現代国内 2023
依頼人は先生。
名探偵は四年一組にいる。
『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』知念実希人

書評

放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件

殺人の起きない学校の事件を、大人向けと同じ手続きで解かせる一冊。

放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件 表紙画像
知念実希人 ライツ社(放課後ミステリクラブ)2023年
目次

この事件では、だれも死にません。夜の学校のプールに、だれかが金魚を放った。

謎はそれだけです。知念実希人『放課後ミステリクラブ 1 金魚の泳ぐプール事件』は、殺人の起きない学校の出来事を、本格ミステリの手順で解いていく児童書です。

9歳の子どもから大人までを読み手に想定して創刊されたシリーズの、第1巻にあたります。

物語の入り口

舞台は、夜の学校です。水を張った学校のプールに、金魚が泳いでいる。

だれかが放ったのは確かでも、だれが、なんのためにそんなことをしたのかはわかりません。物語のまんなかに置かれる謎は、この二つの問いです。

殺人事件は起きません。代わりにあるのは、学校のプールと金魚という、子どもたちにとって身近な場所と生き物の組み合わせです。

動き出すのは、4年1組の三人です。辻堂天馬、柚木陸、神山美鈴。

通称「ミステリトリオ」。三人に事件を持ちこんだのは先生です。

依頼人は先生——子どもたちは大人から頼まれて、学校で起きたふしぎな出来事を調べはじめます。事件簿の一ページ目は、依頼を受けるところから開きます。

三人のうち、名探偵の役を担うのは辻堂天馬です。その天馬が、物語のなかで読者に向かって挑戦を宣言します。

答えを待つだけでなく、自分でも推理してみよ、という呼びかけです。読み手は、トリオの推理を横で見守るだけの立場にはとどまりません。

名探偵から名指しで挑まれる側に立たされます。

もくじには、「ミステリトリオ参上」「ひみつきちの三人」「お祭りの夜」「夜のおじぞうさん」「だれが金魚をはなしたか?」「名探偵の名推理」の六つの章題が並びます。挿し絵は、1996年生まれで2020年からフリーランスとして活動するGurin.が担当しています。

夜のプールに泳ぐ金魚という一枚の絵から、三人の放課後の捜査が始まります。

読みどころ

このシリーズの芯にあるのは、殺人のない学校の事件を、大人向けと同じ組み立てで書くという約束です。

著者自身が、この巻について「大人のミステリ小説とまったく同じ手法で書きました」と語っています。殺人事件は起きない——それでもトリックは本格的で、名探偵は読者への挑戦を宣言し、謎を解く手順は大人向けの本格ミステリと変わりません。

子どもたちが人生で初めて読むミステリとして書かれた本で、張られた伏線が回収される手ごたえを、最初の読書で味わえるように組まれています。題材は学校の金魚でも、推理の骨組みは大人向けと同じ。

考えることそのものの楽しさと、答えにたどり着いたときの気持ちよさを、子どもの読み手に届けようとしています。

もうひとつは、読み手の年齢の幅を広く取るための作りです。漢字にはすべてフリガナが付いています。

判型は四六判、160ページ。人が殺される場面がないので、小さな読み手にも安心して勧められます。

受け入れられ方も数字に表れていて、2026年2月の時点で20刷、累計14万7,000部。全国学校図書館協議会の選定図書にも選ばれています。

こんな人におすすめ

初めて一人で推理小説を読む子どもに、まず手渡しやすい本です。フリガナが全部に付き、事件は殺人ではなく金魚。

それでいて、名探偵から挑戦を受けるという本格の楽しみはそのまま入っています。大人の本格ミステリ読者が、子どもと同じ謎に並んで取り組むための本としても選べます。

親子で一つの謎を分け合い、天馬の挑戦にそれぞれの答えを持ち寄る読み方もできるでしょう。

作品の背景

知念実希人が子ども向けに立ち上げたのが〈放課後ミステリクラブ〉で、第1巻は2023年6月26日にライツ社から刊行されました。翌2024年の第21回本屋大賞では148点を集めて9位。

大人向けの作品と同じ順位表に、児童書の第1巻が名前を連ねたことになります。2026年には第15回箕面・世界子どもの本アカデミー賞の作品賞も受けました。

候補5作品に投じられた2,694票のうち、722票を集めての受賞です。

手に取るなら

現在手に取るなら、ライツ社の四六判単行本で、本体価格は1,320円です。シリーズの第1巻なので、読むならこの巻から始めるのが順当です。

第2巻は『雪のミステリーサークル』で、ミステリトリオの事件はそこへ続いていきます。夜のプールに泳ぐ金魚の謎が、トリオの引き受ける最初の依頼です。

知念実希人について

知念実希人は1978年、沖縄県の生まれです。2004年に東京慈恵会医科大学を卒業して医師となりました。

内科医として勤務するかたわら小説を書き、2011年に「レゾン・デートル」で第4回島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受けます。翌2012年、同作が『誰がための刃 レゾンデートル』として刊行され、作家としてデビューしました。

医師としての知識と経験を生かした医療ミステリで知られ、「天久鷹央」シリーズや、2015年に啓文堂書店の文庫大賞を受けた『仮面病棟』などを書き継いできました。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』、児童書の『放課後ミステリクラブ』と、本屋大賞の候補に挙がった作品も数多くあります。

書誌情報

出版社
ライツ社 / 放課後ミステリクラブ
刊行年
2023
ISBN-13
9784909044457
系譜
現代国内 / シリーズ探偵物
受賞歴
·

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この記事を書いた人

リットン

都内金融機関で経営企画とデータアナリストをしているアラサー。
文系の非エンジニアですが、独学で始めた Python と生成AIにすっかりはまりました。
プログラミング・サッカー・ミステリ紹介など、好きなことを好きに書いています。

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