本で人が殴り殺された。
図書館の殺人
期末試験中の図書館で見つかった死体と奇妙なメッセージに、高校生探偵が挑む長編
期末テスト中の、慌ただしい9月。風ヶ丘図書館で死体が発見されました。
閉館後に侵入した大学生が、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺されたらしい。しかも現場には、一冊の本と謎のメッセージが残されていました。
青崎有吾『図書館の殺人』は、裏染天馬シリーズの第4弾、長編としては3作目にあたります。警察に頼まれて独自の捜査を始めた裏染は、ダイイングメッセージの意味を解き明かせるのか。
本格ミステリ・ベスト10の2017年版では、国内2位に入りました。2016年1月に東京創元社から刊行され、現在は創元推理文庫で読めます。
物語の入り口
9月、期末テストの最中です。風ヶ丘図書館で、死体が発見されました。
被害者は、閉館後に侵入した大学生。凶器は、山田風太郎の『人間臨終図巻』でした。
古今の有名人の臨終を集めた分厚い本で、人が撲殺されたらしい。図書館で、本で、人が死ぬ。
舞台と凶器が、最初から噛み合っています。
現場には、本が一つと、謎のメッセージが残されていました。いわゆるダイイングメッセージです。
死にゆく者が遺した言葉は、何を指しているのか。警察に頼まれて、裏染天馬は独自の捜査を始めます。
その問いを抱えたまま、物語は閉館後の図書館の内側へ入っていきます。
閉館後の風ヶ丘図書館に侵入した大学生が、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺されたらしい。現場には一冊の本と謎のメッセージ。
そして、探偵にとってもうひとつの締切があります。期末テストです。
事件を解く高校生が、同時に試験を受けなければならない。その締切が背後で鳴り続けているところに、この学園小説の可笑しみがあります。
人が死んだ図書館と、明日の試験範囲——どちらも、探偵にとっては待ってくれません。
読みどころ
図書館という場所の条件が、そのまま事件の条件になっているところに、この作品の設計の巧さがあります。 閉館すれば人が消え、あとに残るのは本ばかり。
誰がいつ入り、いつ出たのか。本がどこにあり、どこへ動いたのか。
図書館は、人の出入りと本の動きを記録する場所ですから、論理を組み立てる土台としてこれ以上ないほど具体的です。その土台の上に、ダイイングメッセージという古典的な型を置く。
前作でアリバイ崩し、その前で密室を扱った書き手が、今度はメッセージの解読に正面から挑んでいます。
もうひとつは、期末テストという締切の効かせ方です。探偵は高校生で、事件と試験を同時に抱えています。
深刻な殺人と、明日の試験範囲。二つの締切が同じ日々のなかで鳴っているという状況が、シリーズを通して続く軽さと、この作品の緊張を同時に支えています。
読み手は、事件の進展を追いながら、探偵の答案の心配までさせられます。殺人事件を扱う本格で、この種の心配をさせられる作品は、ほかにあまり思い当たりません。
シリーズの4冊目ですから、探偵と周囲の人物の関係は、前作までを読んでいるほうが飲み込みやすいはずです。けれども、図書館で起きた事件そのものは、この巻のなかで幕が開き、幕が下ります。
メッセージの解読も、ここで完結します。前作までを知らなくても、図書館の扉は開いています。
作品の背景
この作品を書いていたころの著者は多忙でした。2015年末には〈アンデッドガール・マーダーファルス〉が始まり、2017年には『ノッキンオン・ロックドドア』が第70回日本推理作家協会賞の候補になっています。
本格ミステリ・ベスト10の2017年版国内編では、この作品が2位、17位に『ノッキンオン・ロックドドア』、20位に『アンデッドガール・マーダーファルス 1』が並びました。同じ年に三つのシリーズが同じランキングに顔を出したわけです。
単行本は2016年1月29日に東京創元社から、四六判上製362ページで出ました。「このミステリーがすごい!」2017年版でも20位。
シリーズは『体育館の殺人』『水族館の殺人』、連作短編集『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』を経てこの4冊目に至ります。
手に取るなら
現行版は創元推理文庫で452ページ、電子版もあります。解説は佐々木敦です。
シリーズの順番としては『体育館の殺人』から読むのが順当ですが、図書館とダイイングメッセージという道具立てに引かれたなら、ここから入っても事件は追えます。期末テストの季節に読めば、探偵の焦りがいくらか身近に感じられるでしょう。
密室、アリバイ、メッセージと、本格の古典的な型を一作ずつ引き受けてきたシリーズの、いまのところ最新の長編です。閉館後の図書館に、本が一つと、謎のメッセージが残されていました——それを遺した者は、何を伝えたかったのか。
青崎有吾について
青崎有吾は1991年、神奈川県横浜市の生まれです。明治大学文学部でミステリ研究会に所属し、在学中の2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受けてデビューしました。
同賞で初めての平成生まれの受賞者です。
高校を舞台に観察と論理で犯人を一人に絞る〈裏染天馬〉シリーズ、怪物の実在する19世紀末を描く〈アンデッドガール・マーダーファルス〉、二人の探偵が謎を分担する〈ノッキンオン・ロックドドア〉と、舞台や設定を大きく替えながら、推理の手続きを省かずに見せる本格を書き続けてきました。2024年には『地雷グリコ』で第24回本格ミステリ大賞、第77回日本推理作家協会賞、第37回山本周五郎賞を受け、第171回直木賞の候補にもなっています。
書誌情報
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