現代国内 2016
ルパンが予告状を出した。
守るのはホームズと生首。
『アンデッドガール・マーダーファルス 2』青崎有吾

書評

アンデッドガール・マーダーファルス 2

1899年のロンドンで、ルパンとホームズと怪物たちが宝石を奪い合います。

目次

1899年、ロンドン。街は大ニュースに沸いていました。

怪盗アルセーヌ・ルパンが、フォッグ邸の宝石を狙うという予告状を出したのです。警備を依頼されたのは、怪物がらみの事件を専門に引き受ける“鳥籠使い”の一行。

そして、世界一の探偵シャーロック・ホームズ。さらには保険機構の用心棒と、鳥籠使いたちが追う“教授”の一派も動き出します。

青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス 2』は、怪物だらけの宝石争奪戦を、五つ巴の第二幕として描く物語です。2016年10月に講談社タイガから刊行されました。

物語の入り口

舞台は十九世紀末のヨーロッパです。吸血鬼も人造人間も人狼も切り裂き魔も、この世界には実在します。

そうした怪物がらみの事件を専門に引き受けるのが“鳥籠使い”の三人組。輪堂鴉夜は不死の怪物で、奪われた胴体を追っており、いまは生首の姿で鳥籠に収まっています。

真打津軽は半人半鬼の青年で、鴉夜の助手。噺家めいた軽い口ぶりが特徴です。

馳井静句は鴉夜に仕えるメイドです。

第2巻の舞台はロンドン。1899年、怪盗アルセーヌ・ルパンが予告状を出しました。

狙いはフォッグ邸の宝石です。警備の依頼を受けたのは鳥籠使いの一行と、世界一の探偵シャーロック・ホームズ。

同じ現場に、保険機構の用心棒も入ります。そして、鴉夜たちが追っている“教授”の一派も、この宝石をめぐって動き出します。

ルパン、ホームズ、鳥籠使い、保険機構、教授一派。五つの勢力が、ひとつの宝石をめぐって一つの邸に集まる。

シリーズの第二幕は、この五つ巴の争奪戦です。

怪盗の古風な宣戦布告を前に、世界一の探偵と、生首の姿をした怪物の探偵が、同じ邸の警備につく。その取り合わせだけで、笑劇はもう始まっています。

それぞれが何を狙い、誰と誰が手を組み、誰と誰がぶつかるのか。五つの思惑のうち、最後まで笑っていられるのはどれなのか。

その問いが、この巻の全体を貫きます。

読みどころ

この巻の贅沢さは、十九世紀末の小説と物語の有名人たちを、一つの邸に同時に招き入れているところにあります。 ルパンとホームズが同じ宝石をめぐって動く。

それだけでも顔合わせとして豪華ですが、そこに怪物の探偵と、怪物の一派と、保険機構が加わります。誰もが一枚も二枚も上手のつもりで動いていて、その全員が同じ夜、同じ場所に集まる。

笑劇(ファルス)という副題どおり、事態は加速していきます。ルパンには怪盗の、ホームズには探偵の、鴉夜には怪物の理屈があり、それぞれが自分の理屈で夜を動かそうとする——その衝突が、この巻の推進力です。

もうひとつは、怪物の実在する世界で本格の作法が崩れないことです。怪物には怪物の理屈があり、その理屈が問いの前提になります。

前提が現実と違っていても、前提さえ示されていれば、論理は組めます。鮎川哲也賞出身の書き手は、伝奇の意匠を借りながら、その手続きを手放しません。

津軽の軽口と、鴉夜の冷静な推理。その二つの声が、五つ巴の混乱のなかで読み手の視線を整えてくれます。

混乱を混乱のまま楽しませながら、最後には筋道を残す。伝奇と本格の両方を欲張った結果が、この巻の密度になっています。

シリーズの第2巻ですから、鴉夜の胴体をめぐる大きな流れや、第1巻で示された設定を知らないと、勢力の関係がやや掴みにくいかもしれません。けれども、この巻の争奪戦そのものは、一冊のなかで幕が上がり、幕が下ります。

第1巻を読んでいなくても、ロンドンの一夜は楽しめます。

作品の背景

デビュー作『体育館の殺人』から、観察と消去法で犯人を絞り込む本格を書いてきた青崎有吾が、このシリーズでは、その作法を怪物の実在する世界に持ち込んでいます。

シリーズの第1巻は2015年12月に出て、この第2巻が2016年10月19日、第3巻が2021年4月、第4巻が2023年7月と続いています。2023年にはフジテレビの「+Ultra」枠で全13話のテレビアニメになりました。

レーベルは講談社タイガ。A6判336ページの文庫判で、伝奇の意匠と本格の作法を同居させるシリーズとして読者を広げてきました。

手に取るなら

講談社タイガの文庫判で、電子版もあります。336ページで、一晩で読み切れる分量です。

シリーズを順に追うなら第1巻から。ルパンやホームズの名前に引かれて手に取るなら、この第2巻から入っても構いません。

アニメ版で鳥籠使いの三人を知った人には、原作の言葉の速さを確かめる機会になります。予告状はもう届いています——フォッグ邸の夜に、まず立ち会ってみてください。

青崎有吾について

青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。

同賞で初めての平成生まれの受賞者です。

高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。

書誌情報

出版社
講談社
刊行年
2016
ISBN-13
9784062940306
系譜
現代国内 / 特殊設定本格 · シリーズ探偵物

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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