現代国内 2022
ゲームの犯人役を頼まれた。
そのゲームで人が死ぬ。
『名探偵に甘美なる死を』方丈貴恵

書評

名探偵に甘美なる死を

VRミステリゲームのイベントが殺戮ゲームに変貌。〈竜泉家の一族〉第3作の本格。

名探偵に甘美なる死を 表紙画像
方丈貴恵 東京創元社(創元推理文庫)2022年
目次

「犯人役を演じてもらいたい」。世界有数のゲーム会社・メガロドンソフトから、そんな依頼が舞い込みます。

方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』は、謎を解く側にいたはずの人物が、ゲームのなかで犯人の役を引き受けるところから始まる作品です。舞台はVRミステリゲームのイベント会場、集うのは『素人探偵』と呼ばれる面々です。

遊びとして用意されたはずの謎解きの場は、やがて命を賭けた場へと変わっていきます。2022年に刊行された、〈竜泉家の一族〉の第三弾です。

物語の入り口

依頼を受けたのは、加茂冬馬です。第一弾『時空旅行者の砂時計』で探偵役を務めた人物が、今度はメガロドンソフトからVRミステリゲームのイベント監修を請け負います。

求められているのは、ゲームのなかで犯人役を演じること。探偵ではなく、探偵たちに追われる側に回る——いささか風変わりな仕事です。

会場となるのは、メガロドン荘。そこに集ったのは、『素人探偵』と呼ばれる8名でした。

そのなかには、「幽世島」の事件に関わった竜泉佑樹の姿もあります。シリーズの第一弾で探偵役を務めた人物と、あの島の事件を知る人物とが、同じ建物に顔をそろえることになるわけです。

探偵が一堂に会し、用意された謎に挑む。本来なら、それは謎解き好きのための華やかな催しになるはずでした。

ところが、イベントは思わぬ方向へ転がります。探偵たちの家族や恋人が人質に取られ、その命が賭けられた殺戮ゲームへと、催しは変貌を遂げるのです。

遊びの場に置かれていた謎は、そのまま生き死にを分ける謎へと姿を変えます。大切な人と自身の命を守るには、VR空間と現実の両方で起きる殺人事件を解明するしかない——。

探偵たちに残された道は、それだけです。

読者は、仮想の空間と現実の建物という二つの場所で起きる出来事を、探偵たちと同じ条件で見つめる位置に置かれます。探偵たちと同じ会場に足を踏み入れ、同じ知らせを受け、同じ重さの賭け金を背負わされる。

遊びのつもりで開いた扉の先で、謎解きの意味そのものが、がらりと入れ替わる場面から物語は本格的に動きはじめます。

読みどころ

この作品の醍醐味は、仕掛けの数と推理の筋道、その両面で読ませる謎解きの密度にあります。

事件は、VR空間と現実の両方で起こります。事件の舞台が一つではないことで、謎の置き場所はそのぶん広がります。

そこに、素人探偵が8名。一人の名探偵が謎に向き合う物語とは違い、多くの探偵が同じ事件を前にするという図式そのものが、この作品の華やかさを形づくっています。

大切な人の命が懸かったなかで、探偵たちは次々に繰り出される仕掛けを受け止め、筋道を立てて解き明かしていくしかありません。

もうひとつは、シリーズ第三弾としての広がりです。第一弾の探偵役である加茂と、島での事件を経た佑樹が、同じ会場で同じ危機に巻き込まれます。

これまで別々の物語にいた二人が、今度は仮想の空間という新しい舞台に立つ。前二作を追ってきた読者にとっては、別々の場所で動いていた線が一点に集まる巻でもあります。

こんな人におすすめ

VRやゲームといった現代的な題材と、本格の謎解きとの組み合わせに興味がある人に薦められます。多くの探偵が一つの会場に集い、命を賭けて謎に挑む筋立てを好む人にも向いています。

一方、登場人物の来歴を順を追って知りたい人は、前二作を先に手に取っておくとよいでしょう。二人がそれぞれどんな事件をくぐってきたかは、前二作で語られています。

作品の背景

『名探偵に甘美なる死を』は、〈竜泉家の一族〉三部作の完結編として、2022年1月に東京創元社から単行本で刊行されました。「2023本格ミステリ・ベスト10」の国内編では4位に入り、三部作のなかでいちばん高い順位を得ています。

2023年の第23回本格ミステリ大賞でも、小説部門の候補作のひとつに挙がりました。

三部作は2019年の『時空旅行者の砂時計』に始まり、翌2020年の『孤島の来訪者』へと続きました。第一作ではタイムトラベルを、第二作ではまた別の設定を物語の土台に据えています。

この巻で選ばれたのは、VRという仮想の空間です。

手に取るなら

現在手に取るなら、創元推理文庫版です。解説は杉江松恋が担当しています。

時を越える旅から始まったシリーズは、この巻でメガロドン荘という新しい会場にたどり着きます。ゲームとして用意された謎解きが、命の懸かった謎解きへと変わります。

その転換点に、三部作の最後の幕が上がります。

方丈貴恵について

方丈貴恵は1984年、兵庫県姫路市の生まれです。京都大学を卒業し、在学中は京都大学推理小説研究会に所属していました。

ゲーム会社勤めを経て、2019年に『時空旅行者の砂時計』で第29回鮎川哲也賞を受けてデビューしています。

同作に始まる〈竜泉家の一族〉三部作は、タイムトラベルをはじめ作品ごとに異なる特殊な設定を持ち込みながら、謎解きの骨格は本格の作法で組み立てるシリーズでした。第二弾『孤島の来訪者』は2020年のSRの会ミステリーベスト10で1位に選ばれています。

三部作を書き終えたあとは、光文社から『アミュレット・ホテル』、講談社から『少女には向かない完全犯罪』と発表の場を広げ、『名探偵に甘美なる死を』と『アミュレット・ホテル』で2年続けて本格ミステリ大賞の候補に挙がりました。

書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
刊行年
2022
系譜
現代国内 / 特殊設定本格 · メタ本格

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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