現代国内 1998
探偵ガリレオ
『探偵ガリレオ』東野圭吾

書評

探偵ガリレオ

燃え上がる頭や池のデスマスクなど怪現象めいた謎を、物理学者・湯川が科学で解き明かす第1作

探偵ガリレオ 表紙画像
東野圭吾 文藝春秋(文春文庫)1998年
目次

仲間と過ごしていた若者の頭から、何の前触れもなく火が上がる。そんな光景を前にしたとき、人は怪奇や超常のことばに手を伸ばしたくなるものです。

けれども、そこで怪異に飛びつかず、起きたことを理屈の側から見つめ直そうとする人物がいます。物理学者・湯川学がはじめて読者の前に姿を見せた、ガリレオシリーズの記念すべき第1作です。

物語の入り口

警視庁捜査一課の刑事・草薙俊平には、どうにも説明のつかない事件に出くわしたときに頼る相手がいます。大学時代の友人で、いまは帝都大学理工学部物理学科第13研究室に籍を置く湯川学です。

最初の一編「燃える」で草薙が抱え込むのは、仲間とたむろしていた若者の後頭部から突然炎が上がったという一件。その場には何人もいたのに、誰かが火をつけたところを見た者はいません。

事故なのか、それとも誰かの仕業なのか。草薙は、湯川の研究室の扉をたたきます。

続く4編にも、常識の外側にあるような謎が並びます。心臓の一部だけが壊死した男、池に浮かんだデスマスク、幽体離脱をしたと語る少年。

「燃える」「転写る」「壊死る」「爆ぜる」「離脱る」と、一風変わった読ませ方の題名もそれぞれの事件の手触りを予告しています。

読みどころ

不思議に見えるものを、不思議なまま放っておかない。その姿勢そのものが、このシリーズの推進力です。

湯川は超常現象の存在を頭から笑い飛ばすのでも、怖がるのでもありません。起きたことを現象として受け止め、それがどういう条件なら起こりうるのかを考える。

実験室の延長線上に事件を置いてしまう視点の置き方が、読む側に新鮮な驚きをもたらします。

刑事と学者という組み合わせの妙も見逃せません。足で稼いだ情報を持ち込む草薙と、それを物理の目で組み立て直す湯川。

ふたりの間には大学時代からの気安さがあり、互いに遠慮のないやりとりが、張りつめた事件の合間に軽やかな呼吸を生んでいます。

一編ごとの長さが手ごろで、どの話も謎の提示から解決までがきびきびと進みます。怪しげな現象の正体に筋道が通っていく過程には、謎解きの楽しさに加えて、身のまわりの世界の見え方が少し変わるような味わいがあります。

こんな人におすすめ

ありえないように見える出来事に、筋の通った説明がつく瞬間が好きな人にうってつけです。理系の題材に身構える必要はなく、科学の話が苦手な人でも、ふたりのやりとりに引っぱられて自然に読み進められます。

作品の背景

単行本は1998年5月に文藝春秋から刊行されました。湯川という人物を思い描くにあたって、東野圭吾は俳優の佐野史郎をイメージしていたといいます。

映画『夢みるように眠りたい』で佐野が演じた探偵が印象に残っていたためで、その縁から文庫版の巻末解説は佐野自身が手がけています。のちに福山雅治が湯川を演じたドラマ「ガリレオ」でこの探偵を知った人にとっては、原作の湯川像との違いを見比べるのも楽しみのひとつでしょう。

手に取るなら

文春文庫版は2002年2月の刊行です。シリーズはここから長く続いていくので、湯川と草薙の関係がどんなふうに始まったのかを知る意味でも、最初に開く一冊としてふさわしい本です。

東野圭吾について

東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。

翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。

長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。

刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。

書誌情報

出版社
文藝春秋 / 文春文庫
刊行年
1998
ISBN-13
9784167110079
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 連作短編

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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