現代国内 1997
和尚の悩み相談に行くと、
暗号を見せられた。
『踊る夜光怪人』はやみねかおる

書評

踊る夜光怪人

街に出る怪人のうわさと、寺で見せられた謎の暗号を追うシリーズ第5作。

踊る夜光怪人 表紙画像
はやみねかおる 講談社(講談社青い鳥文庫)1997年
目次

夜光怪人。その四文字を目にしただけで、夜の公園にぼんやりと光る影が立っている光景まで想像できてしまいます。

子どもの頃、この手の言葉に胸を騒がせた記憶のある人は多いはずです。『踊る夜光怪人』は、はやみねかおるの〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉第5作。

古風な響きの怪人と、寺に伝わる謎の暗号。ふたつの不思議を、ものわすれの名探偵・夢水清志郎が引き受けます。

物語の入り口

うわさが立ったのは、幽霊坂の下にある桜林公園です。そこに、夜光怪人が出没するというのです。

名前のとおり夜に光るのか、なぜ公園なのか、そもそも人なのか。うわさというものは、細部があいまいなほど広がりやすい。

子どもたちの間を、怪人の話がじわじわと伝わっていきます。夜の公園に近づくのが少し怖くなる、あの感じ。

誰もが覚えのある空気から、この巻は始まります。

ちょうどそのころ、亜衣とレーチのもとに、後輩の千秋から相談が持ち込まれます。千秋の父は虹斎寺のおしょう。

その父が、何やら悩みを抱えているらしい。頼まれて話を聞きにいったふたりが、おしょうから見せられたのは、謎の暗号でした。

意味の取れない文字の並びが、寺に伝わっている。そこにどんな秘密が隠されているのか。

そして、街をにぎわせる夜光怪人と、この暗号につながりはあるのか。ふたつの問いが、そのまま読者に手渡されます。

謎を解くのは、もちろん夢水清志郎です。自分がごはんを食べたかどうかも覚えていられず、体を動かすのを億劫がり、どこまでも自分の調子を崩さない人。

ふだんの頼りなさと、事件が起きたときの推理の冴え。このギャップがシリーズの看板で、本作でも変わりません。

読者は亜衣たちと同じ位置、つまり暗号の紙面を一緒にのぞき込みながら、探偵がいつ口を開くのかを待つ側に立たされます。うわさと暗号。

手触りのまるで違うふたつの謎が、同じ町の同じ季節に並んでいる。その落ち着かなさが、この巻の入り口です。

怪人は光り、暗号は黙っている。どちらも答えを教えてはくれないのに、どちらも目を離せません。

読みどころ

暗号が出てくる本は、読者が自分の手で謎に触れられます。 登場人物と同じ紙面を見て、同じように首をひねる。

解かれる瞬間まで、読者の側にも考える材料が置かれている。児童向けの謎解きにとって、これは大きな強みです。

うわさの出どころを確かめ、目撃された状況を整理し、暗号の読み方を探る。手順そのものは大人向けのミステリと変わらず、その道筋がわざと見えやすく引かれているだけ。

子ども向けだからといって、組み立てが甘いわけではありません。

もうひとつは、名探偵の仕事は人が幸せになるように事件を解決することだ、というシリーズの姿勢です。怪人騒ぎという、放っておけば怖い話で終わる題材に、この姿勢がどう働くのか。

夢水の頼りなさは相変わらずですが、その芯にあるものは第1作から動いていません。誰かのために謎を解く、という探偵の姿勢を信じて読めるのが、このシリーズの安心感です。

怖い話を読みながら、どこか守られている気がする。その感覚は、子どもの読者にこそ届くものでしょう。

こんな人におすすめ

学校の帰り道に語られる怪談や、暗号や宝探しにわくわくした覚えのある人に向いています。シリーズを順に読んできた人はもちろん、この巻から入っても人物像はすぐにつかめます。

逆に、陰惨な事件や重厚な文体を求めている読者には、この温かい語り口は軽く感じられるかもしれません。

作品の背景

夢水清志郎が初めて登場したのは1994年の『そして五人がいなくなる』。本書はそこから数えて5作目にあたり、1997年7月15日に講談社青い鳥文庫から刊行されました。

新書判278ページ、絵は村田四郎。教師と作家を兼ねていた時期の一冊で、シリーズはこの後も版を重ね、累計は360万部を超えています。

1999年にはNHK教育テレビでドラマにもなりました。

手に取るなら

現行版は講談社青い鳥文庫。2008年7月には講談社文庫にも入り、2014年からは電子版も配信されています。

ふりがな付きの本を大人が手に取るのは少し照れくさいかもしれませんが、夜光怪人と暗号をめぐる話運びは、その照れをすぐに忘れさせてくれます。シリーズ第5作ですが、この巻から読み始めても迷うことはありません。

はやみねかおるについて

はやみねかおるは1964年、三重県伊勢市の生まれです。三重大学教育学部で数学を学び、1987年から小学校の教壇に立ちました。

クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、自分で書きはじめたのが作家としての出発点です。1989年、『怪盗道化師』が第30回講談社児童文学新人賞の佳作に選ばれ、翌1990年の刊行でデビューしました。

2000年に教職を離れてからは執筆に専念しています。

〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉のほか、〈怪盗クイーン〉〈都会のトム&ソーヤ〉〈少年名探偵虹北恭助の冒険〉と、子ども向けの謎解きを三十年以上書き継いできました。別々のシリーズの人物や世界がつながり合う遊び心も持ち味です。

子どもたちが選ぶうつのみやこども賞を4度受け、2023年には第61回野間児童文芸賞特別賞を贈られています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社青い鳥文庫
刊行年
1997
ISBN-13
9784061484665
系譜
現代国内 / 名探偵もの · シリーズ探偵物

はやみねかおるをもっと読む

全作品一覧へ →

似た読み味を、他の作家で

気分タグ・系譜の重なりから自動抽出。★は管理人が実読して太鼓判を押した本

この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

プロフィールを見る →