殺人の共犯者がいる。
犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題
星座と神話を六つの事件へ織り込み、短編ごとに論理の味を変える連作集。
10年前に解散した、女性三人組アイドル・トライスター。彼女たちが所属していた事務所の元社長が、他殺死体で見つかりました。
犯人は元ファンクラブ会長。彼は自身のブログで元社長殺害をほのめかした直後、服毒自殺していたのです。
だが、トライスターのメンバー内に共犯者がいたことがわかり……。法月綸太郎『犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題』の表題作は、そこから始まります。
黄道十二星座とギリシャ神話をモチーフに、名探偵・法月綸太郎が六つの難事件に挑む〈星座シリーズ〉の後編です。2012年にカッパ・ノベルスから刊行され、本格ミステリ・ベスト10の2014年版で国内5位に入りました。
神話の知識は要りません。要るのは、作中に用意された材料だけです。
物語の入り口
〈星座シリーズ〉は、作家と同じ名前の探偵「法月綸太郎」が活躍するシリーズのなかで、十二の星座と神話を六編ずつ二冊に分けて書いた連作です。収録は六編で、並び順は「宿命の交わる城で」「三人の女神の問題」「オーキュロエの死」「錯乱のシランクス」「ガニュメデスの骸」「引き裂かれた双魚」です。
題名にはギリシャ神話の名や星座の気配が漂っています。神話の名を冠した題名が、どんな事件に結びつくのか。
それを想像しながら目次を眺めるのも、この連作の楽しみのひとつです。
表題作「三人の女神の問題」。10年前に解散した女性三人組アイドル、トライスター。
彼女たちが所属していた事務所の元社長が、他殺死体で見つかります。犯人は、元ファンクラブ会長。
彼は自身のブログで元社長の殺害をほのめかし、その直後に服毒自殺していました。犯人は死んでいて、動機らしきものもブログにある。
事件は、そこで閉じてもよさそうに見えます。犯人が死んでいる以上、警察が追うべき相手は残っていないはずです。
ところが、トライスターのメンバー内に共犯者がいたことがわかります。
三人のうちの誰なのか。共犯とは、どこまでの共犯なのか。
三人の女神、という題名が、三人のアイドルを指しているらしいことは、わかります。読者は法月綸太郎と同じ出発点に立ち、閉じたはずの事件がもう一度開かれる場面から考えはじめます。
表題作は収録順で二番目に置かれていますから、巻頭の一編を読み終えたところで、この問題に出会うことになります。
読みどころ
この連作の面白さは、一編ごとに論理の手触りが変わるところにあります。 表題作は、三人の中から一人を絞り込む問題です。
ほかの五編は、題名からして、別の型の問題らしい。六つの難事件に同じ探偵が同じ手続きで挑みながら、扱う材料は毎回違います。
短編集だからこそ、その違いが際立ちます。一編を読み終えるたびに、頭の使い方を切り替える。
その切り替えが、この連作の贅沢さです。長編一冊分の時間で、六種類の論理に付き合える。
それは短編集にしかできないことです。
もうひとつは、神話の使い方です。星座と神話をモチーフにした連作と聞くと、教養が要るのではないかと身構える人がいるかもしれません。
要りません。作中に用意された材料から、探偵と一緒に考えれば、答えに届きます。
神話は、事件を飾る額縁であって、解くための鍵ではありません。その額縁の内側で、一編ごとに論理の手触りが変わっていきます。
神話に詳しい人は詳しい人なりに、知らない人は知らない人なりに、同じ答えに届くように書かれています。
表題作の三人という数は、絞り込みの問題として、ちょうどよい人数です。二人なら当てずっぽうが利き、十人なら投げ出したくなる。
三人なら、一人ずつ検討できます。その検討を、探偵より先に済ませてみるのも一興です。
作品の背景
この後編は、法月綸太郎シリーズの13冊目にあたります。単行本は2012年12月に光文社のカッパ・ノベルスから出て、のちに光文社文庫に入りました。
前編は『犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題』。本格ミステリ・ベスト10の2014年版で国内5位でした。
前編から読むのが順当ですが、一編ごとに事件は独立していますから、後編から開いても困りません。
手に取るなら
光文社文庫で読めます。電子版もあります。
事件は一編ごとに閉じますから、六つの星座の物語を一つずつ、間を置きながら読み進めることもできます。法月綸太郎の長編で論理の密度を知っている人には、その密度を短編で六回味わう一冊です。
前編『六人の女王の問題』と合わせれば、十二星座がそろいます。三人のアイドルの中に、共犯者がいる——それが誰なのか、まず自分で三人を並べてみてください。
法月綸太郎について
法月綸太郎は1964年、島根県松江市に生まれました。京都大学法学部に進み、京大推理小説研究会では綾辻行人・我孫子武丸と同期でした。
1988年、島田荘司の推薦を受けて『密閉教室』でデビューし、新本格の書き手として歩み出します。第2作『雪密室』からは、作者と同名の推理作家・法月綸太郎が警視の父とともに事件に挑むシリーズを書き継いできました。
敬愛するエラリー・クイーンの設定にならった形です。
2002年に短編「都市伝説パズル」で第55回日本推理作家協会賞短編部門、2005年に『生首に聞いてみろ』で第5回本格ミステリ大賞を受賞しました。評論家としても知られ、クイーン作品を論じるなかで「後期クイーン的問題」を提起しています。
2013年から2017年まで本格ミステリ作家クラブの会長を務め、2025年には新保博久との往復書簡『死体置き場で待ち合わせ』で本格ミステリ大賞の評論・研究部門も受けました。
書誌情報
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