現代国内 2011
死んだ泊まり客は元刑事。
町に縁ある男を逮捕していた。
『真夏の方程式』東野圭吾

書評

真夏の方程式

夏の海辺の町で起きた元刑事の死。物理学者・湯川学と少年のひと夏が交差する。

目次

夏休みを、玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年、恭平。一方、仕事でこの町を訪れた湯川も、同じ宿に泊まることになりました。

翌朝、もう一人の宿泊客が、死体で見つかります。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。

これは事故か、殺人か。『真夏の方程式』は、ガリレオシリーズの第6作にして、長編としては3作目。

海辺の町の夏、旅館、退屈する少年、そして物理学者。序盤の穏やかさと、湯川と恭平という組み合わせが、この物語の温度を決めています。

物語の入り口

玻璃ヶ浦は、海辺の町です。少年・恭平は、夏休みをこの町で過ごすことになりました。

滞在先は、伯母一家が経営する旅館。夏休みの少年にとって、知らない町の旅館で過ごす時間は、まず退屈から始まります。

同じ宿に、もう一人の客が泊まることになります。物理学者の湯川。

仕事でこの町を訪れた彼は、たまたま恭平と同じ旅館に宿を取りました。子どもと物理学者。

ふつうなら接点のない二人が、海辺の旅館で同じ夏を過ごすことになる。この組み合わせが、『真夏の方程式』のいちばんの魅力です。

変わり者の物理学者が、子どもにどう接するのか。それだけで、読者の興味は十分に引かれます。

翌朝、もう一人の宿泊客が、死体で見つかります。その客は、元刑事でした。

しかも、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。海辺の町の、穏やかな夏の朝に、人が死ぬ。

これは事故か、殺人か。元刑事という前歴と、この町との縁。

死んだ客の来歴が、事件の輪郭を少しずつ形づくっていきます。夏の海辺の明るさと、死の影が、同じ町に同居します。

読者は、恭平と同じ目線の高さで、この夏を過ごすことになります。退屈な旅館、変わり者の物理学者、そして朝に見つかった死体。

子どもの夏休みという穏やかな時間のなかに、事故とも殺人ともつかない一件が置かれる。湯川は、いつものように事件に向き合いますが、今回は同じ宿に少年がいます。

事件の推移と、海辺の夏の時間。その二つを、読者は同時に追うことになります。

読みどころ

読みどころは、物理学者と退屈した少年を、海辺の旅館という同じ屋根の下に置いた組み合わせにあります。 ガリレオシリーズの湯川は、いつも警察の側から事件に関わってきました。

この巻では、旅館の客として、少年の隣にいます。警察の側から事件に呼ばれるのではなく、夏休みの子どもがいる宿に、物理学者がたまたま泊まり合わせる。

その配置が、シリーズのなかでこの巻の景色を変えています。物理学者が事件に向き合うというシリーズの骨組みはそのままに、物語の温度は、これまでの長編とは少し違うところにあります。

もうひとつは、海辺の町の夏という舞台です。旅館、海、夏休み。

序盤の穏やかさは、それ自体が読み心地の良さになっています。事故か殺人か、という問いを抱えながら、読者は夏の海辺の空気を吸うことになる。

心理サスペンスの緊張と、夏休みの穏やかさ。二つが同居した、シリーズのなかでも独特の手触りの一冊です。

こんな人におすすめ

少年と大人の探偵役が並んで歩く物語を読みたい読者、夏の海辺という舞台に惹かれる読者に向いています。『容疑者Xの献身』『聖女の救済』と読んできた人には、湯川が警察の側ではなく旅館の客として事件のそばにいる3作目の長編が、シリーズの別の顔を見せてくれるはずです。

逆に、緊迫した展開を最初から求める人には、海辺の町と伯母一家の旅館の様子を描き込んでいく序盤が、回り道に映るでしょう。夏の海辺の空気ごと味わうのが、この一冊の正しい読み方です。

作品の背景

本作は『週刊文春』の連載を経て、2011年6月に文藝春秋から刊行されました。ガリレオシリーズの第6作で、長編としては『容疑者Xの献身』『聖女の救済』に続く3作目です。

刊行の年の『週刊文春ミステリーベスト10』では国内部門9位に入りました。2013年6月には西谷弘監督、福山雅治主演で映画化され、ドラマ『ガリレオ』の劇場版第2作として、2013年度の邦画興行収入で第1位になっています。

現行版は文春文庫で464ページ。シリーズ累計は1320万部を突破しています。

手に取るなら

現行版は文春文庫。ガリレオシリーズの第6作ですが、本作単独でも筋は追えます。

読むなら、できれば夏に。物語の季節も、恭平が玻璃ヶ浦の伯母一家の旅館で過ごす夏休みのあいだで、最後の頁まで、海辺の町の夏が続いています。

海辺の旅館で、少年と物理学者の隣に座ってみてください。夏の終わりまで、その席は空いています。

東野圭吾について

東野圭吾は1958年、大阪市生野区の生まれです。大阪府立大学工学部電気工学科を卒業し、日本電装(現デンソー)の技術者として働きながら推理小説を書き、1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受けてデビューしました。

翌年に会社を辞めて上京し、専業作家になっています。

長く大きな話題作に恵まれない時期が続きましたが、1998年の『秘密』が広く読まれ、翌年の第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞しました。2006年には『容疑者Xの献身』で第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞を受けました。

刑事・加賀恭一郎と物理学者・湯川学のシリーズを軸に、学園もの、本格の謎解き、サスペンス、ミステリの約束事を笑うパロディまで幅広く書き、2023年には著作の国内累計発行部数が1億部を超えています。同じ年に菊池寛賞、2024年に日本ミステリー文学大賞を受け、2026年7月に68歳で亡くなりました。

書誌情報

出版社
文藝春秋
刊行年
2011
ISBN-13
9784167110154
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物
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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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