なぜ、を解く探偵。
ノッキンオン・ロックドドア
「どうやって」と「なぜ」を二人で分け合う、探偵事務所ダブル探偵譚。
密室。容疑者全員がアリバイ持ち。
そうした「不可能」犯罪を専門に捜査するのは、巻き毛の男、御殿場倒理です。ダイイングメッセージ。
奇妙な遺留品。そうした「不可解」な事件の解明を得意とするのは、スーツの男、片無氷雨です。
相棒だけどライバル、かもしれない二人が経営する探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には、今日も珍妙な依頼が舞い込みます。青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』は、探偵を二人置き、謎解きの役割を「どうやって」と「なぜ」に分けた連作短編集です。
2016年に徳間書店から刊行され、翌年の第70回日本推理作家協会賞の候補になりました。二人の探偵が並び立つシリーズの、最初の巻にあたります。
物語の入り口
探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には、二人の探偵がいます。巻き毛の男、御殿場倒理。
専門は「不可能」犯罪です。密室、容疑者全員がアリバイ持ち。
どうやって、それが行われたのか。スーツの男、片無氷雨。
得意は「不可解」な事件です。ダイイングメッセージ、奇妙な遺留品。
なぜ、それがそこにあるのか。二人は相棒であり、ライバルでもある、らしい。
組んで事務所を営みながら、互いに張り合う相手でもあるという、落ち着かない間柄です。
事務所には、アルバイトの女子高生、薬師寺薬子もいます。そこへ今日も、珍妙な依頼が舞い込む。
密室やアリバイなら倒理の、ダイイングメッセージや妙な遺留品なら氷雨の専門です——持ち込まれる謎の形しだいで、どちらの探偵が前に出るかが変わってきます。
二人の探偵、二つの専門、一人のアルバイト、そして珍妙な依頼。連作の骨組みは、この四つでできています。
事務所の名前が、ノッキンオン・ロックドドア。鍵のかかった扉を叩く。
不可能と不可解の両方が、この扉の向こうにあります。
読みどころ
この連作の眼目は、謎解きを「どうやって」と「なぜ」に分け、それぞれを別の探偵に担わせた構成にあります。 ふつうの本格では、一人の探偵が方法も動機もまとめて解きます。
ここでは、倒理が方法を、氷雨が理由を追う。同じ事件を前にしても、二人の引っかかる場所が違います。
倒理は施錠された扉を見つめ、氷雨は現場に残された妙な物を見つめる。捜査が二本の線で進み、それが合流したところで事件の全体が見える。
この二本立てが、短編一つひとつを、見かけより厚いものにしています。方法がわかっても理由が残る。
理由がわかっても方法が残る。どちらか一方では、事件は閉じません。
読み手も、施錠された扉と現場の妙な物、その両方に目を配りながら頁を進めることになります。
もうひとつは、相棒でありライバルでもある二人の掛け合いです。どちらが先に答えに届くか。
どちらの担当が今回の主役か。専門の違いが、そのまま張り合いの理由になります。
深刻な事件の話をしていても、事務所の空気はどこか軽い。そこにアルバイトの薬子の視線が加わって、二人の探偵の異様さが、少しだけ日常の側に引き戻されます。
事務所の日常があるから、依頼の珍妙さが際立ちます。
一編ごとの謎は、殺人を扱った長編ほど大きくありません。けれども、方法と理由を分けて考えるという発想そのものが、読み手に新しい読み方を要求します。
倒理の目で読むか、氷雨の目で読むか。同じ頁を、二度の読み方で読める短編集です。
作品の背景
〈裏染天馬〉シリーズで密室やアリバイ崩しを正面から書いてきた書き手が、〈アンデッドガール・マーダーファルス〉と並行して始めたのが、この探偵事務所の連作でした。
シリーズの初出は2014年、『読楽』10月号に載った同題の短編です。単行本は2016年4月8日に徳間書店から出て、第70回日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門の候補になりました。
現行版は徳間文庫で288ページ、2019年3月刊、解説は杉江松恋です。電子版もあります。
続刊に『ノッキンオン・ロックドドア 2』があり、2023年にはテレビ朝日系の「オシドラサタデー」枠でドラマ化されました。御殿場倒理を松村北斗、片無氷雨を西畑大吾が演じています。
手に取るなら
現行版は徳間文庫で288ページ、電子版もあります。杉江松恋の解説つき。
〈裏染天馬〉の探偵一人の律儀さを知っている人には、探偵が二人になると論理がどう分かれるかを確かめる一冊です。ドラマから入った人は、活字の二人が画面の二人とどう違うかを、まず一編で試してみてください。
密室の扉と、奇妙な遺留品——どちらの謎から入るかは、あなたが決めてかまいません。
青崎有吾について
青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。
同賞で初めての平成生まれの受賞者です。
高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
書誌情報
青崎有吾をもっと読む
全作品一覧へ →似た読み味を、他の作家で
気分タグ・系譜の重なりから自動抽出。★は管理人が実読して太鼓判を押した本