現代国内 1998
消えた老作家の独り言が、
次々と現実になる。
『機巧館のかぞえ唄』はやみねかおる

書評

機巧館のかぞえ唄

館から消えた老作家と、かぞえ唄どおりに続く出来事を児童書の枠に収めた第6作。

機巧館のかぞえ唄 表紙画像
はやみねかおる 講談社(講談社青い鳥文庫)1998年
目次

館があり、そこで人が消え、不吉なかぞえ唄のとおりに事件が続いていく。大人向けの棚にそのまま並べても通用する道具立てが、ふりがな付きの本のなかで動いています。

『機巧館のかぞえ唄』は、はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉第6作。シリーズのなかでも、とりわけ古典的な枠組みを選んだ一冊です。

改めて考えると、児童書の棚にこれを置くのは、なかなか思い切ったことでした。

物語の入り口

機巧館。読みは「からくりやかた」です。

名前からして普通の建物ではなさそうなこの館で、パーティーがひらかれます。その途中で、招かれていた老推理作家が姿を消してしまう。

宴の席から人がひとりいなくなる、というだけでも十分に不穏ですが、この消失には前触れがありました。作家が消える直前につぶやいていた、呪文のようなかぞえ唄です。

そして、唄の文句をなぞるように、次の出来事が起きる。また次の出来事が起きる。

唄は最初、ただの奇妙なつぶやきでしかなかったのに、事件が続くにつれて、まだ歌われていない続きの文句が、これから起きることの予告に見えてくる。この感触は、ミステリを読み慣れた大人にはおなじみのものですが、初めて出会う子どもにとっては、背筋がすっと冷える体験のはずです。

やがて危険は、亜衣の身にまで迫ってきます。事件を追う側が安全な場所にいない、という構図が、話の緊張を最後まで保ちます。

三姉妹の掛け合いが明るいシリーズだからこそ、その明るさに影が差す瞬間が、読者の胸にこたえます。

謎を解くのは名探偵の夢水清志郎。相変わらず物忘れの名人で、事件がなければ何もしない人ですが、いざとなれば推理が冴える。

読者はかぞえ唄を口ずさみながら、次に何が起きるのかを恐れる側に立たされます。そのすぐ隣で、探偵だけがいつもの調子で構えている。

緊張と脱力が交互にやってくるので、怖い話が苦手な読者でも息が詰まりません。唄の続きを恐れる読者と、唄など気にも留めていないような探偵。

その温度差が、この巻の可笑しさと怖さを同時に支えています。

読みどころ

かぞえ唄のとおりに物事が運ぶという筋立てを、この作品は子ども向けにやわらげず、正面から持ち込んでいます。 館という閉じた場所、そこに集まった人々、順番に起きる出来事。

整理して考えれば考えるほど気味が悪くなる、あの感触が、ふりがな付きの文章のなかでそのまま再現されています。恐ろしげな見かけを保ったまま、人の手の届く話として畳んでみせる。

その加減の良さは、シリーズの中でもよく効いています。

収められているのは表題作だけではありません。「夢の中の失楽」をはじめ、こわい(?)話から赤ちゃん騒動まで、毛色の違う話が並びます。

赤ちゃん騒動、という言葉の響きだけでも、かぞえ唄の不穏さとはずいぶん違う風が吹いてきそうです。館の話で冷やりとしたあとに、まったく別の温度の一編が来る。

262ページのなかで気分が何度も切り替わる構成で、ページ数以上の読みごたえがあります。長編一本の緊張を最後まで引きずらずに済むので、寝る前に少しずつ読む本としても向いています。

こんな人におすすめ

館ものや見立てのある事件に惹かれる人、子どもに本格ミステリの道具立てを最初に手渡したい人に向いています。怖い話の苦手な子には、脱力した探偵がいることを先に伝えておくと安心して読めるでしょう。

併録作まで含めれば温度の幅が広いので、一冊でいろいろな味を試したい人にも向きます。逆に、静かな心理劇や社会派の重さを求める読者には、この賑やかさは少し騒がしいかもしれません。

作品の背景

本書は1998年6月16日、講談社青い鳥文庫から刊行されました。新書判262ページ、本体800円。

この薄さと安さに、館と消失と唄の仕掛けが詰め込まれています。絵は村田四郎。

本作は、はやみねかおるが小学校の教師を続けながら、教室と原稿の両方を抱えていた時期の仕事にあたります。シリーズ全体の累計は360万部を超え、いまも版を重ねています。

2009年には、この事件ノートを漫画にした作品が第33回講談社漫画賞の児童部門を受けました。

手に取るなら

現行版は講談社青い鳥文庫。2007年12月に漫画版、2009年1月には講談社文庫にも入りました。

中国語版と韓国語版もあり、2014年からは電子でも読めます。かつて夜ふかしして読んだ記憶のある人にも、館ものを子どもに勧めたい人にも、手の届きやすい一冊です。

シリーズ第6作ですが、館の話はこの巻で完結しているので、ここから入っても困りません。

はやみねかおるについて

はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。

クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。

2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。

〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。

子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社青い鳥文庫
刊行年
1998
ISBN-13
9784061484825
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · メタ本格

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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