不可能殺人が起きる。
11文字の檻
実在の事故から不可能犯罪、ロードノベルまで。デビュー10周年の全8編を収めた短編集成。
JR福知山線脱線事故を題材にした「加速してゆく」。壁が一面ガラス張りの屋敷で、起こりえないはずの殺人が起きる本格推理「噤ヶ森の硝子屋敷」。
最強の姉妹の行方を追うロードノベル「恋澤姉妹」。掌編と書き下ろしを含む8編に、著者自身による各話解説を添えた、青崎有吾のデビュー10周年記念作品集です。
『体育館の殺人』をはじめとする謎解き長編を書いてきた著者が、シリーズの外で書いた短編をまとめています。2022年12月に創元推理文庫から刊行され、ハヤカワ・ミステリマガジンの「ミステリが読みたい!」2024年版国内篇で9位に入りました。
物語の入り口
収録は8編で、並び順は次のとおりです。「加速してゆく」「噤ヶ森の硝子屋敷」「前髪は空を向いている」「your name」「飽くまで」「クレープまでは終わらせない」「恋澤姉妹」「11文字の檻」。
「加速してゆく」は、JR福知山線脱線事故を題材にした作品です。2005年4月に兵庫県で起きた、実在の事故。
論理の謎解きを書いてきた作家が実在の事故を題材に選んだ一編が、目次の先頭に置かれています。「噤ヶ森の硝子屋敷」は、全面ガラス張りの屋敷で起きた不可能殺人を描く本格推理です。
壁も天井もガラス。外から中が見える屋敷で、それでも不可能な殺人が起きる——隠れる場所のない場所で、どうやって。
「恋澤姉妹」は、最強の姉妹を追うロードノベル。姉妹が何において最強なのか。
その問いを抱えたまま、道中に付き合うことになります。実在の事故、ガラスの屋敷、姉妹の旅。
この三編だけでも、題材も舞台もまるで重なりません。
8編のなかには、掌編も書き下ろしも含まれています。長さも題材もそろえずに編まれていて、題名の響きも、英語の「your name」から「飽くまで」のような短い言葉まで、ばらばらです。
表題作「11文字の檻」は、その並びの最後に置かれています。実在の事故を題材にした一編から始まり、ガラスの屋敷や姉妹の道中を経て、表題作で閉じる順番です。
読みどころ
ひとつめは、デビューから10年の節目に、題材の違う8編がまとめて読めることです。 実在の事故を題材にした一編がある。
ガラス張りの屋敷の不可能犯罪がある。最強の姉妹を追う道中がある。
同じ人が書いたとは思えないほど題材が散っています。長編のシリーズで青崎有吾を知った人にとっては、その外側でどんな題材を選んできたかを、一冊で確かめられる構成です。
題名の並びを見るだけでも、その散らばり方はわかります。
もうひとつは、著者自身による各話解説です。収録作それぞれについて、書いた本人の言葉が添えられています。
読み手の手元には、まず作品があり、それとは別に書き手本人の言葉がある。作品を先に読むか、解説を先に読むかは、読む人が選べます。
ただ、解説に目を通すのはその一編を読み終えてからにしたほうが、作品の印象を自分の目で先に確かめられます。巻末には著者あとがきも収められています。
一編ごとに読み味が違いますから、どれか一編が合わなくても、次の一編は別の顔をしています。短編集の利点は、そこにあります。
掌編なら数分で読み終わり、長めの一編にはじっくり付き合う。長さの違いも、この作品集の読み味の一部です。
そして最後に表題作が待っている。8編の並び順は、そのまま一つの読書の道筋です。
作品の背景
青崎有吾は〈裏染天馬〉〈アンデッドガール・マーダーファルス〉〈ノッキンオン・ロックドドア〉といったシリーズの長編と並行して、シリーズの外でも短編を書き継いできました。この作品集は、東京創元社から2022年12月に創元推理文庫で刊行されました。
デビュー10周年記念作品集として編まれ、著者による各話解説と著者あとがきが収められています。「ミステリが読みたい!」2024年版では国内篇9位に入りました。
手に取るなら
創元推理文庫(M-あ-16-5)で356ページ、装画は田中寛崇、装幀は西村弘美です。〈裏染天馬〉から入った人には、シリーズの外で何を書いてきたかを知る一冊になります。
逆に、この作品集で青崎有吾を初めて読む人は、ここからシリーズの長編へ進むこともできます。2024年に三つの賞を受けた『地雷グリコ』も、その先にあります。
8つの題名を、まず順に眺めてみてください。そして最後の「11文字の檻」まで、並び順のとおりにたどってください。
青崎有吾について
青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。
同賞で初めての平成生まれの受賞者です。
高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
書誌情報
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