永遠の記憶
内海薫を刺して黙秘する老人と復讐を迫る娘の謎に湯川が挑む、ガリレオ30年目の長編。
「ガリレオ、最後の謎」。2026年8月に刊行されたこの長編には、そんな言葉が添えられました。
物理学者・湯川学が初めて読者の前に現れてから、ちょうど30年。ガリレオシリーズの11作目にあたる長編です。
物語の入り口
今回、刃を向けられるのは捜査する側の人間です。警視庁捜査一課の刑事・内海薫が、何者かに刺されました。
手を下したのは70歳ほどの老人。飛び降りて命を絶とうとしたものの果たせず、取り調べでは固く口を閉ざしたまま、何ひとつ語ろうとしません。
やがて捜査線上に、内海に恨みを抱く若い娘が浮かんできます。けれども、彼女と黙り込む老人とのあいだにどんなつながりがあるのかは、いっこうに見えてこない。
それどころか、内海への本当の復讐はまだ始まってもいなかったのです。娘が内海に突きつけるのは「究極の選択」。
何を選ばせようとしているのかは、ぜひ本を開いて確かめてください。
その一方で、湯川と草薙俊平は老人が持っていたある品に目をつけ、そこから「忘れてはいけない謎」の扉を押し開けていきます。
読みどころ
物語は、内海に迫る危機と、老人の過去を探る湯川・草薙の調べという、ふたつの流れを抱えて進みます。刺されて終わりではなく、そこからさらに追い詰められていく刑事の緊張。
そして、何も語らない老人はいったい何者なのかという静かな謎。性格の違うふたつの問いが並び立ち、どちらの行方も気になって、ページを繰る手が止まりにくい構えになっています。
本は二部に分かれていて、第一部が「履歴る(たどる)」、第二部が「終活る(ふりかえる)」と題されています。どちらも漢字とよみがなが一筋縄ではいかない組み合わせで、ページを開く前から目を留めずにはいられません。
この部題が物語のどこに響いてくるのか、意識しながら読むのも楽しみ方のひとつです。
「最後の謎」という言葉が示すとおり、シリーズにとって大事な事柄に触れる作品です。読み終える前に感想や紹介記事をあれこれ見て回るのは、できれば控えておきたいところです。
こんな人におすすめ
内海薫が登場してから彼女の歩みを見守ってきた人には、今回の窮地はひときわ気がかりなものになるでしょう。黙秘、復讐、手がかりとなる持ち物と、いくつもの謎が同時に動く展開を好む人にも向いています。
シリーズをこれから読むなら、湯川自身の過去に光を当てた前作『透明な螺旋』まで順に読み継いでから手に取ると、30年分の重みをそのまま受け取れます。
作品の背景
この長編は、読者参加の企画から生まれました。読者にタイトルを考えてもらう「東野圭吾を爆流(バズ)らせろ!」というキャンペーンには約1万人が参加し、2万9000件を超える題が寄せられます。
最優秀賞の「日常る(つづける)」は約束どおり短編となって『週刊文春』に載りました。東野圭吾はそこで終わらせず、ほかに選ばれた優秀賞の題にも目を向けます。
その中のふたつを部題にして書き上げられたのが、この二部構成の長編でした。企画の始まりから、刊行までにおよそ2年が経っています。
東野圭吾は2026年7月23日、68歳で亡くなりました。本作が書店に並んだのは、それから半月ほど後の8月5日のことです。
手に取るなら
いま読めるのは、文藝春秋から出ている四六判上製の単行本(296ページ)です。文庫化はまだなので、厚みのあるハードカバーでじっくり向き合う一冊になります。
東野圭吾について
東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。
翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。
長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。
刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。
書誌情報
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