呼ばれた探偵は生首。
アンデッドガール・マーダーファルス
怪物が実在する19世紀末を舞台に、怪物の理で犯行を詰めていく特殊設定本格。
吸血鬼に人造人間、怪盗、人狼、切り裂き魔、そして名探偵。異形が蠢く19世紀末のヨーロッパで、人類親和派の吸血鬼が、銀の杭に貫かれて惨殺されました。
解決のために呼ばれたのは、人が忌避する「怪物事件」専門の探偵、輪堂鴉夜と、奇妙な鳥籠を持つ男、真打津軽。青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス』は、生首探偵と半人半鬼とメイドが、体を取り戻すためにヨーロッパを巡る「笑劇」の第1巻です。
怪物が実在する世界で、怪物の特性を手がかりに推理を導く。〈裏染天馬〉シリーズで学園本格を書いてきた著者が、2015年に講談社タイガで始めた特殊設定本格で、2023年にはテレビアニメになりました。
物語の入り口
舞台は19世紀末のヨーロッパ。吸血鬼も人造人間も、怪盗も人狼も切り裂き魔も、そして名探偵も、同じ世界に実在しています。
そこで、人類親和派の吸血鬼が、銀の杭に貫かれて惨殺されました。人間と共に生きようとしていた怪物が、怪物を殺すための道具で殺された。
事件の解決のために呼ばれたのが、人が忌避する「怪物事件」専門の探偵、輪堂鴉夜と、奇妙な鳥籠を持つ男、真打津軽です。二人は、残された手がかりと、怪物ゆえの特性から推理を導き出します。
鴉夜と津軽、そしてメイドの馳井静句。生首探偵、半人半鬼、メイドの三人が、体を取り戻すためにヨーロッパを巡る。
なぜ体がないのか、なぜ半人半鬼なのか、なぜ三人で旅をしているのか——探偵の一行そのものが、事件と並ぶもう一つの謎として、最初から読み手の前に置かれています。
序章から章題が「鬼殺し」「吸血鬼」「人造人間」と並ぶ、というのが目次の事実です。生首の探偵に、半人半鬼の男、そしてメイド。
一行の顔ぶれからして、ありふれた探偵小説の構えではありません。読者は、奇妙な鳥籠を持つ津軽の傍らに立ち、怪物の実在するヨーロッパを一行とともに巡っていくことになります。
題名のマーダーファルスは、殺人の笑劇を意味します。
読みどころ
特殊設定本格としての面白さは、怪物に固有の制約と能力が、そのまま可能性を絞り込む条件として機能するところにあります。 怪物には、種類ごとに、できることとできないことの決まりがあります。
現実世界なら「ありえない」で済む事柄が、この世界では「怪物なら可能か」という検討の対象になります。設定が増えるほど推理が緩くなりそうなものですが、逆です。
制約のない怪物はいません。怪物ごとに決まりがあるからこそ、可能性の幅を、人間相手のときより厳密に詰められる。
〈裏染天馬〉で消去法の手続きを鍛えてきた書き手が、その手続きを怪物に適用したらどうなるかを試した、と言ってよいと思います。
もうひとつは、笑劇と名乗る語り口です。生首の探偵と、半人半鬼の青年と、メイド。
この三人の道中は、殺人事件を扱っていながら、どこか芝居がかっています。噺家めいた津軽の軽い口ぶりが、一行のやりとりの調子を決めています。
残酷な事件と喜劇的なやりとりが同じ頁に同居して、そのどちらも手を抜いていません。笑劇と名乗る以上、笑いは飾りではなく、この物語の骨格の一部です。
人間の事件に比べれば、怪物の設定を飲み込む手間がかかります。けれども、その設定を一つ受け入れるたびに、推理の手がかりが一つ増えていく。
設定が読み手の負担ではなく武器になる。そのことを、この第1巻は最初の事件で示しています。
作品の背景
〈裏染天馬〉シリーズで現代の高校を舞台に密室やアリバイ崩しを書いてきた書き手が、19世紀末のヨーロッパへ、怪物のいる世界へと舞台を移したのがこのシリーズです。
第1巻は2015年12月17日に講談社タイガから刊行されました。320ページ、電子版は同日配信です。
本格ミステリ・ベスト10の2017年版国内編で20位。2023年7月5日からフジテレビ「+Ultra」ほかでテレビアニメが放送され、輪堂鴉夜を黒沢ともよ、真打津軽を八代拓、馳井静句を小市眞琴が演じました。
手に取るなら
講談社タイガで320ページ、電子版もあります。既刊は4冊で、これはその第1巻です。
〈裏染天馬〉の学園本格から青崎有吾を知った人には、同じ論理の手つきが怪物相手にどう働くかを見る一冊になります。アニメから入った人は、活字の鴉夜と津軽の掛け合いを確かめてみるとよいでしょう。
銀の杭に貫かれた吸血鬼の事件に、「怪物事件」専門の探偵が呼ばれる——19世紀末のヨーロッパを巡る笑劇は、そこから始まります。
青崎有吾について
青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。
同賞で初めての平成生まれの受賞者です。
高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
書誌情報
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