現代国内 1989
宝捜しの島で二人が撃たれた。
無線機は壊されている。
『孤島パズル』有栖川有栖

書評

孤島パズル

モアイ像の宝捜しと、嵐の夜の凶弾。絶海の孤島を舞台にした江神二郎シリーズ第2作。

孤島パズル 表紙画像
有栖川有栖 東京創元社(創元推理文庫)1989年
目次

英都大学推理研初の女性会員、マリア。彼女とともに、江神部長とアリスは、南海の孤島へ赴きます。

島に点在するモアイ像のパズルを解けば、時価数億円のダイヤが手に入るという。三人は早速、宝捜しを始めます。

ところが、折悪しく嵐となった夜、滞在客のふたりが凶弾に斃れる。救援を呼ぼうにも無線機は破壊され、絶海の孤島に取り残されたアリスたちを、更なる悲劇が襲う。

『孤島パズル』は、江神二郎シリーズの長編第2作で、シリーズの他の作品と同じく、作中に「読者への挑戦」が置かれています。モアイ像と、宝と、嵐の夜の銃声。

孤島という盤面で、論理派本格が真正面から組み上がります。

物語の入り口

英都大学推理小説研究会に、初めての女性会員が入りました。マリアです。

彼女に誘われて、部長の江神二郎と、後輩のアリスは、南海の孤島へ渡ることになります。夏の島、宝捜し。

それだけなら、大学生の休暇の延長のような話です。

島には、モアイ像が点在しています。そのパズルを解けば、時価数億円のダイヤが手に入るという。

推理小説研究会の三人が、宝捜しに乗り出さないはずがありません。モアイ像の配置に何が隠されているのか。

三人は早速、島を歩き始めます。推理小説の読み手が、現実の謎に手を出す。

その高揚が、序盤の空気です。

ところが、折悪しく嵐となった夜。滞在客のふたりが、凶弾に斃れます。

宝捜しの島が、一夜にして殺人の現場になる。救援を呼ぼうにも、無線機は破壊されていました。

嵐の海に囲まれた絶海の孤島に、アリスたちは取り残されます。そして、更なる悲劇が襲う。

モアイ像の並ぶ宝の島が、脱出のできない檻に変わります。昼間はダイヤの謎を追っていた三人が、夜には嵐と死者に囲まれている——江神二郎、アリス、マリアの休暇は、ここで終わります。

読者は、嵐に閉ざされた孤島に、推理小説研究会の一員として取り残されます。宝の謎と、殺人の謎。

二つの問いが同じ島の上に置かれている。江神二郎は、その両方に向き合うことになります。

そして、作中には「読者への挑戦」が置かれています。示された手がかりで、読者にも答えが出せる。

そう作者が宣言している以上、読む側も本気にならざるを得ません。

読みどころ

絶海の孤島という一つの盤面に、宝捜しと殺人事件、二つの謎が同時に置かれています。 モアイ像の配置というパズルと、嵐の夜の凶弾。

片方は遊戯の謎で、片方は生死の謎。まるで温度の違う二つの問いが、同じ島の上にある。

論理派本格の書き手が、この二つをどう扱うのか。それを見届けることが、この一作を読む楽しみです。

もうひとつは、「読者への挑戦」です。江神二郎シリーズの長編には、作中に読者への挑戦が置かれています。

この第2作も、その例に漏れません。手がかりはすべて示した、あとは読者が解く番だ——という宣言です。

デビューと同じ年に出た第2作で、有栖川有栖はこの構えを堂々と貫いています。出発したばかりの時期に、この作家がどう筋道を組んでいたかを確かめられる一冊です。

こんな人におすすめ

孤島とクローズドサークルの盤面に心が躍る読者、読者への挑戦を真に受けて自分で考えたい読者に向いています。『月光ゲーム』で江神二郎シリーズに入った人なら、次に開くのはこの第2作です。

逆に、人物の情感や物語の厚みを第一に求める人には、パズルの乾いた手触りが少し物足りないかもしれません。乾いているからこそ、論理の切れ味が際立ちます。

作品の背景

『孤島パズル』は、デビュー作と同じ1989年の7月に、東京創元社から単行本として刊行されました。332ページ。

1996年8月に創元推理文庫に入り、402ページ。現行版はこの文庫版で、電子版もあります。

2009年には鈴木有布子の作画でコミック版が全3巻、2016年には英語版 The Moai Island Puzzle が出ています。『東西ミステリーベスト100』2012年版では、第95位に選ばれました。

手に取るなら

現行版は創元推理文庫。江神二郎シリーズの第2作ですが、本作単独でも筋は追えます。

とはいえ、シリーズの探偵役と語り手の関係を知っているほうが読みやすいので、『月光ゲーム』の次に読むのが自然です。モアイ像の点在する孤島へ、嵐の来る前に渡ってみてください。

読者への挑戦が来たら、そこで一度、本を閉じて考える時間を。それまでに示された材料だけで自分の答えを組み立ててから先へ進めば、江神部長の推理を自分の推理と並べて読めます。

有栖川有栖について

有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。

卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。

作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。

2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。

書誌情報

出版社
東京創元社 / 創元推理文庫
刊行年
1989
ISBN-13
9784488414023
系譜
現代国内 / クローズドサークル · シリーズ探偵物

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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