封じた者の目的は何か。
名探偵夢水清志郎の事件簿3 名探偵と封じられた秘宝
およそ100年前に3枚の絵へ封じられた一族の秘宝を追う、歴代メンバー総出演の短編集。
絵のなかに何かを隠す、という発想があります。『名探偵と封じられた秘宝』の起点にあるのは、それをまるごと事件の骨組みにしてしまった一族の言い伝えです。
およそ100年前、「絵封師」を名乗るものが、鬼ヶ谷一族の秘宝のありかを3枚の絵にかくした。絵封師の目的は何か。
秘宝の正体は何か。長い時間をまたいで持ち越された問いが、現在の子どもたちの前に置かれます。
はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎の事件簿〉第3作にして、シリーズ初の短編集。歴代のメンバーが総出演する、同窓会のような一冊です。
物語の入り口
シリーズとしては初めての短編集という形を取っています。「序にかえて──赤い夢の中での邂逅」で幕を開け、表題作「名探偵と封じられた秘宝」、「絵封師は矛盾した悩みをかかえる〜宮里伊緒編〜」、「上踊螺那村にて〜岩崎亜衣 高校生編〜」、「歩く御神木」などが並び、おまけの一編とあとがきで閉じられます。
題名を眺めるだけで、この一冊が誰のために編まれたのかが伝わってくるはずです。長く付き合ってきた読者には懐かしい名前が、初めての読者にはこれから会う人たちの名前が、目次に並んでいます。
表題作の芯にあるのは、100年前の絵封師と、3枚の絵に封じられた秘宝の言い伝えです。絵封師の目的は。
秘宝の正体は。この二つの問いを、読者は現在の子どもたちと同じ位置で受け取ります。
絵は、読者が頭のなかに置いておける形をしています。文章で示された図柄を思い浮かべ、そこに何が描かれているかを数え、3枚の関係を考える。
手がかりが目に見える物として与えられるぶん、推理に参加する敷居がぐっと下がります。100年という時間の隔たりが加わることで、いま目の前にある絵と、それを描いた人間の意図とのあいだに、自然と距離が生まれるのも効いています。
探偵の夢水清志郎は相変わらずの姿で、こちらだけは時間が止まっているように見えます。元M大学の論理学教授。
190センチ近い長身のやせ型、黒いサングラスと黒の背広。そして自分の年齢すら覚えていない。
まわりの子どもたちが学年を上げ、背を伸ばしていくなかで、探偵ひとりが変わらない。その不動ぶりが、この短編集ではひときわ効いています。
読みどころ
いちばんの見どころは、顔ぶれの豪華さです。 伊緒・ルイ、亜衣・真衣・美衣、レーチ。
〈事件ノート〉の時代に探偵の隣にいた三つ子姉妹と、〈事件簿〉で新たに物語を引き受けた小学生たちが、同じ本のなかに並びます。収録作の題名に「岩崎亜衣 高校生編」とあるとおり、シリーズが積み上げてきた時間の厚みが、そのままページに出ています。
歴代メンバー総出演というのは、こういう形で読めるということです。
もうひとつは、短編集という形の親切さです。どの巻から入ればいいか迷っている読者が、まずここで探偵と仲間たちの顔を覚えてしまう、という読み方ができます。
中身が、序、表題作、伊緒や亜衣の名を冠した編、おまけの一編、あとがきと細かく区切られているので、気になる顔ぶれの編から拾い読みもできます。長く続いた物語の来歴と現在地を、まとめて受け取れる本です。
20年目の節目に、これまでの登場人物を一堂に集める。作者から読者への、ささやかな贈り物のような編み方です。
こんな人におすすめ
シリーズを追いかけてきた人には同窓会のように、はじめての人には案内図のように働く一冊です。絵に隠された謎、という題材に惹かれる人にも向いています。
逆に、一本の長編にじっくり浸りたい気分のときには、短編の連なりは少し慌ただしく感じられるかもしれません。まず一編だけ読んでみて、探偵の調子に馴染めるかを確かめる、という使い方もできます。
作品の背景
本書は2014年11月14日、講談社青い鳥文庫から刊行されました。352ページと、シリーズのなかではやや厚めです。
1994年に第1作が出てから数えて、ちょうど20年目の年に当たります。〈事件簿〉は〈事件ノート〉のあとを受けたセカンドシーズンで、『名探偵VS.怪人幻影師』『名探偵VS.学校の七不思議』に続いてこれが3冊目です。
夢水シリーズのコミック版は、2009年に第33回講談社漫画賞児童部門を受けています。
手に取るなら
現行版は講談社青い鳥文庫。新書判でも電子でも読めます。
〈事件簿〉の3冊目ですが、前2作を読んでいなくても入れるように編まれています。ここで顔を覚えたら、『名探偵VS.怪人幻影師』に戻って、新しいシーズンを最初から追いかけるのも楽しい道です。
はやみねかおるについて
はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。
クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。
2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。
〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。
子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。
書誌情報
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