現代国内 2021
村人が次々喰い殺される。
犯人は人か、狼か。
『アンデッドガール・マーダーファルス 3』青崎有吾

書評

アンデッドガール・マーダーファルス 3

村人が次々に喰い殺されるドイツの村の怪事件に、生首の名探偵が論理だけで挑む一冊です。

目次

村人が次々に喰い殺され、闇夜に少女が連れ去られる。犯人は人か、それとも狼か。

青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス 3』は、この問いを掲げてドイツへ向かいます。〈牙の森〉の謎を追う〈怪物事件専門の探偵〉、真打津軽たち鳥籠使いの一行が遭遇したのは、人狼にまつわる怪事件でした。

怪物たちの〈夜宴〉と、保険機構の〈ロイズ〉も介入し、舞台はやがて人狼の隠れ里へ。満月の夜が戦乱を呼び、二つの村がぶつかり合おうとしたそのとき、輪堂鴉夜の謎解きが始まります。

2021年4月に講談社タイガから出た、シリーズ第三弾です。

物語の入り口

このシリーズは、十九世紀末のヨーロッパを舞台に、吸血鬼も人造人間も切り裂き魔も実在する世界で、怪物がらみの事件だけを引き受ける探偵たちが動く物語です。鳥籠使いの三人組を、まず紹介しておきます。

輪堂鴉夜は鳥籠に収まった生首の探偵。真打津軽は、その籠を提げて歩く半人半鬼の青年。

馳井静句は従者です。物語は明治三十年の日本で三人が出会うところから始まり、この巻ではドイツに入ります。

生首が推理を語り、半鬼の青年がその籠を運び、従者が二人に付き従う。奇妙な取り合わせですが、怪物の事件を追う探偵として、この三人はこれ以上なく噛み合っています。

追っているのは〈牙の森〉の謎です。そのドイツで一行が遭遇したのが、人狼にまつわる怪事件でした。

村人が次々に喰い殺され、闇夜に少女が連れ去られる。犯人は人なのか、狼なのか。

人狼という存在が実在する世界ですから、この問いは比喩ではありません。人の仕業とも、狼の仕業とも、その両方とも取れる状況が、村を覆っています。

村人たちにとって、これは謎解きの題材である前に、夜ごとの恐怖です。

そこへ、怪物たちの〈夜宴〉と、保険機構の〈ロイズ〉が介入してきます。舞台はやがて人狼の隠れ里へ移り、満月の夜が戦乱を呼びます。

二つの村がぶつかり合おうとしたそのとき、鴉夜の謎解きが始まる。生首の探偵が鳥籠の中から語り出すのは、それほど切迫した場面なのです。

喰い殺された村人と、闇夜に消えた少女。その二つを抱えたまま、読者は津軽の提げる籠のすぐそばで、満月の夜を迎えることになります。

読みどころ

この巻の面白さは、「人か、狼か」という問いを、比喩ではなく文字どおりの二択として立てているところにあります。 現実の世界なら、狼の仕業と見える事件は、結局は人の仕業です。

ここでは違います。人狼が実在する以上、狼が犯人である可能性は本気で検討されなければならない。

怪物がいることを当たり前の条件として受け入れたうえで、それでも誰の仕業かを筋道立てて詰めていく。特殊な設定を持ち込みながら、決着はあくまで論理でつける。

このシリーズの一貫した姿勢が、この巻でもっとも大きな規模で試されています。

もうひとつは、ミステリと冒険が入り乱れる構成です。題名にあるファルスは、笑劇のこと。

村人が喰い殺される事件を扱いながら、物語は笑劇の軽さを手放しません。人狼の隠れ里、二つの村の対立、満月の夜の戦乱。

謎解きの前に、まず生き延びなければならない場面が続きます。津軽の軽口は、その緊張のなかでこそ効きます——籠のなかの鴉夜が冷静であればあるほど、籠を提げる津軽の口は軽くなります。

480ページという厚みは、冒険の分量でもあり、謎解きに至るまでに積み上げられる材料の分量でもあります。

シリーズの第3巻ですから、〈夜宴〉と〈ロイズ〉が何者で、鴉夜たちがなぜ〈牙の森〉を追うのかは、前巻までを知らないと掴みにくいかもしれません。けれども、人狼の村で起きる事件そのものは、この一冊のなかで幕が開き、幕が下ります。

作品の背景

シリーズの第1巻は2015年12月、第2巻は2016年10月に刊行され、この第3巻は前巻から四年半を置いた2021年4月に出ました。挿画は大暮維人です。

第4巻は2023年7月に続き、同じ年の7月から9月にはフジテレビの「+Ultra」枠ほかでテレビアニメも放送されました。

手に取るなら

講談社タイガから出ています。480ページですから、週末をひとつ空けて読むのがよいでしょう。

シリーズは第1巻から順に読むのが本筋ですが、人狼という題材に引かれたなら、この巻から入っても事件は追えます。ただ、吸血鬼も人造人間も切り裂き魔も実在するという世界の約束事は、第1巻から順にたどるほど自然に呑み込めるはずです。

村人が喰い殺され、少女が連れ去られた村で、人か狼かを問う謎解きが待っています。

青崎有吾について

青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。

同賞で初めての平成生まれの受賞者です。

高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。

書誌情報

出版社
講談社
刊行年
2021
ISBN-13
9784065223680
系譜
現代国内 / 特殊設定本格 · シリーズ探偵物

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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