現代国内 1995
招かれた雪の館で殺人。
居合わせたのは推理作家。
『スウェーデン館の謎』有栖川有栖

書評

スウェーデン館の謎

雪深い裏磐梯のログハウスで起きた殺人を、火村とアリスの論理が解きほぐす一冊。

目次

取材で雪深い裏磐梯を訪れたミステリ作家・有栖川有栖は、地元の人が「スウェーデン館」と呼ぶログハウスに招かれます。そこで彼が遭遇したのは、深い悲しみに包まれた殺人事件でした。

有栖川は、臨床犯罪学者・火村英生に応援を頼み、絶妙のコンビが、美人画家姉妹に訪れた惨劇の謎に挑む。『スウェーデン館の謎』は、火村英生シリーズのうち国名を冠した作品群、いわゆる国名シリーズの第2弾です。

冬の高原、雪に閉ざされたログハウス。その静けさと、論理を追う緊張が溶け合った長編で、事件は一冊で完結しますから、シリーズの途中からでも読めます。

物語の入り口

推理作家の有栖川有栖が、取材で裏磐梯を訪れます。雪深い冬の高原。

そこで彼は、地元の人が「スウェーデン館」と呼ぶログハウスに招かれます。なぜそう呼ばれているのかは、館に着いてから知ることになります。

ただ、雪に閉ざされた高原のログハウスという場所が、この物語の空気を最初から決めています。取材のはずだった旅が、思いがけない滞在に変わります。

外では雪が降り続き、館の中では、静かな時間が流れています。

そのスウェーデン館で、有栖川は殺人事件に遭遇します。惨劇が訪れたのは、美人画家姉妹のもとでした。

深い悲しみに包まれた殺人事件。姉妹に何が起きたのか、館に誰がいたのかは、有栖川と一緒に知っていくことになります。

ただ、深い悲しみに包まれた、という形容が、この事件の温度を正確に伝えています。

有栖川は、臨床犯罪学者の火村英生に応援を頼みます。この構成が、本作の読み口を決めています。

事件のただ中に探偵が最初から居合わせるのではなく、まず語り手が土地と館に触れ、事件に遭遇し、それから火村を呼ぶ。読者は有栖川とともに、雪の高原の静けさを先に味わい、そのあとで、火村の論理に立ち会うことになります。

読者は、雪に閉ざされたログハウスのなかに座らされます。外は雪、館のなかには悲しみ。

その静けさのなかで、火村と有栖川は、証言と痕跡を丹念に組み直していきます。派手な動きはありません。

雪が音を吸い込むように、物語も静かに進みます。あるのは、冬の高原の静けさと、少しずつ輪郭を現していく論理です。

国名シリーズの第2弾として、この作家の持ち味がよく出た一冊です。

読みどころ

冬の高原の静けさと、論理を追う緊張が、同じ館のなかで溶け合っていること。そこに『スウェーデン館の謎』の読みどころがあります。

雪深い裏磐梯、ログハウス、画家姉妹。舞台の道具立ては、それ自体が美しい。

その美しさのなかに、深い悲しみに包まれた殺人事件が置かれている。火村と有栖川のコンビは、その悲しみを乱暴に扱いません。

証言と痕跡を、丹念に、静かに組み直していく。冬の物語にふさわしい温度です。

筋道を一歩ずつ確かめるのと同じ手つきが、ここでは悲しみの扱いにも向けられています。

もうひとつは、語り手が先に土地と館に触れる構成です。有栖川が取材で訪れ、招かれ、事件に遭遇し、それから火村を呼ぶ。

探偵が最初からいる物語とは、読者の立ち位置が違います。読者はまず、事件の当事者に近い場所に立たされ、そのあとで論理の側へ移る。

この順序が、雪の高原の静けさを、いっそう深く感じさせます。

こんな人におすすめ

証言と痕跡から一歩ずつ筋道を組み上げる論理派の本格を好む読者、雪に閉ざされた冬の舞台に惹かれる読者に向いています。火村英生シリーズの途中から読んでも、事件はこの巻のなかで完結しますから問題ありません。

国名を題名に掲げる作品群では第2弾にあたるので、順に追う人は2冊目としてここへ来ることになります。冬の休みに、雪景色を見ながら読むのが理想です。

逆に、幕開けから探偵が現場を駆け回る筋運びを求める気分のときには、有栖川がひとりで土地と館に触れ、火村を呼ぶまでの前半が、もどかしく映るでしょう。

作品の背景

刊行は1995年。火村英生シリーズのなかでも、国名を題名に冠した作品群は、国名シリーズと呼ばれて親しまれています。

その第2弾にあたります。異国の名を冠しながら舞台は日本の雪国という、シリーズの遊び心がよく出ています。

のちに火村英生シリーズそのものが吉川英治文庫賞に選ばれています。

手に取るなら

現行版は講談社文庫、またはKADOKAWAの火村英生作品セレクション。火村英生シリーズに連なる作品ですが、事件はこの巻だけで閉じていますから、ここから入っても差し支えありません。

冬の夜、雪深い裏磐梯のログハウスへ。有栖川とともに、まず館の静けさに触れてください。

火村が来るのは、そのあとです。雪の夜の読書のために、手もとに取っておきたい一冊です。

有栖川有栖について

有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。

卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。

作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。

2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。

書誌情報

出版社
KADOKAWA
刊行年
1995
ISBN-13
9784041010709
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · クローズドサークル

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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