現代国内 2011
赤ずきんは狼に食べられた。
そう書き残して不登校に。
『ロートケプシェン、こっちにおいで』相沢沙呼

書評

ロートケプシェン、こっちにおいで

不登校の少女が書き残した一行を巡る謎に、マジシャンの少女が挑むシリーズ第二集。

ロートケプシェン、こっちにおいで 表紙画像
相沢沙呼 東京創元社(創元推理文庫)2011年
目次

冬休みは、ふつうなら学校から解き放たれる、待ち遠しい季節です。けれども相沢沙呼『ロートケプシェン、こっちにおいで』の語り手にとって、それは会いたい相手に会えないまま、悶々と過ぎていく日々でしかありません。

カラオケの席で急に泣き出した同級生と、一行の言葉を書き残して学校に来なくなった少女。二つの出来事を抱えて、語り手は手品師の少女のもとへ向かいます。

女子高生マジシャン・酉乃初の推理を描く、シリーズの第二集です。

物語の入り口

季節は冬休みです。高校生の語り手は、探偵役を務める同級生と会えずにいます。

休みに入って学校がなければ、顔を合わせる機会もない。会いに行く口実も見つからないまま、日にちだけが過ぎていく——そんな冬の始まりです。

そのもどかしさを抱えて過ごす彼を、クラスメイトの織田さんがカラオケへと誘います。

ところが当日、織田さんは急に泣きながら立ち去ってしまいます。直前まで一緒にいたはずの同級生に、いったい何があったのか。

彼には、その理由の見当がつきません。カラオケに誘ったのは彼女のほうだったのに、その本人が真っ先に席を立ってしまう。

取り残された側には、戸惑いだけが残ります。気晴らしのつもりで出かけた先で、彼はかえって、答えの出ない問いを持ち帰ることになります。

休暇のひとこまが、ひとつの謎に変わる瞬間です。

一方、学内には別の謎がありました。「赤ずきんは、狼に食べられた」。

そう書き残して、ひとりの少女が学校に来なくなっていたのです。童話の一場面を切り取ったような、短く、どこか不穏な言葉。

書き残した本人が姿を見せない以上、言葉だけがそこに置き去りにされています。

彼は酉乃の力を借りるべく、レストラン・バー『サンドリヨン』へ向かいます。会えずにいた相手のもとへ、今度ははっきりとした用件を携えて出かけていくわけです。

収録は5編。「アウトオブサイトじゃ伝わらない」「ひとりよがりのデリュージョン」「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」「スペルバウンドに気をつけて」「ひびくリンキング・リング」。

どの題にも、片仮名の言葉と日常の口ぶりとが組み合わされています。読者は彼と同じく、答えを持たないまま『サンドリヨン』の扉を押すことになります。

読みどころ

第二集の謎は、一行の書き置きと、同級生の涙から始まります。

泣いて立ち去ったのはなぜか。なぜ、その言葉を残したのか。

どちらの問いも、きっかけとなる出来事そのものは小さなものです。けれども問いの形はくっきりしていて、彼は答えを見つけられないまま、それを抱えて休みの日々を過ごすことになります。

日常のすぐ隣に口を開けた問いから物語が動き出すところに、この学園ミステリらしい味わいがあります。学校から少し離れた休暇の時間が舞台に選ばれていることで、教室の出来事がかえって遠く、手の届きにくいものとして浮かび上がってきます。

もうひとつは、第二集ならではの入り方です。彼は、会いたいのに会えない相手のもとへ、謎という用件を携えて出かけていきます。

会いたい気持ちと謎解きの依頼が、同じ足取りの中に重なっている——探偵役を訪ねる場面が、そのまま語り手の心の揺れを映す場面にもなっています。店の扉を押すという同じ動作に、会いたさと頼みごとの両方が込められている。

シリーズを順に追ってきた人ほど、その重なりに目がとまるはずです。題名のロートケプシェンは、ドイツ語で赤ずきんを指す言葉です。

童話の響きをまとった題名と、軽やかな片仮名の題を並べた目次が、シリーズの色合いをよく伝えています。

こんな人におすすめ

血の流れる事件を求めて開くと、題材が穏やかに映るかもしれません。ただ、学校生活の中の小さな謎を、手品を得意とする探偵役が解きほぐしていく読み心地を好む人には、前作から続けて手に取る楽しみのある連作です。

年頃の男の子の、会いたい気持ちとためらいとが入りまじる語りに、覚えのある人もいるでしょう。

作品の背景

『ロートケプシェン、こっちにおいで』は、2011年11月に東京創元社から単行本で刊行された、〈酉乃初の事件簿〉シリーズの第2作です。第1作は、2009年に第19回鮎川哲也賞を受けた『午前零時のサンドリヨン』。

その受賞作で世に出た作家が、2年後に同じ探偵役を呼び戻し、今度は5編を収めた一集として送り出しました。デビューから間もない時期に書かれたシリーズの続巻です。

手に取るなら

いま手に取るなら、創元推理文庫版です。2015年1月に文庫化され、398ページ。

解説は瀧井朝世が担当しています。同じ探偵役と語り手の物語なので、刊行順に『午前零時のサンドリヨン』から読むほうが、二人の距離をより確かに感じ取れるはずです。

童話の一場面のような一行を携えて、彼が『サンドリヨン』へ向かうところから、この第二集の冬は動き出します。

相沢沙呼について

相沢沙呼は1983年、埼玉県の生まれです。2009年、凄腕のマジシャンでもある同級生の少女・酉乃初が学内の謎を解く『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受け、デビューしました。

作中のマジックは作者自身もたしなむもので、贈呈式では実演もしてみせています。

その後もマツリカシリーズなど学校を舞台にした青春ミステリを書き継ぎ、『マツリカ・マトリョシカ』は第18回本格ミステリ大賞の候補に挙がりました。2019年の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は「このミステリーがすごい!」2020年版と『本格ミステリ・ベスト10』2020年版でともに国内1位となり、第20回本格ミステリ大賞の小説部門も受けています。

書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
刊行年
2011
ISBN-13
9784488423124
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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