罠が仕掛けてある。
地雷グリコ
子どもの遊びを本気の勝負に組み替え、三つの賞を同時にさらった頭脳戦連作。
射守矢真兎。女子高生。
勝負事に、やたらと強い。青崎有吾『地雷グリコ』の主人公は、この三つの言葉で足りる少女です。
友人の鉱田と彼女が巻き込まれるのは、子供の遊びをモチーフにしたゲームの数々。罠の位置を読み合って階段を上ってゆく「地雷グリコ」、独自手を追加できるじゃんけん「自由律ジャンケン」、歩数とかけ声の文字数を入札できる「だるまさんがかぞえた」。
強者を相手に、真兎は譲れないものをかけて勝負に挑みます。2023年にKADOKAWAから刊行されたこの連作は、翌2024年に第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補になり、年末ランキング各誌で1位を独占しました。
物語の入り口
主人公は射守矢真兎。女子高生で、勝負事にやたらと強い。
友人の鉱田とともに、子供の遊びをモチーフにしたゲームの数々に巻き込まれていきます。収録は5編とエピローグで、並び順は「地雷グリコ」「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」「エピローグ」です。
「地雷グリコ」は、罠の位置を読み合って階段を上ってゆく遊び。子供のころのグリコ、チョコレート、パイナップルに、地雷という要素が足されています。
「自由律ジャンケン」は、独自手を追加できるじゃんけん。グー・チョキ・パーだけでは終わりません。
「だるまさんがかぞえた」は、歩数とかけ声の文字数を入札できる、だるまさんがころんだ。「ころんだ」が「かぞえた」に変わった題名に、足された要素がそのまま表れています。
残る「坊主衰弱」と「フォールーム・ポーカー」も、題名に元の遊びの名前が透けて見えます。
強者を相手に、真兎は譲れないものをかけて勝負に挑む。相手は強く、賭けられたものは軽くない——子供の遊びの顔をしたゲームが、ここでは本気の読み合いの場に変わります。
読みどころ
この連作の醍醐味は、各勝負の前にルールと条件が読み手に開示され、そのうえで真兎がどう勝つかを見届ける頭脳戦の構造にあります。 ルールは公平に示されます。
相手も強い。それでも真兎は勝ちに行く。
読み手は、ルールを知った時点で、自分ならどう戦うかを考えることができます。そして真兎の手を見て、自分の考えがどこまで届いていたかを知る。
本格ミステリで、手がかりを全部見せたうえで探偵の推理を待つのと、同じ読み方です。殺人の代わりに勝負がある。
犯人の代わりに必勝の手がある。本格ミステリ大賞と協会賞が同時にこの作品を選んだのは、その構造が本格そのものだったからだと思います。
もうひとつは、子供の遊びという元手の懐かしさです。グリコ、じゃんけん、だるまさんがころんだ。
誰もが知っている遊びに、一つ要素を足すだけで、読み合いの深さが一変する。ルールを聞いた瞬間に「自分もやってみたい」と思わせる設計で、その気持ちのまま真兎の勝負を追うことになります。
勝負を扱う物語は、勝ち負けそのものより、なぜ負けられないかで人を動かします。真兎は何を賭けて卓についているのか。
その問いを胸に置いたまま、読み手は一つひとつの勝負に立ち会うことになります。
作品の背景
〈裏染天馬〉シリーズなどで殺人事件の推理を書いてきた青崎有吾が、その論理を「勝負」に向けたのが、この連作でした。
単行本は2023年11月27日にKADOKAWAから、四六変形判352ページで刊行され、2026年6月16日に角川文庫に入りました。2024年には第24回本格ミステリ大賞小説部門、第77回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
年末のランキングでも、「このミステリーがすごい!」2025年版、週刊文春ミステリーベスト10 2024年、本格ミステリ・ベスト10 2025年版、「ミステリが読みたい!」2025年版の国内部門で、いずれも1位でした。本格の賞と、エンターテインメントの賞と、年末ランキングのすべてで一番になった作品です。
手に取るなら
角川文庫版は448ページ、小川哲の解説つきです。本格ミステリを読み慣れた人には、殺人なしで本格の読み方が成立することを確かめる一冊になります。
ミステリを普段読まない人にも、ゲームの話として手渡せます。ルールは最初に開示されますから、真兎が動く前に、まず自分で一手を考えてみるとよいでしょう。
罠の位置を読み合って階段を上る——その一段目から、彼女の勝負は始まっています。
青崎有吾について
青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。
同賞で初めての平成生まれの受賞者です。
高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
書誌情報
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