔つきを帯びていきます。
もうひとつ、5編には、あるテーマで互いにつながる仕掛けがあります。一編ずつ閉じた謎を追いながら、その糸がどこを通っているのかも、5編を読み進めるあいだ手探りしていくことになります。
読みどころ
読みどころは、説明のいらない舞台で、謎解きの筋道だけを一直線に味わえるところにあります。
一編は短く、そのぶん頁の大半が謎と推理に振り向けられます。舞台の地図を描く手間が省けているので、事件が起きてから解決までの距離がとても近い。
しかも題材の幅が広く、都の貴人たちが登場する求婚の物語もあれば、山の動物たちが主役の仇討ち話もあり、ころころと転がる素朴な話もある。語り口の違う昔ばなしが一冊に並ぶので、同じ趣向を5回繰り返しても単調に感じにくい作りです。
前作が「浦島太郎」や「桃太郎」といった誰もが真っ先に挙げる定番を並べていたのに比べると、今回は「おむすびころりん」「ぶんぶく茶釜」のように、覚えてはいても久しく思い出さなかった話が交じるのも楽しいところです。
もうひとつは、短編集としての読み方が二重になっていることです。各編はそれぞれに閉じた謎として楽しめますが、5編をつなぐテーマの糸が、通読の楽しみをもう一段加えています。
一編を読み終えるたびに、それまでの編と見比べて共通の何かを探したくなる。連作としてまとめて読む意味は、最初の一編を開く前から用意されているわけです。
こんな人におすすめ
前作を楽しんだ読者には、迷わず次の一歩として差し出せる続編です。本格ミステリの論理は好きでも、長い設定説明に付き合うのは少し億劫だという人にも向いています。
逆に、昔ばなしの筋をうろ覚えのまま開くと、この趣向の妙味がいくらか目減りするかもしれません。気になる題材があれば、原話をざっと思い出してから読むと、ずれの面白さがはっきり見えてきます。
作品の背景
本書は、2019年に双葉社から出た『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の続編として、2021年10月に単行本で刊行されました。前作は「浦島太郎」「鶴の恩返し」「因幡の白兎」「一寸法師」「桃太郎」を題材にした5編で、年間ミステリーランキングに名を連ね、2020年の第17回本屋大賞では10位に入っています。
2025年10月には第三作『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』が出て、シリーズは3冊を数えました。この巻は、その真ん中に立つ一冊です。
手に取るなら
2021年10月に双葉社から単行本で出たのち、双葉文庫に入りました。装画は五月女ケイ子が手がけています。
昔ばなしという共通の土台があるので、この巻から読み始めても趣向はすぐに飲み込めますが、シリーズの順に追うなら2019年の前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』から入るのが自然です。題名の「やっぱり」に込められた再訪の感覚は、前作を知っているほど深く伝わる一作です。
青柳碧人について
青柳碧人は1980年、千葉市の生まれです。早稲田大学教育学部を卒業し、在学中はクイズ研究会に所属していました。
千葉市の学習塾で学習指導や教材開発に携わるかたわら書いた数学ミステリ『浜村渚の計算ノート』で、2009年に第3回「講談社Birth」小説部門を受けてデビューします。浜村渚のシリーズは長く書き継がれる代表作になりました。
日本の昔ばなしを密室やアリバイ、ダイイングメッセージといった謎解きの型に仕立てた『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は2020年の本屋大賞で10位に入り、西洋の童話を下敷きにした赤ずきんのシリーズも続いています。2025年には、江戸川乱歩と杉原千畝を描いた歴史小説『乱歩と千畝─RAMPOとSEMPO─』が第173回直木三十五賞の候補になりました。
書誌情報
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