長い廊下がある家
幽霊屋敷と別の家を結ぶ地下廊下の死、鍵のかかった扉の謎を火村が解く表題作など4編
山奥で道に迷った青年が、ようやく見つけた明かりのともる一軒家。なかでは見知らぬ男女が夕食の最中で、ここは「幽霊屋敷」なのだと告げられる。
表題作「長い廊下がある家」の幕開けは、まるで怪談の語り出しのようです。けれど、ひと晩が明けたところで、物語は一気に本格ミステリの顔に変わります。
物語の入り口
迷い込んだのは、日比野浩光という青年。家にいたのは、心霊現象を取材するためにやって来た三人の男女でした。
山の家でひと晩を過ごし、目覚めた翌朝に事件は起こります。「幽霊屋敷」と別の家とをつなぐ長い地下廊下で、取材に加わるはずだったもう一人の男が、血を流して死んでいるのが見つかるのです。
この不可解な死に向き合うのが、臨床犯罪学者の火村英生。友人の推理作家・有栖川有栖とともに、鍵のかかった扉をめぐる謎を解きほぐしていきます。
本書は表題作を含む4編の作品集です。「雪と金婚式」では、金婚式を迎えた夫婦の家で、翌日、同居していた義理の弟が他殺体となって見つかります。
「天空の眼」は、アリスが隣人を介して、妙な顔が写りこんだ一枚の写真について相談を持ちかけられる話。そして「ロジカル・デスゲーム」では、火村自身が命を賭けたゲームを挑まれることになります。
読みどころ
表題作の楽しさは、何といっても舞台の妙にあります。二軒の家を地下でつなぐ長い廊下と、そこにある鍵のかかった扉。
怪談めいた夜の空気と、扉一枚をめぐる理詰めの推理とが、ひとつの話のなかで違和感なく同居しています。廊下と扉、二軒の家の位置関係を頭のなかに描きながら読むと、火村の推理の筋道がぐっと追いやすくなるはずです。
幽霊の噂がどこまで事件に関わっているのか、という興味も、最後までページをめくる手を後押ししてくれます。
4編の振れ幅の大きさも見逃せません。祝いの日の翌日に起こる家庭内の悲劇、一枚の写真をめぐってアリスに持ち込まれる相談、そして探偵自身が追い詰められる緊迫の一編。
同じコンビの物語でありながら、話ごとに温度がまるで違うので、読み進めるうちに飽きがきません。とりわけ「ロジカル・デスゲーム」は、ふだんは事件を外から見ている火村が当事者の側に立たされる一編で、シリーズを追ってきた人ほど落ち着かない気持ちで読むことになるでしょう。
こんな人におすすめ
不気味な館の雰囲気は好きだけれど、最後はきちんと論理で決着してほしい人に。短めの話を少しずつ読み進めたい人にも向いています。
作品の背景
単行本は2010年11月に光文社から刊行され、2012年8月にはカッパ・ノベルス、2013年7月には光文社文庫に収められました。2016年に日本テレビで放送された連続ドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』では、「ロジカル・デスゲーム」が最終話の原作に選ばれています。
手に取るなら
2023年8月には光文社文庫から新装版が出ており、いまはこちらが手に入れやすい形です。電子書籍でも配信されています。
幽霊屋敷と地下廊下の謎から始まる4つの事件、まずは日比野青年と一緒に、明かりのついたあの家へ足を踏み入れてみてください。
有栖川有栖について
有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。
卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。
作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。
2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。
書誌情報
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