葬儀も済まぬうちに次の死。
乱れからくり
隕石による死に続く、馬割家の不可解な死と五角形の迷路。第31回日本推理作家協会賞を受けた長編第2作。
空から落ちてきた隕石が、一人の男の命を奪う。それが、この物語の最初の死です。
男の葬儀が済まないうちに、その幼い息子までが睡眠薬を誤って口にして亡くなり、玩具会社を営む馬割家では、説明のつかない死がそのあとも続いていきます。『乱れからくり』は、この一族の謎と、屋敷の庭に造られた巨大な迷路の秘密を、調査会社の社長と新米助手が追っていく物語です。
第31回日本推理作家協会賞を受賞した、泡坂妻夫の長編第2作。現行版は2024年の創元推理文庫新装版で、解説は阿津川辰海が務めています。
物語の入り口
馬割朋浩は、玩具会社の部長です。その朋浩が、空から落ちてきた隕石に打たれて亡くなります。
弔いの支度も終わらないうちに、今度は幼い息子が、睡眠薬を誤って飲んで命を落とします。父と子が、立て続けに死ぬ。
葬儀の準備と、次の葬儀の準備が重なる。馬割家の空気は、最初から尋常ではありません。
馬割家の死は、そこで止まりません。一族には、人に言えない謎がある。
そして、屋敷の庭には、「ねじ屋敷」と呼ばれる巨大な迷路が造られている。その迷路にも、何かが隠されているらしい。
玩具会社を営む一族の庭に、巨大な迷路。それだけで、この家の来歴が気になります。
この謎に挑むのが、調査会社社長の宇内舞子と、新米助手の勝敏夫です。馬割家の連続死を前に、二人は一族の謎と、ねじ屋敷の秘密に踏み込んでいきます。
名探偵ではなく、調査会社の二人が探偵役を務める。この距離感が、事件の異様さを際立たせます。
調査会社の社長と、仕事を覚えはじめたばかりの助手。玩具会社の一族にとってはよそ者の二人が、その立場から馬割家の奇妙な不幸に向き合っていきます。
読者は、ねじ屋敷の迷路の入口に立たされます。題名の「からくり」は、日本の伝統的な自動機械や仕掛け物の総称です。
からくり人形、からくり玩具、からくり時計。玩具会社の一族の物語にふさわしく、作中にはからくりをめぐる衒学的な解説がふんだんに盛り込まれていて、それ自体が読み物として楽しめます。
奇術師でもある著者が、仕掛け物の世界を題材に選んだ。その取り合わせが、この物語の手ざわりを決めています。
読みどころ
読みどころは、からくりという日本の仕掛け物の世界を題材に、一族の連続死の謎を組み上げた点にあります。 隕石、睡眠薬、巨大迷路、一族の謎。
道具立ての奇抜さは相当なものですが、その奇抜さを支えているのが、からくりをめぐる衒学です。読み物として楽しめる解説が、物語の空気を作っている。
奇術師でもある著者ならではの、仕掛け物への愛着が、ページの隅々に感じられます。
もうひとつは、協会賞受賞作という位置です。長編第2作で、日本推理作家協会賞。
デビューの翌年に出た二作目が、そのまま賞に届いたことになります。1977年の刊行から半世紀近くを経た2024年にも、新装版が組まれました。
隕石と睡眠薬で幕を開ける一族の連続死に、からくりをめぐる蘊蓄を取り合わせた趣向は、いまも古びていません。
こんな人におすすめ
隕石、睡眠薬、五角形の巨大迷路と、並べるだけで首をかしげたくなる道具立ての本格を、からくりの蘊蓄ごと楽しみたい読者に向いています。からくりや仕掛け物に興味のある人には、衒学的な解説そのものが楽しみになるでしょう。
『11枚のとらんぷ』に続く二つ目の長編なので、この作家の出発点に近いところから読み始めたい人にも向いています。逆に、現実的な事件の手触りを求める人には、隕石と巨大迷路という設定は少し遠く感じられるかもしれません。
その遠さが、この作家の遊び場です。遊び場に入る気があれば、ねじ屋敷の迷路はそのまま読書の楽しみになります。
作品の背景
『乱れからくり』は泡坂妻夫の長編の第2作で、第1作は『11枚のとらんぷ』でした。1977年に刊行され、翌1978年、第31回日本推理作家協会賞を受賞しました。
大岡昇平の『事件』との同時受賞です。現行版は、東京創元社の創元推理文庫。
2024年の新装版で、解説は阿津川辰海が寄せています。
手に取るなら
現行版は創元推理文庫の2024年新装版。シリーズには属さない単独の作品ですから、泡坂妻夫の他の作品を読んでいなくても問題ありません。
隕石が降ってきた玩具会社の一族の家へ、宇内舞子と勝敏夫とともに。ねじ屋敷の迷路に、迷い込んでみてください。
半世紀近く前の作品ですが、からくりの世界は、いまも動き続けています。
泡坂妻夫について
泡坂妻夫は1933年、東京・神田の生まれで、本名は厚川昌男です。筆名は本名のアナグラムになっています。
生家は着物に家紋を描き入れる紋章上絵師で、作家になってからも家業を続けました。奇術師としての顔も持ち、1969年には創作奇術をまとめた作品集で第2回石田天海賞を受けています。
1976年、短編「DL2号機事件」が第1回幻影城新人賞の佳作に入ってデビューしました。1978年に『乱れからくり』で第31回日本推理作家協会賞、1982年に『喜劇悲奇劇』で第9回角川小説賞を受けます。
のちには職人の世界を描く人情ものにも筆を広げ、1988年に『折鶴』で第16回泉鏡花文学賞、1990年に『蔭桔梗』で第103回直木賞を受けました。探偵役には亜愛一郎、曾我佳城、ヨギ ガンジーらがいます。
2009年に75歳で亡くなっています。
書誌情報
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