七つ揃えば学校に囚われる。
名探偵夢水清志郎の事件簿2 名探偵VS.学校の七不思議
六つしか伝わっていない七不思議の七つめをめぐり、名探偵と子どもたちが夜の学校で七不思議に挑む。
学校の怪談は、たいてい七つで一組と決まっています。ところが武蔵虹北小学校に伝わる七不思議は、六つまでしか語られていません。
七つめがそろったとき、人は学校に囚われる。そんな言い伝えが、この長編の入り口に置かれています。
『名探偵VS.学校の七不思議』は、はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎の事件簿〉第2作。夜の校舎という、誰もが一度は想像したことのある舞台で、怪談の意匠を借りた謎解きが始まります。
物語の入り口
「黄泉の国につながる井戸」「図書室にある呪いの古文書」。並ぶ道具立ては、どこの学校にもありそうな顔をしています。
ただ、武蔵虹北小学校の七不思議には、七つめがない。数がそろっていないという、その一点が妙に引っかかります。
七つめがそろったとき、人は学校に囚われるという。では、いま六つしかないのは、まだ誰も囚われていないということなのか。
言い伝えの空白が、そのまま謎の入り口になっています。
その真偽を確かめようと、夢水清志郎と伊緒、ルイの三人は、クラスメイトたちと一緒に、夜の学校で七不思議に挑戦します。昼間はただの教室と廊下でしかない場所が、灯りを落とした途端に別の建物へ変わってしまう。
誰もが子どもの頃に想像した、あの感覚です。読者は、懐中電灯の輪の外側を気にしながら廊下を進む子どもたちの列に、そっと加わることになります。
足音がやけに大きく響き、階段の踊り場がいつもより暗い。学校という場所が、夜になると別の顔を見せることを、この巻は思い出させてくれます。
探偵役の夢水清志郎は、元M大学の論理学教授。190センチ近い長身のやせ型、黒いサングラスに黒の背広という出で立ちで、およそ小学校になじむ風体ではありません。
しかも記憶力がひどく怪しく、自分の年齢も過去に解いた事件も覚えていない。この、頼りになるのに頼りなく見える探偵と、しっかり者の小学6年生・伊緒の組み合わせが、シリーズの推進力になっています。
夜の校舎に、この黒ずくめの大人がひとり立っている。その絵面だけで、怖さと可笑しさが同時に立ち上がります。
読みどころ
怪談の意匠をまとっていても、芯にあるのは、夜の校舎という限られた場所で理屈を積み上げていく骨組みです。 舞台は一つの学校、時間は一夜、顔ぶれはクラスメイトたち。
動ける範囲も登場人物も最初から決まっているこの条件は、謎解き小説にとってすこぶる都合がいい枠組みで、本作はきちんと本格の作法を守っています。言い伝えが本当なら、答えは校舎の内側にしかない。
その一点が、怖さと理屈を同時に支えています。六つまで語られながら七つめだけが欠けた言い伝えが、どこへ行き着くのか。
読者はそれを、怖がる側ではなく、理屈の側から追いかけることになります。
「六つしかない七不思議」という設定の置き方も巧みです。数がそろっていないという一点だけで、読者の側には自然と数え上げる習慣が生まれます。
いま何番目まで来たのか、まだ埋まっていない枠はどれか。子どもでも追いかけられる単純な数え方が、そのまま物語を前へ押す仕掛けとして働いていて、ページをめくる手が止まりません。
こんな人におすすめ
怖い話は苦手だけれど謎解きは好き、という向きにも安心してすすめられます。夜の校舎の暗さと、そこで交わされる理屈の明るさ。
その温度差こそが読みどころだからです。誰もが通ってきた学校が舞台になるぶん、シリーズをここから始める読者もいるはずです。
逆に、本物の怪談の底冷えを求める読者には、この明るい理屈は少し物足りないかもしれません。
作品の背景
本書は2012年8月、講談社青い鳥文庫から刊行されました。320ページの長編です。
〈事件簿〉は、1994年に始まった〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のセカンドシーズンにあたり、本作はその2作目。前作は『名探偵VS.怪人幻影師』です。
はやみねかおるは、小学校の教師をしながら書きはじめた人です。教室と校舎の空気を内側から知っている書き手が、学校そのものを盤面に選んだ一冊だと思って読むと、細部の手触りがまた違って見えてきます。
手に取るなら
現行版は講談社青い鳥文庫。電子書籍での配信もあるので、新書判が手近になくても読みはじめられます。
前作『名探偵VS.怪人幻影師』を読んでいなくても筋を追うのに不自由はありません。学校の怪談を語り合った夜を覚えている大人にも、いまその夜の真ん中にいる子どもにも、手渡しやすい一冊です。
〈事件簿〉を順に読むなら、ここが2冊目にあたります。
はやみねかおるについて
はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。
クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。
2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。
〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。
子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。
書誌情報
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