現代国内 2022
富士山、茶、すき焼き、京都。
名物のあるところ事件あり。
『ナゾトキ・ジパング SAKURA』青柳碧人

書評

ナゾトキ・ジパング SAKURA

日本文化に通じた留学生と人望だけは厚い寮代表が、名所名物をめぐる事件に挑む連作。

ナゾトキ・ジパング SAKURA 表紙画像
青柳碧人 小学館(小学館文庫)2022年
目次

日本の文化が大好きで、洞察力のするどいアメリカからの留学生、ケビン・マクリーガル。取得単位は絶望的ながら、男子寮では人望の厚い大学生、長瀬秀次。

青柳碧人『ナゾトキ・ジパング SAKURA』は、この二人が寮の同じ部屋で暮らしはじめるところから動き出す連作ミステリです。桜、富士山、茶、すき焼き、京都。

日本の名所名物をめぐって事件が起こり、気がつけば二人は探偵コンビになっています。

物語の入り口

舞台は精南大学の男子寮《獅子辰寮》です。寮の代表になった長瀬秀次は、四月から二回目の三年生を迎えます。

取得単位は絶望的。それでも寮の仲間からの人望は厚く、代表を任されるだけの信頼を得ています。

寮をまとめる肩書きと、二度目の三年生という身の上。その落差が、この主人公の第一印象を決めています。

新年度、その代表の同室と決まったのが、ロサンゼルス出身のケビンでした。本来なら、一年生のころから付き合いのある気心の知れた平塚優作がルームメイトになるはずだったのです。

それをひっくり返したのは、所属するゼミの雄島総一郎教授の一存でした。ぎりぎりの成績で教授に弱みを握られている身としては、拒否権などあるはずもありません。

こうして、日本の文化を心から愛するアメリカ人と、単位に追われる寮の代表という、ちぐはぐな二人部屋ができあがります。新しいルームメイトの口癖は「ミョーデス!」です。

死体が見つかったのは、その少し前、桜が満開の三月の終わりのことでした。場所は大学の旧学生会館。

第一発見者は寮の後輩で、警察に連行され、事情聴取を受けたという知らせが届く。後輩の無実を晴らすことはできるのか——寮を預かる代表は、この問いの前に立たされます。

読む側は、なにかと巻き込まれがちな秀次の隣で、事件の輪郭を少しずつ知っていくことになります。日本の文化を愛し、するどい目を持つルームメイトが何に目を留めるのか。

その視線の行方を追いかけるところから、コンビの最初の事件が始まります。

読みどころ

題名が示すのは、日本の名所名物がそのまま謎の舞台になる、という連作の約束です。

SAKURA、FUJISAN、CHA、SUKIYAKI、KYOTO。五つのキーワードが、この連作の看板として掲げられています。

誰もが知る名物の名前は、それだけで読み手を呼び込む力を持っています。見慣れた言葉に惹かれて頁を開くと、その先に謎解きが待っている。

入りやすさを題材に任せ、中身は本格で勝負する作りです。

形式にも工夫があります。五編はいずれも、日本の文化を語った本からのエピグラフ、つまり引用の一節で幕を開け、巻末には引用文献のリストが付いています。

事件の前に、日本がどう書かれてきたかの一節を読む。その置き方が、ミステリと文化の読み物のあいだに小さな橋を架けています。

もうひとつは、コンビの釣り合いです。洞察の役を担うのはケビンの側で、相棒の秀次の取り柄は成績ではなく人望です。

頭の切れる外国人と、人に好かれる日本人の学生——役割の分かれ方がはっきりしているぶん、二人の組み合わせは見取りやすい構えです。

こんな人におすすめ

桜や富士山、京都といった題材に親しみのある人なら、キーワードを見ただけで興味が湧くはずです。一話ごとに題材が替わるので、少しずつ読み進めたい人にも向きます。

逆に、陰惨な事件や重い人間ドラマを求める読者には、題材の親しみやすさが物足りなく映るかもしれません。

作品の背景

『ナゾトキ・ジパング SAKURA』は、青柳碧人が始めた新しいシリーズの第1作です。単行本は2022年6月に『ナゾトキ・ジパング』の題で小学館から刊行され、2024年7月に『ナゾトキ・ジパング SAKURA』と改題して小学館文庫に入りました。

翌8月には、シリーズ第2作『ナゾトキ・ジパング HANABI』が出ています。昔話、童話と、誰もが知る物語を謎の器にしてきた書き手が、今度は日本の名所名物そのものを題材に選んだことになります。

手に取るなら

いま手に取るなら、小学館文庫の『ナゾトキ・ジパング SAKURA』です。電子書籍もあり、文庫の解説は三宅香帆が担当しています。

シリーズ第1作なので、第2作『ナゾトキ・ジパング HANABI』へ進むなら、この巻から読むのが自然な順番です。単行本時代の題『ナゾトキ・ジパング』で探すと、同じ作品に行き当たります。

五つの看板を掲げた二人の謎解きは、この巻から始まります。

青柳碧人について

青柳碧人は1980年、千葉市の生まれです。早稲田大学教育学部を卒業し、在学中はクイズ研究会に所属していました。

千葉市の学習塾で学習指導や教材開発に携わるかたわら書いた数学ミステリ『浜村渚の計算ノート』で、2009年に第3回「講談社Birth」小説部門を受けてデビューします。浜村渚のシリーズは長く書き継がれる代表作になりました。

日本の昔ばなしを密室やアリバイ、ダイイングメッセージといった謎解きの型に仕立てた『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は2020年の本屋大賞で10位に入り、西洋の童話を下敷きにした赤ずきんのシリーズも続いています。2025年には、江戸川乱歩と杉原千畝を描いた歴史小説『乱歩と千畝─RAMPOとSEMPO─』が第173回直木三十五賞の候補になりました。

書誌情報

出版社
小学館 / 小学館文庫
刊行年
2022
ISBN-13
9784094073676
系譜
現代国内 / 連作短編

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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