現代国内 1992
密室の巨匠を殺したのは、
彼自身のトリックか。
『46番目の密室』有栖川有栖

書評

46番目の密室

45の密室を書いてきた大家が46番目の密室で死ぬ、火村英生シリーズの第1作。

46番目の密室 表紙画像
有栖川有栖 講談社(講談社文庫 新装版)1992年
目次

クリスマスの北軽井沢。別荘の主は、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一です。

その別荘に招かれた客たちが、主の死に行き当たる。有栖川有栖『46番目の密室』は、密室を作り続けてきた男が、自分の考えた46番目のトリックで殺されたのではないか、という疑いを抱えて動き出します。

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが初めて世に出た、火村英生シリーズの第1作。30年を超えて続くシリーズの、これが出発点です。

密室を解く者ではなく、密室を作る者が、事件の中心に置かれています。

物語の入り口

真壁聖一は、推理小説の大家です。発表した密室トリックは45に及び、日本のディクスン・カーと称される。

密室の巨匠、と呼ばれる人物です。密室ものを45作も書いた作家というのは、それだけで一種の怪物です。

密室というものを、誰よりも知り尽くした人物。その彼が、クリスマスに、北軽井沢の別荘へ客を招きます。

招待された客たちが見つけたのは、変わり果てた主の姿でした。密室の巨匠が、死んでいる。

問いは、こうです。彼は、自らの46番目のトリックで殺されたのか。

45の密室を作ってきた男が、46番目の密室のなかで死ぬ。しかもそれが、彼自身の考案したトリックによるものだとしたら。

クリスマスの客として北軽井沢へ招かれた人々は、こうして、屋敷の主の死に居合わせることになりました。

この状況の奇妙さは、密室ものを読み慣れた人ほど、強く感じるはずです。ふつう、密室は解かれるためにあります。

探偵が現れ、施錠された部屋の謎を開く。ところが本作では、密室を作ることを生業にしてきた人物が、密室のなかで死んでいる。

解く側ではなく、作る側が、事件の中心にいる。その構図が、出発点らしい緊張を生んでいます。

読者は、クリスマスの北軽井沢の別荘に、招待客の一人として立たされます。そこに、臨床犯罪学者の火村英生と、推理作家の有栖川有栖がいる。

この二人の組み合わせが、ここから30年以上続くことになる。シリーズの第1作を読むというのは、その最初の一歩に立ち会うことです。

密室の巨匠の死を前に、火村がどう動くのか。読者はそれを、有栖川の目を通して見ることになります。

読みどころ

本作の核にあるのは、密室を作り続けてきた作家が、自作のトリックで殺されたのかという問いそのものです。 45の密室トリックを発表した作家が、46番目の密室で死ぬ。

密室ものという型そのものを、題材にしている。日本のディクスン・カーと称された人物の死を、論理派本格の書き手がどう扱うのか。

密室ものを読んできた人ほど、この構図の面白さは深く届きます。しかも舞台は、クリスマスに客を招いた別荘です。

華やぐはずの季節の只中に、主の死が置かれる。その取り合わせも、幕開けの効き目を強めています。

もうひとつは、火村英生シリーズの出発点であることです。臨床犯罪学者と推理作家。

フィールドワークと称して事件に関わる学者と、それを書き留める作家。この二人の関係が、ここから始まります。

この作品はいまも、30年を超えて続いたシリーズの入り口として読み継がれています。

こんな人におすすめ

密室ものが好きな読者、シリーズの第1作から順に読みたい読者に向いています。火村英生シリーズをこれから読む人は、刊行順どおりここから。

ドラマ版から入った人にも、原作の出発点として薦められます。逆に、人物の情感や物語の厚みを第一に求める人には、初期作の論理の硬さが少し乾いて感じられるかもしれません。

乾いた論理こそが、この作家の持ち味です。

作品の背景

刊行は1992年3月、講談社ノベルスから。著者が専業作家になる1994年より前、まだ書店に勤めながら書いていた時期の作品です。

現行版は講談社文庫の新装版で、434ページ。作家デビュー20周年を機に新装化されたもので、2014年からは電子版も配信されています。

臨床犯罪学者の火村英生と、推理作家の有栖川有栖。この二人が初めて登場した一冊で、シリーズは以後30年を超えて続き、TVドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」の原作にもなりました。

手に取るなら

現行版は講談社文庫の新装版。火村英生シリーズの第1作ですから、シリーズを順に読むならここから始めるのが自然です。

事件は一冊で完結していますから、本作単独でも問題ありません。クリスマスの北軽井沢へ、密室の巨匠の招待に応じてみてください。

46番目の密室が、そこにあります。シリーズの30年は、この一室から始まりました。

有栖川有栖について

有栖川有栖は1959年、大阪市の生まれです。小学生のころから推理作家を志し、同志社大学法学部では推理小説研究会に所属しました。

卒業後は書店に勤めながら書き続け、1989年に『月光ゲーム Yの悲劇'88』でデビューします。1994年に書店を辞め、専業作家になりました。

作品は大きく二つの系列に分かれます。江神二郎が探偵役を務める学生アリスのシリーズと、臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖が組む作家アリスのシリーズです。

2003年に『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、2008年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞、2018年に火村英生シリーズで第3回吉川英治文庫賞、2022年に第26回日本ミステリー文学大賞を受けました。2000年から2005年までは本格ミステリ作家クラブの初代会長も務めています。

書誌情報

出版社
講談社 / 講談社文庫 新装版
刊行年
1992
ISBN-13
9784062764278
系譜
現代国内 / クローズドサークル · シリーズ探偵物

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リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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