現代国内 1999
ペルシャ猫の謎
『ペルシャ猫の謎』有栖川有栖

書評

ペルシャ猫の謎

森下刑事の主役編、女性の独白、火村の猫の掌編まで。視点の変化を楽しむ国名シリーズ第5弾。

ペルシャ猫の謎 表紙画像
有栖川有栖 講談社(講談社文庫)1999年
目次

いつもの名コンビが少し後ろに下がり、別の人物が前に出てくる。国名シリーズの5冊目は、そんな作品がいくつも混じった風変わりな短編集です。

事件を扱う作品が5編、ごく短い掌編が2編。合わせて7編が、それぞれ違う角度から火村英生と有栖川有栖の世界を見せてくれます。

物語の入り口

幕開けの「切り裂きジャックを待ちながら」は、劇団を舞台にした事件です。看板女優が誘拐され、身代金を要求するビデオが届きます。

映像は鬼気迫るものでしたが、劇団の面々の中には、それを女優の芝居だと受け流す者もいました。そして本番を控えた舞台の上で、思いもよらない形で彼女が見つかります。

血の匂いのする舞台に、愛と憎しみが絡み合う一編です。

「暗号を撒く男」の発端は、一人暮らしの男が殺された家に残された、ちぐはぐな品々。トイレに置かれたセーターをはじめ、部屋ごとに場違いな物が散らばっていて、まるで誰かが暗号を撒いていったかのようです。

こちらは火村が関わった事件を、アリスが酒の席で語って聞かせるという形をとっています。

読みどころ

この短編集のいちばんの面白さは、視点の置き方にあります。「わらう月」は、ある女性の目線で語られる物語。

月に心を惹かれる彼女の独白が、どこか不思議な雰囲気を漂わせます。やがて火村とアリスも彼女の前に現れますが、読者はいつもと反対の側から、二人のふるまいを眺めることになります。

「赤い帽子」では、ふだんは脇を固める大阪府警の森下刑事が主役を務めます。夕方、赤い帽子をかぶってホテルを出た男が、翌朝、豪雨で荒れた川に浮かんでいた。

土砂降りの雨のなか、森下は男の足取りを追い、犯人に迫っていきます。大阪府警の内部誌に連載されたという来歴も含めて、シリーズの中でも珍しい番外編です。

表題作は、「買いなさい。損はさせないから」という強気な惹句とともに送り出された一編。題名どおりペルシャ猫が事件に関わってきますが、中身は読んでのお楽しみというほかありません。

シリーズのなかでもとりわけ挑戦的な一編として知られています。

掌編の2編は、肩の力を抜いて楽しめます。「悲劇的」は、火村のもとに提出された学生のレポートをめぐる小品。

巻末の「猫と雨と助教授と」はボーナス・トラックとして収められたもので、火村の猫好きぶりがよく伝わってきます。謎解きを離れた、くつろいだ二人に会える一編です。

こんな人におすすめ

シリーズを何冊か読み、火村とアリスのふだんの顔にも触れてみたくなった人に向いています。脇役が活躍する番外編や、語り手の内面から謎が立ち上がる作品が好きな人にも楽しめる一冊です。

作品の背景

収録作は1997年から1999年にかけて、『小説現代』の増刊メフィストや『IN★POCKET』『小説NON』などに発表されました。1999年5月に講談社ノベルスから刊行されました。

前作『英国庭園の謎』の2年後で、謎解きの舞台裏にいる脇役の刑事や、事件のない日の二人にまで光を当てた一冊になっています。

手に取るなら

2002年6月に講談社文庫に入り、328ページ。電子版も配信されています。

初めてシリーズに触れるなら前の巻から順に、すでに二人になじんでいるなら、いきなりこの巻からでも十分に楽しめます。

有栖川有栖について

有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。

卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。

作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。

2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫
刊行年
1999
ISBN-13
9784062734509
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物 · 連作短編

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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